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7章

怪鳥の巣

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 ダンジョンの近くで一泊して、街に戻らずにそのまま怪鳥の巣へ向かう。
 怪鳥の巣はニャーベルに来る途中に通った高い山の方にある。
 街道からは離れていて、人が入らない険しい場所。
 『危ないからネラース達に乗った方がいいっち』と、ルフスが偵察から戻ってきて教えてくれた。
 ネラース達の背中に乗せてもらい、道なき道を進む。

「鳥の巣ってどこにあるの?」
『上からは見えなかったっち』
《こういう崖みたいなところだと、岩陰に隠れてたり、洞窟みたいなトコにいたりするのよねぇー》
「巣って言ってたけど、魔物の気配はバラバラで固まってないんだよね」

 途中、休憩を挟みつつ崖のような岩山をネラース達は難なく登ってくれている。
 ギルドで教えてもらった場所に着いたけど、“巣”らしきものは見当たらなかった。

「巣なら待ち伏せもできるんだけど……どうしようか?」
『バラけて探した方が良さそうね』

 クラオルのアドバイスでネラース達に乗せてもらったまま、“巣”がありそうな場所を探すことになった。
 念話で確認しつつ、探しているけど見つからない。

「日中はどこか飛んでっちゃってるのかな? そもそも巣がないってここに住んでるワケじゃないのかな?」
『どうかしら?』
「魔物の名前聞いておけばよかったね。そしたら誰かしら知ってるか、本で調べることもできたのに」
『そうねぇ……ひとまず休憩しましょ。そろそろお昼だもの』
「はーい」

 みんなに念話で声をかけて、大きな平べったい岩の上でお昼ご飯。
 いくら岩が大きいからとはいえ、みんなが座ったらギリギリ。

われは肉が食べたい〉
「ここで料理は危ないよ」
〈ネラース達が小さくなればいい! バガンタールをまだ食べてない〉
「ネラース達もお肉食べたい?」
『ご主人様のお肉!』

 いや、ネラースさん。それだと語弊があるよ。私の贅肉を出すわけじゃないからね。あ。ルフスにつつかれてる。

 他のみんなもお肉が食べたいらしいので、ネラース達には縮小化してもらい、岩の中央に一口ひとくちコンロを出した。
 マーモットの肉を野菜と一緒に味噌で炒めていくと、匂いに触発されたのかネラース達がソワソワし始めた。
 ご飯の上に乗せてどんぶりスタイルで食べる。

「ん? なんか船の汽笛みたいな音聞こえなかった?」
『船のきてきってなぁに?』
「こう低ーい“ボォ~”って感じの音。あ、ほら。また聞こえた」
『確かに聞こえたわね』
「なんでしょうか?」

 キョロキョロと周りを見ても音の正体はわからない。
 ネラース達やグレンはご飯に夢中で気にしていない。
 ジルも聞いたことない音らしく、辺りを窺っている。

「んん!? 何かが近づいてくる! 速い!」
〈なんだ?〉

 グレンも気配を感じとったのか警戒し始め、ジルは片手剣を構えた。
 ご飯を中断した私達の前に現れたのは……

「ダチョウ? いや、アルパカ?」

 二メートルないくらいの大きさで、首と足が長い……ダチョウのような体型にアルパカのようなふわふわの体毛。顔の作りもアルパカ風で耳まで付いているのに……その顔の真ん中にはくちばしがあった。

「何このダチョウとアルパカを足して三で割った感じ」

 ぴったり半分で割るのとはちょっと違い、違和感が否めない。
 ダチョウのクリクリとしたつぶらな瞳と目が合うと、ダチョウはパチパチと数回瞬きした後鳴いた。
 骨に響くようなあの、船の汽笛のような音だった。

