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7章

突撃ダンジョン【2】

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 隠し通路に入った先は通路が三つに分かれていて、各通路の先には宝箱が置いてあった。
 中身は全て魔道具。幻惑耐性のネックレス、寒さ耐性のネックレス、草魔法強化の腕輪。三種類とも効果は微々弱。
 プルトンいわく、気分の問題で片付けられる程度の効果しか出ないそう。

〈八階層で魔道具か……早いな〉
「早い?」
〈普通はもっと深い場所にしか出ない〉
「そうなの?」
〈まぁ、魔物大量発生スタンピードのせいかもしれんがな〉

 元の通路に戻って歩きながら話す。
 エルミスに抱っこしてもらったままなので、普通サイズになってもらったネラースのおなかにマジックバッグのウエストポーチ型を着けさせてもらった。

 途中、ゴマとよくわからない芋と香水に使えそうないい香りの植物をゲットした。
 ネラース達は罠や隠し部屋を見つけるのが上手く、今のところ難なく進めている。
 一番焦ったのは落とし穴。ニヴェスが気が付かなかったら、迷宮内でバラバラになるところだった。

 九階層と十階層は広場タイプで、木の幹の中に中級ポーションが入っていたり、“網のように編まれたロープで樹上に持ち上げられる”ようにツタで原始的な罠を張る食虫植物がいたりした。



「虫系はやめて欲しいな……」
『大丈夫よ。虫だったら主様を泣かせたグレンが処理するわ』
〈まだ怒ってるのか?〉
「怒ってないよー。嫌いって言ってごめんね?」
〈なら……なんでもないっ〉
「グレンも大好きだよ」
〈そっ、そうか! それならいい!〉

 照れてるグレンが十一階層のボス部屋の扉に触れると、ギギィっと音を立てながら開いた。
 中は変わらず森型ダンジョンで、ボスは三メートルはありそうなウツボカズラのような植物だった。

「オークはいないんだね。これなら私も大丈夫そう」
〈アリュシナカズラか。ちと厄介だな。あれは幻惑を使う〉
わしらも手伝おう》
――――シギャアアアアアアアー!

 このウツボカズラはアリュシナカズラというらしい。
 エルミスに降ろしてもらって近付くと、アリュシナカズラは触手であるゴリマッチョの太ももはありそうなぶっといツルでバシバシと地面を叩きながら闘志を剥き出しにした。
 私達がさらに近付くと、ボフンッボフンッとウツボカズラの袋のようなものから紫色の煙を吐き出し始めた。

 風魔法でツルを切り刻んでもすぐに再生され、縦横無尽じゅうおうむじんに叩き付けようとしてくる。その間にも紫色の煙を出し続け、視界がだんだん悪くなってきた。
 風魔法で煙を吹き飛ばそうにも、広げてしまうだけ。

「なにこれ……やりっ、にくっい!」

 私達の視界は悪いのにアリュシナカズラからのムチ攻撃は止まない。
 アリュシナカズラの叫び声も聞こえているので、誰かしらが攻撃しているのはわかった。
 どうしようかと考えている間に、辺りは紫色の煙におおわれてしまい、近くにいるハズのグレンもジルベルト君も見えなくなってしまった。

あるじよ、これはかなり厄介だ。わしらも気配しかわからん》
〈セナ! 大丈夫か!?〉
「大丈夫ー!」
〈この煙で火魔法が使えん!〉
《きゃっ!》
「プルトン大丈夫!?」

 声は届くけど、どこにいるのかさっぱりわからない。
 気配はするのに見えないと不安になってくる。

「ご……ごとうしゅ……さま…………ひぃ!」

 ジルベルト君の怯えた声が聞こえてきた。
 グレンは幻惑だと言っていた。と、いうことは幻を見せられてもおかしくはない。

「ジル! ジル!」
「お、おゆるしを……セ、セ、セナさま?」
「ジル! ジルはジルでしょ! 私の家族のジルベルトでしょ!」
「はっ、はい! 僕はジルベルトです! セナ様に忠誠を誓ったジルベルトです!」

 発言は置いておいて……とりあえず、ジルベルト君は幻惑から解放されたっぽい。
 ムチ攻撃を気配だけで避けるのは神経を使う。
 ネラース達やグレンからも何かに耐える「くっ」や「うっ」と聞こえてくるから、攻撃を受けているのかもしれない。
 私の大事な家族なのに! 何もできないなんて冗談じゃない!

