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8章

タルゴー商会シュグタイルハン国王都支店

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「タルゴー商会は~……あっち!」

 グレンに再び抱っこしてもらい、タルゴー商会に向かう。

 タルゴー商会は平民エリアと貴族エリアのちょうど真ん中あたりにあった。
 宿まで案内してくれた兵士さんは規模は大きくないと言っていたのに、建物はカリダの街のデタリョ商会みたいな雰囲気だった。

 降ろしてもらって中に入り、受け付けカウンターでタルゴーさんからもらったカードを見せると「セナ様でしょうか?」と確認された。
 タルゴーさんから連絡がきていたらしい。
 ギルドカードを見せると、あれよあれよという間に応接室に案内された。

「わたくしこの支店を任されておりますリシータと申します。何かご入用でしょうか?」
「セナです。よろしくお願いします。茶葉と何か珍しいものや特産品があったら見せてもらえたら嬉しいです」
「あっ! よろしくお願いします!」

 支店長は長い髪の毛を片側で三つ編みにしている女性なんだけど、なぜか緊張気味。
 私達暴れたりしないよ?

 リシータさんが用意してくれた茶葉をグレンが鑑定してジルに教えてあげている。
 私はキアーロ国で取り扱っていないと思われるものを集めてもらい、鑑定していく。

「ん! これは在庫がありますか?」
「ございます」
「とりあえずコレを十枚お願いします。あとは……」

 ごま油もあるけど、まだ買ったのが残ってるんだよね。
 魔道具はいらないし……アクセサリーとかもいらない。

《((セナちゃん、セナちゃん。クシとブラシも買ってくれる?))》
「((いいよ~。どれがいい?))」
《((これと~、これ!))》
「((他はいいの? プルトンも好きなもの買っていいんだよ?))」
《((ふふっ。大丈夫よっ!))》
「((みんなも欲しいものがあったら言ってね))」

 プルトンに頼まれたクシとブラシを支店長に頼んで、再び鑑定をしながらチェックしていく。
 気になるものを見つけて、許可をもらって小瓶に入っている物の匂いを嗅いでみる。

「ん!? んん!! これは……リシータさん! これはどこで手に入るんですか!?」
「こっ、こちらは北東にある隣街ゾヌセアのダンジョン産です!」
「北東……行きたいけど寄り道もいいところだな……よし。これ、あるだけ下さい!」
「か、かしこまりました!」

 マップで確認すると隣街とはいえ、かなり遠いことがわかった。今回は寄れないけど、いつか絶対に行こうと心に決めた。
 素敵なものを発見して私はテンションが一気に上がった。
 謎なのはこれが道具類と一緒に置いてあったこと。私からしたら食べ物の部類に入ると思うんだけど。

「あのっ、セナ様!」
「はーい?」
「そちらがお気に召されたのでしたら、こちらはいかがでしょうか!?」

 リシータさんに呼ばれて振り向くと、リシータさんが何かの瓶を三つほど私に差し出していた。
 許可をもらって蓋を開けると、酸っぱいような甘いような不思議な香りの茶色い粉が入っていた。
 粉を少量舐めてみると衝撃の味に私はおったまげた!

「!!! なっ、なめっ!?」
「ムハー!!! これはっ! リシータさん最高です!! これはどこで!?」
「えっ!? はっ、はい! そちらも先程の粉と同じダンジョンです!」
「これも全部あるだけ下さい!」
「は、はいっ!」

 三つとも茶色だけど濃さも、香りも、味もちょっとずつ違う。
 最高だよ! めっちゃ欲しかったやつだよ! 明日のお昼は決定だね!

『あ、主様?』
「あぁー! 楽しみすぎるね!」
『な、なにが?』
「ふふっ。ふふふふふ」
『あ、あるじ?』
『ハァ……んもう。グレウス大丈夫よ。多分料理の何かだわ』

 舞い上がっている私は、クラオルから呆れた声が聞こえようと気にならない! あの美味しさを知ったらクラオルも感動してくれるに違いないからね!

