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8章
気分はお祭り【2】
しおりを挟む私達が泊まっている宿屋から一番近いのは、貴族エリアにある教会。パパ達が忙しい合間をぬって時間を空けてくれたらしいので、貴族に会わないことを願いながら貴族エリアの教会に向かう。
〈このゲタと言うのは音が面白いな〉
「この靴はとても楽ですね。グレン様のニジゲンもそうですが、セナ様はいろいろな服を知っているのですね」
「これは私がいたところのお祭りの日とかに着る服なんだよ」
こちらの世界にもお祭りがあるのか聞いてみると、国によってはあるらしい。ただ内容は、厳かな神事だったり、平民まで盛り上がるお祭りらしいお祭りだったりと、バラバラなんだそう。
楽しめるお祭りはぜひ参加してみたい!
◇
教会には他の貴族がおらず、私達の貸し切り状態だった。
みんなでお祈りをすると、ガイ兄の声で「手間取らせて悪いけど、コテージから神界に呼ぶよ」と言われてしまった。
ここからだと何か不都合があるらしい。
急いで宿屋に戻って部屋からコテージに入ると、パパ達が待ち構えていた。
「セナさーん!」
「おぶっ!」
エアリルパパが突進してきて、思いっきり顔がエアリルパパの胸にぶつかった。
痛いぞ、パパ。
「セナさんとっても可愛いですー!」
「うむ、うむ! 皆も似合っておるの」
「とりあえず神界に移動しようか」
ガイ兄の指パッチンで神界に移動した後、リビングのソファでなぜかイグ姐の膝の上に座らされた。
「可愛い、可愛い」と髪の毛が崩れないように私の頭を撫で続けるイグ姐を気にしないようにして、あの教会ではダメだったのか聞くと、教会の関係者に私達が注目されていたんだそう。
「おそらくセナさんのその浴衣が珍しかったからだと思うんだけど、こちらに呼んでいる間に何かあっても困るからね。行ったり来たりさせちゃってごめんね」
「ううん。そっか……ありがとう」
ガイ兄が説明してくれた。
貴族のことしか考えてなかったけど、まさか浴衣のせいで教会の人にまで注目されちゃうとは……
「最初から俺達がコテージに来れば良かったんだ。気にするな。それにしても、セナの浴衣は可愛いな」
「パパ達のサイズがわからなかったからパパ達のは作ってないの。その代わりにコレ作ったよ!」
アクエスパパとエアリルパパには浴衣の帯で作った片耳ピアス、イグ姐とガイ兄には髪を結ぶ用のリボンを手渡す。
「わぁー! ありがとうございます!」
「セナと一緒の模様だな!」
早速パパ達二人はとても嬉しそうに着けてくれた。
喜んでもらえて私も嬉しいよ!
「私達、お昼ご飯まだなの。パパ達も一緒に食べよ?」
隣りに座るエアリルパパにガゼボがいいとリクエストして、ガゼボの草原に移動した。
「今日はお祭りメニューだよ!」
ガゼボのテーブルにお好み焼き・広島風お好み焼き・たこ焼き・焼きそば風うどん・イカ焼き・フランクフルト・じゃがバター・タンドリーチキンモドキをどんどんと出していく。
ほとんど炭水化物! そして半分ソース味!
「へぇー。これはなんだ?」
「それはたこ焼きだよ。中にタコが入ってるの。ソースが手に入ったから作りたくて」
「セナの新メニューじゃな!」
冷めないうちにと、みんなで「いただきます」をしてから食べ始める。
うん。美味しい! めっちゃ久しぶり! 幸せの味がするー!
