転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン

文字の大きさ
上 下
175 / 541
7章

突撃ダンジョン【3】

しおりを挟む


 くすぐったさから目を覚ました。
 クラオルのしっぽがフワフワと私の首元をくすぐっていたらしい。

「ふふふふふ。モフモフ天国」

 右にはアクラン、左にはネラース、胸元にはクラオルとグレウス。昨日幻惑で老害を見ちゃったジルベルト君が心配だったので、彼の隣りではニヴェスが眠ってくれている。
 ビバ! もふもふパラダイス! そしてアニマルセラピー!
 しばしモフモフを堪能させてもらい、名残惜しいけど起き上がって朝ごはんを作らないと。

 今日も戦闘が待っていることを考えて、サラサラと食べられるひつまぶし。
 焼いている匂いに誘われたのかみんな起きてきた。

 食べ終わってストレッチをしてから十二階層に降りた。
 十二階層は岩山型のダンジョンだった。街道のように通路があるけど、左右には高い岩壁があり、岩陰から魔物が襲ってくる。

「またオークかぁ……」
「セナ様、あれはオークソルジャーです。この階層は通常のオークの上位種が出るようですね」
「なるほどー」

 私からすればオークが剣を持っているだけに見えるけど、れっきとした上位種らしい。
 でも、私はオーク以外が出てきて欲しい。あの鳴き声も、ドロップ品もおなかいっぱい。

『いいもの見つけたっち!』

 ルフスの声が聞こえてルフスはどこだとキョロキョロすると、十メートルはありそうな岩山の一角にとまっていた。
 あれを登るのか……と、思っていたらグレンが私とジルベルト君を左右に抱えて羽ばたいた。

「うきゃっ」
〈この方が早い〉
「確かに早いけど、ビックリするからひと言欲しかった」
〈すまん、すまん〉

 グレンに抱っこされたまま空中に留まっていると、ブーンと虫が飛んでいる音が聞こえてきた。
 だんだんと音が大きくなり、現れたのはピンク色の蜂とオレンジ色の蜂の大群。
 三十センチはありそうな巨大な蜂は、まっすぐに私達に向かって飛んできている。

「なにこのでっかい蜂!」
〈ほう、運がいい。あのピンクのミエールツは美味いぞ!〉

 いや、そうじゃない。美味しい蜂蜜はウェルカムだけど、そうじゃないの。この状況の説明が欲しかったの。

「おそらく、ルフス様が見つけたのはピンクアビーペの巣だと思います。危険を察知して近くの仲間を呼んだのでしょう」

 なるほど。だからルフスのいる場所じゃなくて遠くから飛んできたのね。そして魔物の名前もありがとう。
 あ! ルフスがいる場所からも湧いて出てきた!

 グレンとルフスが炎の息を吐き、ネラースとアクランが魔法で切り刻み、ニヴェスとグレウスが魔法で石をぶつけて、プルトンとエルミスは私達の死角を担当。
 ジルベルト君はグレンに抱えられていて不安定なのに、的確に弓で撃ち落としている。
 私も手伝おうと、飛んで揺れているグレンの腕の中から魔法を放ってるのに、まぁ~ミスるミスる。
 結局、ほとんど役に立てないまま戦闘が終わってしまった。

 戦闘後、ルフスが見つけた蜂の巣を見にいくと、私にはでっかい岩にしか見えなかった。
 巣箱のように下に開いている穴から出入りするらしい。
 グレンが岩を殴って人が入れるほどの穴を空けてくれたので中に入ると、中はドーム状の空間になっていた。
 半分から奥にかけてたっぷりの蜂蜜と蜂のがあったので、全て回収してから元の道に戻った。



 その後も、隠し部屋で宝箱を発見したり、落石ならぬ岩が転がり落ちてきて逃げ回ったり、そのせいで落とし穴に落ちかけたり、何回か蜂の大群と戦ったりとあったけど、順調……うん。めっちゃ時間かかってはいるけど順調に進んで、今は再びボス部屋前。

 十一階層でボスと戦って、今十六階層でボスならこれが大ボスかもしれない。
 気合いを充分に扉を開いた。

「ん? あれなに?」

 入った瞬間に目に飛び込んんできたのは、丸い玉。直径一メートル以上はあるこげ茶色の玉。

「玉? 玉がボスゥゥーッ!?」
――――ドゴーンッ!