「あぁー! もう! プルトン! 気配探って全員に超硬い結界張って!」
《わかったわ!》
「エルミス合図したら空気中の水分凍らせて!」
《御意》
「さん、にー、いち! 今!」

 私が空気中に出した霧状の水分をエルミスに凍らせてもらう。
 一か八かだったけど、霧が煙を吸収して凍ってくれた。

「いっけー! キリキリ舞い!」
――――シギャアアアアアアア!

 風の渦の中にアリュシナカズラを閉じ込め、渦の中に長時間滞在するように風の刃を放った。三日月型の風の刃はクルクルと回転しながらアリュシナカズラを攻撃していく。

われからも……受け取れ!〉

 グレンが空から炎を吐くと、私の渦に炎が一体化して炎の渦になった。
 みんなも思い思いの魔法を渦に放ち、渦はもうぐちゃぐちゃ。
 それでもまだアリュシナカズラは暴れている。

〈セナは毒薬を持っていないのか?〉
「あるよ?」
〈今は近付くのは危険だからな。猛毒であれば傷口から進行しやすい〉
「なるほど!」

 そういうことならポイズンスライムの核から作った毒をお見舞いしてあげよう。
 作ってある毒をビニール袋に入れ、ルフスにアリュシナカズラの上まで運んでもらう。
 ルフスが落とした毒入りビニール袋をジルベルト君に射ってもらえば、渦によってまとわりついてくれるハズ! アリュシナカズラが先にツルでぶっ飛ばしたり、炎の熱で毒が瞬間的に乾かなければ、の話だけど。

 私の合図で放たれたジルベルト君の矢は見事にビニール袋を貫いて、アリュシナカズラの真上に落ちた。
 失敗したときのために二袋準備していたけど、二袋とも成功した!
 ビニール袋が熱で溶けて、ベッタリとアリュシナカズラにくっ付いたのは嬉しい誤算だった。

 毒が効いたのか動かずに叫び続けていたアリュシナカズラがエフェクトと共に消え宝箱が現れると、全員が息を吐いた。

「はっ! みんなケガは!?」
『主様は休憩よ。ルフス、全員回復してちょうだい』
『まかせるっち!』

 私が回復する前にルフスが範囲回復魔法エリアヒールをかけてくれて、ジルベルト君の頬に痛々しく付いていた赤い腫れが治った。

 アリュシナカズラが落としていった宝箱は宝箱自体がドロップ品扱いらしく、大きな宝石が埋め込まれていた。
 中身は……十五センチ大の魔石と、五センチ大のエメラルドがゴロゴロと入っていた。


 さすがにお昼も食べずにぶっ通しで戦い続けていた私達は、ボス部屋の続き部屋であるセーフティーエリアで休むことにした。
 ネラース達にほとんど任せていたけど、さすがに夜までずっとダンジョンの中を進んでいると疲れてしまった。
 最奥のボスかと思ってたけど、続き部屋には階段があり、まだ階層が残っていることが判明した。

 夜ご飯は漬けマグロ丼とお味噌汁。
 理由はオークを狩りまくったせいでお肉を見たくないから!
 グレンも同じ気持ちなのか、いつものようにお肉を催促されなかった。

〈セナー。アレに浴びせた毒はなんだ? 普通の毒じゃないだろ?〉
「よくわかったね! あれはポイズンスライムの核から作ったやつなんだけど、麻痺毒だよ」
〈かなり強力だろ?〉
「どうだろ? 実験してたらできちゃったんだよねー。使い道なかったから肥やしになると思ってたんだけど、作っててラッキーだったね」
〈そ、そうか……(あんなものまで作っているとは……)〉

 今日はネラース達も一緒に野宿スタイル。通常サイズになっているネラース達のモフモフに包まれて眠りについた。

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