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7章
突撃ダンジョン【3】
しおりを挟むくすぐったさから目を覚ました。
クラオルのしっぽがフワフワと私の首元をくすぐっていたらしい。
「ふふふふふ。モフモフ天国」
右にはアクラン、左にはネラース、胸元にはクラオルとグレウス。昨日幻惑で老害を見ちゃったジルベルト君が心配だったので、彼の隣りではニヴェスが眠ってくれている。
ビバ! もふもふパラダイス! そしてアニマルセラピー!
しばしモフモフを堪能させてもらい、名残惜しいけど起き上がって朝ごはんを作らないと。
今日も戦闘が待っていることを考えて、サラサラと食べられるひつまぶし。
焼いている匂いに誘われたのかみんな起きてきた。
食べ終わってストレッチをしてから十二階層に降りた。
十二階層は岩山型のダンジョンだった。街道のように通路があるけど、左右には高い岩壁があり、岩陰から魔物が襲ってくる。
「またオークかぁ……」
「セナ様、あれはオークソルジャーです。この階層は通常のオークの上位種が出るようですね」
「なるほどー」
私からすればオークが剣を持っているだけに見えるけど、れっきとした上位種らしい。
でも、私はオーク以外が出てきて欲しい。あの鳴き声も、ドロップ品もおなかいっぱい。
『いいもの見つけたっち!』
ルフスの声が聞こえてルフスはどこだとキョロキョロすると、十メートルはありそうな岩山の一角にとまっていた。
あれを登るのか……と、思っていたらグレンが私とジルベルト君を左右に抱えて羽ばたいた。
「うきゃっ」
〈この方が早い〉
「確かに早いけど、ビックリするからひと言欲しかった」
〈すまん、すまん〉
グレンに抱っこされたまま空中に留まっていると、ブーンと虫が飛んでいる音が聞こえてきた。
だんだんと音が大きくなり、現れたのはピンク色の蜂とオレンジ色の蜂の大群。
三十センチはありそうな巨大な蜂は、まっすぐに私達に向かって飛んできている。
「なにこのでっかい蜂!」
〈ほう、運がいい。あのピンクのミエールツは美味いぞ!〉
いや、そうじゃない。美味しい蜂蜜はウェルカムだけど、そうじゃないの。この状況の説明が欲しかったの。
「おそらく、ルフス様が見つけたのはピンクアビーペの巣だと思います。危険を察知して近くの仲間を呼んだのでしょう」
なるほど。だからルフスのいる場所じゃなくて遠くから飛んできたのね。そして魔物の名前もありがとう。
あ! ルフスがいる場所からも湧いて出てきた!
グレンとルフスが炎の息を吐き、ネラースとアクランが魔法で切り刻み、ニヴェスとグレウスが魔法で石をぶつけて、プルトンとエルミスは私達の死角を担当。
ジルベルト君はグレンに抱えられていて不安定なのに、的確に弓で撃ち落としている。
私も手伝おうと、飛んで揺れているグレンの腕の中から魔法を放ってるのに、まぁ~ミスるミスる。
結局、ほとんど役に立てないまま戦闘が終わってしまった。
戦闘後、ルフスが見つけた蜂の巣を見にいくと、私にはでっかい岩にしか見えなかった。
巣箱のように下に開いている穴から出入りするらしい。
グレンが岩を殴って人が入れるほどの穴を空けてくれたので中に入ると、中はドーム状の空間になっていた。
半分から奥にかけてたっぷりの蜂蜜と蜂の卵があったので、全て回収してから元の道に戻った。
◇
その後も、隠し部屋で宝箱を発見したり、落石ならぬ岩が転がり落ちてきて逃げ回ったり、そのせいで落とし穴に落ちかけたり、何回か蜂の大群と戦ったりとあったけど、順調……うん。めっちゃ時間かかってはいるけど順調に進んで、今は再びボス部屋前。
十一階層でボスと戦って、今十六階層でボスならこれが大ボスかもしれない。
気合いを充分に扉を開いた。
「ん? あれなに?」
入った瞬間に目に飛び込んんできたのは、丸い玉。直径一メートル以上はあるこげ茶色の玉。
「玉? 玉がボスゥゥーッ!?」
――――ドゴーンッ!