 玉が勢いよく転がってきて咄嗟に避けると、玉は壁にそのまま激突した。
 ぶつかって止まった玉は、再び特に予備動作もなく私達に向かって転がってくる。

「またー!?」

 上の階で転がってきた岩から逃げるために散々走り回ったのに、また走り回ることになるなんて!

「なんで私ばっかりぃぃぃー!」

 玉のスピードが早く、転びそうになりながら避ける。魔法で応戦する余裕はない。
 ジルベルト君が隙を見て弓で射ってくれたけど弾かれ、みんなの魔法も弾くかスピードに追いつけなくて当たらないかのどちらかだった。
 転がってきては壁に突っ込んでいくため、ボス部屋にはぶつかる音が鳴り響いている。

「グレンー! 持って飛んでぇぇぇ!」
〈ふむ。セナ、アレは特殊かもしれん。こうも魔法が効かないとは〉
「はぁ……はぁ……ありがと……ってうそー!?」

 グレンに抱っこしてもらって、やっと息が整えられると思ったのに、ヤツはボンボンと軽く弾んだあと、助走をつけて飛んできた。
 グレンが難なく避けると、再び助走してジャンプしてくる。

「なんっで……私ばっかり……」
〈なんでだろっうな?〉
《グレンは止められないのか?》
〈やってみるか〉

 をエルミスに預けて、回転して迫ってくる玉を受け止めようと、グレンが両手を広げて進行方向を塞ぐように降り立った。

「おおお?」

 ギュルギュルと音を立てながらグレンが頑張って受け止めるけど、勢いに押されて後退していく。

〈ムムムム……うおっ!〉
――――バチーーン!
「キャー!」

 勢いが殺せず、グレンが派手な音を立てて壁に吹き飛ばされてしまった。
 グレンのおかげで私から狙いが逸れたらしい玉は、ネラース達に向かっていく。
 エルミスに降ろしてもらってグレンに駆け寄ると、グレンは大したことなさそうに立ち上がった。

〈アレを止めるのは難しいな〉

 パンパンと服に付いた土を落として、なんでもなさそうに言うグレンをペタペタと触ってケガを確認する。
 あんなに派手な音を立てて壁にぶつかったのに大丈夫らしい。
 念のためヒールをかけて、私達は天井ギリギリまで飛んだ。
 グレンがジルベルト君を抱え、私はエルミスの腕の中。

〈アレを止めるのは無理だ〉
《おそらくわしらの魔法でも難しいな》
「あの玉はなんなの?」
〈アレはキャノンロタシャールの系統の魔物だ。玉の形になって転がって攻撃してくる。普通ならばあそこまで硬くない。上位種だな〉

 キャノンロタシャール……確か本だと四足歩行だったんだけど……回転……回転だとアルマジロか!

「回転したのを止められないなら、壁にぶつかって止まった瞬間って狙えないかな?」
〈すぐまた動き出すぞ?〉
「止まった瞬間に、プルトンの結界とエルミスの氷で頑丈な檻みたいなの作るの」
《やってみる価値はあるな》
《アクランにも協力してもらいましょ!》

 プルトンが急降下して、小さくなったアクランを連れてきた。
 私達が作戦会議している間も、ネラースとニヴェスは逃げ続けてくれていて、ルフスが何回も攻撃を仕掛けていた。

 ネラース達が避けて玉が壁にぶつかったタイミングに合わせて、みんなで魔法をぶっ放す。
 エルミスとアクランが氷の檻を作り、その周りをプルトンが結界魔法で囲う。私はその中に水を満たして、さらに中の水を凍らせていく。
 完全に凍るまで時間をかけて待ち、最後にプルトンの結界を解除して、グレンが渾身のパンチで氷の塊を破壊した。
 モヤーっとエフェクトが現れて、ようやく戦闘が終わった。
 クマムシみたいに温度に耐えられるタイプじゃなくて良かった!

 宝箱は……胸当てのような軽装の鎧とアルマジロの殻。これは当たりかもしれない。


しおりを挟む
感想 1,802

あなたにおすすめの小説

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。