――――ボォーーーー!
――――ボォー、ボォー…………

 目の前のダチョウが鳴くと、どこからか山彦のように音が返ってきた。

〈仲間を呼んだな〉
「え、じゃあ……」
〈こいつが怪鳥で間違いなさそうだ〉

 私達がダチョウの様子を窺っている間にも、点在していた気配がすごいスピードで集まってくる。
 ネラース達が先制攻撃をしかけると、ジャンプして回避されてしまった。

「えぇ!? そんなトコに着地するの!?」

 ダチョウは驚愕のバランス感覚と身体能力で、数センチほどしかない岩のヘリに足の爪先を引っ掛けているらしい。
 ロッククライマーかよ! と思わず心の中でつっこんでしまったけど、これを見たらつっこまずにはいられないと思う。

 ネラース達が攻撃を仕掛け、避けられる攻防が続く。
 ネラース達は足場を考えなければダメだけど、ダチョウはどんな場所でも大丈夫らしい。
 そうこうしているうちに、ダチョウに囲まれてしまった。
 グレンや攻撃したネラース達もいるのに、真ん中にいる私がギラギラと凝視され、背中に冷や汗が流れる。

 つかの間の睨み合いの後、先に動いたのはダチョウの方だった。
 タイミングを計ったかのように私達がいる岩を取り囲んでいた数匹が突っ込んできた。
 前からも後ろからも突撃する勢いで向かってくるダチョウに「これヤバくない?」なんて他人事のように思った。

《セナちゃん!》
「――わっ!」
あるじよ、戦闘中に考え事は感心しないな》

 プルトンが私を抱えて浮き上がり、ケガをしなくて済んだ。
 ジルはエルミスが抱えていた。

「プルトン、エルミスありがとー!」
〈ああああああ!!!!!!〉

 私が二人にお礼を言うのと、グレンが大声をあげたのはほぼ同時だった。
 ケガでもしたのかとバッと振り返って見てみると、私達が食べていたマーモットの味噌炒め丼をダチョウ達がむさぼりついていた。

「あぁ……しまってなかった……ってか、私が狙われてたんじゃなくて匂いに釣られたのか……」
『『『『あぁぁぁぁ!』』』』
〈きぃさまらぁぁぁぁ! 許さん! 許さーん!〉

 グレンとネラース達から怒気がビリビリと伝わってくる。
 グレンが地を蹴ると、それが合図だったかのようにネラース達もダチョウに向かっていった。
 グレンがダチョウの頭をパンチで吹き飛ばし、ネラース達は爪で切り裂いた。

「うわ……エグい…………みんなー! 食材だよー! キレイに狩ってー! キレイに狩ったら、夜ご飯のとき美味しいデザート食べられるよー!」
〈むっ!〉
『『『『!』』』』

 私がプルトンの腕の中から声を張り上げると、戦い方がガラりと変わった。少し冷静になってくれたみたい。
 仲間が殺されていく様子を見て、逃げる個体まで現れたけど、グレン達は〈逃がさん〉と追いかけていってしまった。
 残された私達はぐちゃぐちゃになったご飯の後片付けのため、岩の上に降りた。

「お皿は……作り直そうかな。魔物がつついたお皿は使いたくないよね」
『いいの?』
「もちろん。私がみんなのお皿はキレイじゃないとイヤなんだよ。いくら防汚と壊れにくいってなっててもね」
『主様ありがとう』

 お皿に【クリーン】をかけて回収すると、スプーンが二本足りなかった。
 グレウスが岩と岩の間の激せま空間に落ちているのを発見して、ポラルが糸を使って拾ってくれた。
 ダチョウも回収して、飛散している血にも【クリーン】をかける。
 なんと、ダチョウのおなかにはカンガルーのように袋があって、その中に大きな卵が入っていた。自分のお腹で卵を育てられるから巣が見当たらなかったのかもしれない。


 それにしても……ネラース達まであんなに怒るとは思わなかった。

「食べ物の恨みは恐ろしいね……」

 恨みより怨みかもしれないけど……
 どこまで追いかけていったのか、みんなはなかなか帰ってこない。
 気配だと……遠っ!

「みんな遠くまで行ってるみたいだから座って待ってよ?」

 ジルに声をかけて、クラオルとグレウスをモフモフしながらお菓子をつまむ。


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