 ルンルンと他のものも鑑定を繰り返していると、リシータさんから再び話しかけられた。

「セナ様はこちらの方もお気に召されると思います!」

 いつの間にか別のテーブルが用意されていて、上には木のボウルと籠がいくつも乗せてあった。
 覗いてみると、ボウルには色とりどりの粉、籠の中には植物が入っていた。
 鑑定をかけ、匂いを確かめて味見をしてチェックしていく。

「おぉ! これとコレと……これとコレもください!」
「はっ、はい!」

 リシータさんがアワアワと反応すると、傍で控えていたスタッフさんが私が指さしたものを確認して部屋を出て行った。

「あっ! あと水漏れしない樽を三つくらいお願いします」
「は、はいっ!」
「とりあえず私の方は以上で。ジル達のとまとめてお支払いします」
「か、かしこまりました!」

 緊張しぃなのか、焦り性なのかずっと目が泳いでいるリシータさんに促されて応接室に戻った。

〈セナ、さっき興奮してたのはなんだ?〉
「ふっふっふ。明日のお昼を楽しみにしてて」
『やっぱり料理だったのね……』
「ふふふ。絶対みんな気に入るから!」

 リシータさんがまとめて持ってきてくれるのをみんなと話しながら待っていると、何やらドアの外が慌ただしい。

「何かあったのかな?」
〈敵か?〉
「いや、こんな街中で……」
《見てきてあげる!》

 プルトンがドアをすり抜けて様子を探りに向かってくれた。
 数分で戻ってきたプルトンはつまらなさそうに「お城からのお使いだったわ」と、教えてくれた。

「アーロンさんからか。早いね」
『街に入った時点で連絡がいったんじゃない? むしろよくここにいるってわかったわよね』

 私達が話していると、リシータさんと犬っぽいケモ耳の男性が入ってきた。

「お初にお目にかかります。それがしはアーロン陛下よりセナ様へふみを届けに参りました。どうぞお受け取り下さい」
「あ、はい」
「では、確かに渡しましたゆえ失礼致します」

 中途半端に武士っぽい喋り方をした犬っぽいケモ耳男性は、私に手紙を渡すとすぐにいなくなった。
 手紙を開くと、都合のいい日に登城して欲しいから、登城できる日を手紙を持たせた人物に伝えて欲しいと書かれていた。

「あの人いなくなっちゃったんだけど……ま、いいか。リシータさんお待たせしました」
「陛下って陛下ですよね? よ、よよよ、よろしいのですか?」
「はい。大丈夫です」

 リシータさんはマジックバッグに入れて持ってきてくれたらしく、順番にテーブルの上に出してくれた商品を無限収納インベントリにしまっていく。

「い、以上ですが、セナ様がお気に召されたほとんどはこの街のダンジョン産ではないので、ご希望であればゾヌセアの街から取り寄せますっ! いかがいたしますか?」

 「ちょっと待ってくださいね」と声をかけてから、バレないようにメニューから無限収納インベントリをチェックする。
 王都に滞在して、そのあとアプリークムに向かうことを考え「お願いします」と答えた。
 ここ王都なら離れていても転移を繰り返せば来られる。在庫を置いておいてくれるのはありがたい。

「で、ではそのように。では、お会計をお願いします。こちらにまとめてありますっ」

 リシータさんが渡してくれた紙には、私が今回買う物のリストと値段が書かれていた。なにがいくらで何個、トータルの値段が書かれていてわかりやすい。それにしても……

「安すぎませんか?」
「し、商会長より連絡がきておりまして、精一杯値引きさせてもらいましたっ」
「この値段で大丈夫なんですか?」
「はいっ! 聞いていた通りお優しいのですね」

 いいならいいんだけど……潰れないで欲しい。
 おそらく約半額だと思われる金額を払って、お礼を言って商会を出た。
 外は夕暮れ時で通りはお昼よりも賑わっている。プラプラと買い物をしたかったけど、今日はまっすぐ宿に帰ることになった。

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