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8章
気分はお祭り【1】
しおりを挟む朝ごはんを食べようと下に降りるとイペラーさんから手紙を四通渡された。
差出人はアーロンさん、冒険者ギルド、商業ギルド、タルゴーさんからだった。
アーロンさんからは、昨日手紙を受け取らずに従者が帰ってきちゃったから手紙は宿のイペラーさんに頼んでくれと書かれていた。
冒険者ギルドと商業ギルドは予想通り素材の買い取りについて。
タルゴーさんからは、お店で買い物のお礼と、買ったものに使い道があるなら教えて欲しいと書かれていた。
特に道具類と一緒に置かれていた粉は、目つぶしとして魔物に撒く以外に使い道がなかったらしい。この目つぶしも、投げつけた冒険者もやられる可能性があるため、緊急事態のときのみ使用で、ほとんど売れないんだそう。
私が買ったため、先読みしてゾヌセアの街で冒険者からの買い取りを強化したらしい。
さすがお仕事アンテナを持つタルゴーさん。仕事が早い。
四通それぞれに返事を書いて、イペラーさんにお願いした。
◇
昨日タルゴー商会で買った粉を使った料理を作るため、私達は宿の部屋からコテージへ。
『主様、何作るの?』
コテンと首を傾げながら聞いてくる可愛いクラオルとグレウスを撫でながら、「楽しみにしてて」と抑えきれない笑顔で答える。
タルゴーさんからの手紙で、目つぶしに使うと書かれていたのがカレー粉。
リシータさんが追加で出してくれた粉はソースの粉だった。し・か・も! 中濃ソース、ウスターソース、お好み焼きソース。私の好きな某有名メーカーそっくりな味! 粉だからか味がちょっと濃いめだったけど、水に溶かせば丁度よくなるんじゃないかと思っている。
一番最後にテーブルに出してくれたのはターメリックやシナモンなどスパイス系だった。これはたぶんハーブ扱いされていたんだと思う。同じスパイスなのにカレー粉は目つぶしに使われているっていう不思議。
出汁で食べるたこ焼き……明石焼きのためにゲーノさんにたこ焼きプレートをお願いしていたけど、普通のソースで食べるたこ焼きも作れる!
先にプラプラスライムの核からテイクアウト用に使われるプラスチック容器、たこ焼きピック、ヘラを作って、キッチンへ。
みんなにはお楽しみにしていてもらうため、ジル以外は好きに過ごしてもらう。フンコロガシのフンを持って行ったから、たぶんショユの木とみりんの木に撒いてくれるんだと思う。
「ジルはこれを千切りにしてもらってもいい?」
「かしこまりました」
大量のキャベツをジルに任せて、私はタネ作り。
焼きそばの代用としてうどんの生地を細く切り、天かすも作る。紅しょうががないのが残念すぎる。
もんじゃも食べたいけど、これはまた今度にしよう。
オーブン、フライパン、たこ焼き器、ホットプレートをフル活用して日本のお祭りの出店にあるものを作っていく。ソースの粉で焼きそばモドキもできた。
熱々が美味しいから作ったらすぐに無限収納へ。
チョコバナナもあんず飴も食べたいけど、まだ見つけていないから、デザートはいちご飴にした。
「暑ーい」
鉄板とかの熱はパパ達の服が緩和してくれているけど、せかせかと動き回っているせいで戦っているときより暑い。
「ラムネが飲みたい……」
「ラムネですか?」
「そう。甘くてシュワシュワしてる飲み物だよ。サイダーとも言うんだけど」
「セナ様が仰るのなら美味しいのでしょうね」
きっとジルも好きなんじゃないかな? ビール飲めるから炭酸も大丈夫だろうし。あのビンにビー玉のアレで飲みたいよね。ラムネのはビー玉じゃなくてエー玉だっけ? 麦茶もいいなぁ~。浴衣着て縁側で花火なんてもの素敵! 縁側がないけど。
ジルと話しながら思いつくままに屋台料理を作っていく。
「できたー! ふふふ。今日はお祭り料理だよ!」
「お祭りでございますか?」
「うん! 着替えよう!」
ジルは着替えがよくわかっていない。当たり前だ。まだ浴衣も甚平も披露していない。
雰囲気大事だからね!