「美味しいです!」
「熱゛っ! いが美味い!」
「さすがセナじゃの!」
「美味しいね」
〈セナ! この肉はなんだ!? 美味いぞ!〉
パパ達が感想を言ってくれていると、グレンが興奮した様子で聞いてきた。
グレンはタンドリーチキンモドキが気に入ったらしい。
ヨーグルトがないため、牛乳を使った完全になんちゃってタンドリーチキン。ソースとスパイスのおかげでなんとかモドキくらいまで味を似せられた。ちなみに肉は怪鳥と呼ばれていたダチョウの肉を使ってみた。
みんなパクパク食べてくれて、どんどんおかわりを出していく。
みんなが満足したところで、デザートのいちご飴を出すと大喜びされた。
「これも絶品じゃのぅ」
「ふふっ。良かった」
『ねぇ、主様。結局ユカタの模様の意味ってなぁに?』
「あぁ、それはね……」
質問してきたクラオルを撫でながら、「“五(い)つの四(よ)までも末永く”って意味だよ」と教えてあげる。
本当は、昔通い婚が主流だった時代に奥さんから旦那さんに送ったモノだけど、その辺の説明は省かせてもらった。じゃないと結婚と受け取られちゃいそうだからね。
ポラルだけは前に説明したから知っているけど、たぶん内緒にしていてくれると思う。
『主様……』
「素敵な意味が込められているんだね」
「おわっ!」
ガイ兄に反応しようと思ったらエアリルパパに抱きしめられた。グリグリと頬ずりしてくるエアリルパパを見上げると、ウルウルと泣きそうな顔をしていた。
「ふふっ。パパ泣きそう」
「うぅ……セナさ~ん」
「長い!」
「あぁっ!」
アクエスパパがエアリルパパから私を奪い取った。
ちょこんとアクエスパパの膝の上に横座りさせられ、アクエスパパからも頬ずりされた。
「俺達とずっと一緒ということだろ?」
「うん、そんな感じかな? これからもよろしくねって」
「俺達はそう思っていたが、セナから言われると嬉しいもんだな」
「改めて言うと恥ずかしいね」
「うぅ……セナさーん!」
えへへと恥ずかしさを誤魔化すように笑うと、エアリルパパがギュムゥと抱きついてきた。
「エアリルはさっきまでくっ付いていただろうが!」
「いいじゃないですか! 僕のセナさんです!」
「俺のセナでもある!」
パパ達二人が言い合いを始めてしまったので、いそいそと膝の上から降りると、ガイ兄に手招きされた。
「お祭りってどんなことするのかな?」
「んー。屋台でご飯食べて、神社にお参りしたり、お神輿とか見るかな? 屋台が集まったらお祭りって感じなんだけどね。花火大会とかなら食べながら鑑賞したりするよ」
「ハナビ?」
わかっていないガイ兄に花火の絵を描きながら説明すると、クラオルが『素敵ねぇ』とうっとりと呟いた。
「ふむ。それはいいの!」
「イグ姐もガイ兄も浴衣似合いそうだよね」
イグ姐は花魁も似合いそうだし、パパ達はイケメンだからグレン同様何着てもカッコイイ。
「なら、セナさんが私達の浴衣のデザインを考えてくれるかな?」
「いいよ~。今?」
ガイ兄に確認を取ると、頷かれたので紙とペンを出して描いてみる。
デザインと言われてもたぶん浴衣の柄は私達と同じ方がいいだろうし、帯の結び方も同じ。ほとんど似顔絵の浴衣バージョンを描くことになった。
ただ、せっかくなので私達とは色違いにしてみる。カラーマーカーペンで色付けしている最中に、イグ姐に「妾も!」と言われて、結局パパ達四人のを描くことになった。
「下手っぴでごめんね」
「なるほど。これならできそうだね」
「へ?」
何ができそうなのかわからず首を傾げると、ガイ兄が指を鳴らした。
「えぇー!?」
「どうかな?」
「どうかなって、想像以上に似合っててカッコイイけど……なんで? どういうこと?」
目の前でデザイン画通りの浴衣姿になったガイ兄に説明を求めると、実際に作ったワケではなく、見た目だけ変えたんだそう。いつの間にか髪紐も私があげた八重山ミンサー織の髪紐に変わっていた。
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