玉が勢いよく転がってきて咄嗟に避けると、玉は壁にそのまま激突した。
ぶつかって止まった玉は、再び特に予備動作もなく私達に向かって転がってくる。
「またー!?」
上の階で転がってきた岩から逃げるために散々走り回ったのに、また走り回ることになるなんて!
「なんで私ばっかりぃぃぃー!」
玉のスピードが早く、転びそうになりながら避ける。魔法で応戦する余裕はない。
ジルベルト君が隙を見て弓で射ってくれたけど弾かれ、みんなの魔法も弾くかスピードに追いつけなくて当たらないかのどちらかだった。
転がってきては壁に突っ込んでいくため、ボス部屋にはぶつかる音が鳴り響いている。
「グレンー! 持って飛んでぇぇぇ!」
〈ふむ。セナ、アレは特殊かもしれん。こうも魔法が効かないとは〉
「はぁ……はぁ……ありがと……ってうそー!?」
グレンに抱っこしてもらって、やっと息が整えられると思ったのに、ヤツはボンボンと軽く弾んだあと、助走をつけて飛んできた。
グレンが難なく避けると、再び助走してジャンプしてくる。
「なんっで……私ばっかり……」
〈なんでだろっうな?〉
《グレンは止められないのか?》
〈やってみるか〉
私をエルミスに預けて、回転して迫ってくる玉を受け止めようと、グレンが両手を広げて進行方向を塞ぐように降り立った。
「おおお?」
ギュルギュルと音を立てながらグレンが頑張って受け止めるけど、勢いに押されて後退していく。
〈ムムムム……うおっ!〉
――――バチーーン!
「キャー!」
勢いが殺せず、グレンが派手な音を立てて壁に吹き飛ばされてしまった。
グレンのおかげで私から狙いが逸れたらしい玉は、ネラース達に向かっていく。
エルミスに降ろしてもらってグレンに駆け寄ると、グレンは大したことなさそうに立ち上がった。
〈アレを止めるのは難しいな〉
パンパンと服に付いた土を落として、なんでもなさそうに言うグレンをペタペタと触ってケガを確認する。
あんなに派手な音を立てて壁にぶつかったのに大丈夫らしい。
念のためヒールをかけて、私達は天井ギリギリまで飛んだ。
グレンがジルベルト君を抱え、私はエルミスの腕の中。
〈アレを止めるのは無理だ〉
《おそらく儂らの魔法でも難しいな》
「あの玉はなんなの?」
〈アレはキャノンロタシャールの系統の魔物だ。玉の形になって転がって攻撃してくる。普通ならばあそこまで硬くない。上位種だな〉
キャノンロタシャール……確か本だと四足歩行だったんだけど……回転……回転だとアルマジロか!
「回転したのを止められないなら、壁にぶつかって止まった瞬間って狙えないかな?」
〈すぐまた動き出すぞ?〉
「止まった瞬間に、プルトンの結界とエルミスの氷で頑丈な檻みたいなの作るの」
《やってみる価値はあるな》
《アクランにも協力してもらいましょ!》
プルトンが急降下して、小さくなったアクランを連れてきた。
私達が作戦会議している間も、ネラースとニヴェスは逃げ続けてくれていて、ルフスが何回も攻撃を仕掛けていた。
ネラース達が避けて玉が壁にぶつかったタイミングに合わせて、みんなで魔法をぶっ放す。
エルミスとアクランが氷の檻を作り、その周りをプルトンが結界魔法で囲う。私はその中に水を満たして、さらに中の水を凍らせていく。
完全に凍るまで時間をかけて待ち、最後にプルトンの結界を解除して、グレンが渾身のパンチで氷の塊を破壊した。
モヤーっとエフェクトが現れて、ようやく戦闘が終わった。
クマムシみたいに温度に耐えられるタイプじゃなくて良かった!
宝箱は……胸当てのような軽装の鎧とアルマジロの殻。これは当たりかもしれない。
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