念話でみんなに声をかけて、コテージのリビングに集合してもらう。
浴衣の着付けはみんなできないから、私がメンズの着付けもしなければ。
「これからみんなに着替えてもらいます!」
『着替え? ワタシ達も?』
「もちろん! エルミスとプルトンもね。クラオルとグレウスとポラル以外は着方と帯の結び方は覚えてくれると嬉しいな」
《任せて!》
「じゃあ脱いでもらえる?」
脱いでもらっている間に、私は無限収納からみんなの浴衣を出していく。
〈脱いだ〉
「は――キャァァァァ!」
返事をしながら振り向くと、グレンが真っ裸で腰に手を当てて仁王立ちしていた。ジルもちょっと恥ずかしそうだけど真っ裸で気を付け状態。
「な、なな、なんで真っ裸なの!? パンツまで脱がなくていいんだよ! パンツ穿いてパンツ!」
〈パンツ?〉
「下着のこと! グレンとジルにポラルがボクパン作ったとき説明したでしょ!」
後ろを向いてグレンとジルに下着を穿くように言うと、〈脱げと言ったから脱いだのに〉とグレンの呟きが聞こえた。
確かに言った。言ったけどまさかパンツまで脱ぐと思わないじゃん! くそぅ。おかげで立派なモノが見えちゃったじゃないか……ジルも……っていかんいかん! 私は変態でもショタ好きでもない!
落ち着けー、落ち着けー、と頭から追い出すようにブンブンと頭を振った。
〈穿いたぞ〉
《大丈夫だ。ちゃんと穿いた。儂が保証する》
エルミスが私の頭をポンポンと叩きながら保証してくれたので、深呼吸をしてから振り返った。
ちゃんとボクパンを穿いていてホッと息を吐いた。肌着としてTシャツを着るか聞くと、そのままがいいらしい。
「ふぅ。じゃあ、気を取り直して説明するね」
ジルとグレンの浴衣を順番に着付け、小さいサイズのエルミスの浴衣も着付けた。帯は“片ばさみ”より王道の“貝の口”の方が好きなので、問答無用で貝の口結びにした。
三人共イケメンだから似合うとは思っていたけど、恐ろしい破壊力だった。これは世の中のお嬢様が……“惚れちまうやろぉぉぉ”と頭の中で芸人さんが叫んだ。肉食女子に“気をつけなはれや!”
特にエルミスは色気がダダ漏れで、姿が消せる精霊で良かったと思った。
「想像以上に似合うね……」
〈これは着心地がいいな〉
「そうですね。このような形の服は初めて見ました」
「あんまり動くと着崩れるから気をつけてね」
クラオルとグレウスとポラルにベストを着させ、頭に飾りとしてねじり鉢巻を乗せる。
うん。とってもキュート!
女子と男子では帯が違うので私とプルトンは部屋でお着替え。
昔、高校の文化祭のときに覚えざるを得なかった“花結び”と“たまてばこ”しか覚えていなくて、それも思い出すまで手間取ってしまった。
プルトンは帯の形に興味を持ったらしく《可愛いのを考えるわ!》と言いながら、私の髪の毛をセットしてくれた。
《うん! セナちゃん可愛い!》
「プルトンありがとう」
最後にかんざしを挿してリビングに戻る。
〈おぉ! セナも似合うな!〉
「さすがセナ様、大変お美しいです」
「ありがとー」
《ウェヌスが悔しがるな》
「そうだね。ウェヌスも呼んであげよう!」
ウェヌスの分も作ってあるから、念話を飛ばすとすぐに現れて、褒めちぎられた。
エルミスが帯の結び方を覚えたらしく、ウェヌスの着付けを頼むと完璧だった。プルトンもすぐ覚えたし、精霊ってすごい。
「よし、お昼ご飯食べよ!」
『主様! 神達が時間ができたそうよ』
「あら! じゃあパパ達も一緒にお昼ご飯にしよう!」
着替える時間がもったいないので、このまま教会に向かうことにした。
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