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7章
突撃ダンジョン【1】
しおりを挟むダンジョンの外にいたオークを狩り尽くし、外に出てくるオークをグレンに担当してもらう。その間にネラース達やジルベルト君にはオークを運んできてもらい、片っ端から無限収納に入れていく。
「ハァ……そりゃ多いわ……」
「セナ様、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫」
邪魔なオークはちょこちょこと回収していたけど、グレンやネラース達は山のように積み重ねていた。全てを無限収納に入れ、確認するとトータルで174匹。私自身が倒した数は少ないだろうけど、それでもこの数が異常なことはわかる。
ジルベルト君も疲れていて、二人でポーションとマジックポーションを飲んだ。魔力も体力もまだ大丈夫なハズだから、多分気疲れだと思う。一応グレンにも聞いてみたけど、グレンは不要らしい。
「おまたせ」
〈大丈夫か?〉
「うん。行こうか」
辺り一帯に【クリーン】をかけて洞窟ダンジョンへ入るなり、襲いかかってきたオークに氷魔法をぶち込んだ。
〈ハッハッハ! 容赦ないな〉
「ダンジョンはドロップ品だからいいかなって。素材として毛皮が使える魔物はわからないけど、オークは毛皮ないからさ」
〈なるほど。なら我も遠慮しなくていいな〉
グレンも素材を傷ませないように気をつけていてくれているんだなと改めて思った。
「ダンジョンの中は思ってたより少ないね」
〈ふむ。わらわらと出てきていたからな……余分なのは外に出たのかもしれん。あの規模でオークアドミラルとオークコマンダが三体しかいなかったしな〉
「あれ? オークキングがいるって言ってなかった?」
〈あのギルマスの様子だとちゃんと鑑定したかどうかも怪しいな〉
「あぁ……思い込み激しそうだったもんね」
会話をしながらも現れたオークを狩っていく。
オークのドロップ品は素材部位か魔石。レアドロップ品は真珠。そう、まさに豚に真珠。
パパ達が狙ったんじゃないかと、真珠を見たときに噴き出してしまった。
ただ、真珠はど素人の私でもわかるくらいの粗悪品から、キレイなまん丸のものまで出てくるランダム要素満点だった。
前回のスライムダンジョンよりは現れるオークの数が多い気がするけど、特に構えるほどでもない。ほぼ毎回ブヒィと叫びながら襲いかかってくるため、ものすごくわかりやすい。
途中からちっちゃいネラース達に任せることにした。
ネラース達は狩り終わると、ドロップ品を持ってきてくれる。『はい!』と渡してくる姿は「とってこーい!」状態で、「いいこ、いいこ」と撫でてしまう。
◇
ネラース達に狩りを任せて順調に進み、六階層への階段を降りるとガラッと雰囲気が変わった。
森ダンジョン――先程までの薄暗さはなくなり、本当に森を歩いているかのような錯覚を覚える。頭上には洞窟の天井があるハズなのに、太陽光が降り注いでいると思うくらい明るく天井は見えない。
森型のダンジョンは例外もあるけど、基本は樹の迷路のようになっているか、広い広場の中にある階段を探すかの二通りのことが多い。
このフロアは広場タイプだった。
「セナ様、森型のダンジョンに自生している植物は使えるものがあります。こちらの植物は毒薬に使われているものですし、“ダンジョン産”と呼ばれるものはダンジョン内で手に入るもの全般を示します」
「なるほど。ってことは私が買ったゴマ油とかもドロップ品とは限らないのか……」
これは鑑定しまくるしかないな……パッと見だと使えそうなものはないけど……
鑑定をかけながら進んでいくと、ようやく食材とは言えないけど役に立つものを発見した。
日本とは違い、見た目はヒヤシンスだけど匂いと効能はドクダミそのもの。
「セナ様、こちら食べられるのですか? いささか香りが独特ですが……」
私がブチブチとドクダミを引っこ抜いていると、ジルベルト君が遠慮気味に聞いてきた。
かなりオブラートに包んでくれているとはいえ、不安な気持ちが表れている。
「ふふっ。これ自体は食べないよー。これは乾燥させてお茶として飲んだり、すり潰してお肌の手当に使うの」
「そうなのですね……」
私の返答を聞き、ホッとした様子で採取を手伝ってくれた。
ドクダミを収穫して尚も進んでいくと、オークに混じって猿や熊などの動物的な魔物から、私の嫌いな虫系の魔物まで出てくるようになった。
ポラルが樹上の魔物を、ネラース達が地上の魔物を担当してくれているため、私は鑑定に集中してても大丈夫。
「うわっ! えぇ!?」
枯れ草だと思っていたものに巻き付かれて、咄嗟に風魔法を放つと今度は木がモゾモゾと動き出した。
「セナ様!」
〈セナ! 大丈夫か?〉
「うん。ありがとう」
グレンが火魔法で焼いてくれて、事なきを得た。
前言撤回! 鑑定に集中しすぎはよろしくない。気をつけなきゃ。
「木も魔物だったんだね」
〈トレントだな。ドロップ品の【木材】は杖とかに使われているぞ。まぁ、セナが持っている呪淵の森の木に比べたら劣るが〉
「そうなんだ」
――――ギャアアアアアア
一匹を倒したからか周りに生えていた木が一斉に動き出し、根っこが地面からズボッと出てきた。
根っこを器用に動かして移動し始め、枝と根っこをムチのように繰り出してくる。
ポラルもネラース達も私を守るように戻ってきてくれたんだけど…………『焼いてやるっち!』とルフスが炎の息を吐いて、辺り一面火の海。
私達の方に火が迫ってくる様子はなく、トレントは雄叫びを上げながら燃えていく。
「…………すごいね」
プスプスと煙を上げてドロップ品に変わっていくトレント。普通の植物もほとんど燃えてしまい、残っているのは黒焦げの樹木だけ。
壁の役割りの樹木はどんなに燃えても形状を保っていた。
“エッヘン!”と胸を張るルフスを撫でて、アクランとエルミスと一緒に水魔法で燻っている火を消火させた。
ダンジョンはどんなに火魔法を使っても酸欠にはならないから、火魔法を使うのはいいんだけど……うん。いいんだけどね。他の冒険者がいるときはお願いだからやらないでね。
◇
七階層を順調に進み八階層に降りると、八階層は迷路型だった。
「わっ!…………ギャア! ヒィィ!」
壁のように生えている木の根か蔓につまずくと、上からちっちゃい虫が降ってきた。
「無理無理無理無理! キモイ! ヤダ! クリーン! クリーン!」
虫はみんながなんとかしてくれたけど、身に纏わせるように結界を張っていたことを後悔した。
クリーンを何回かけても気持ち悪さが抜けきらない。
「うぅ……ここ嫌い! 虫嫌い!」
《主よ、ほら》
前に私がイモムシに腰を抜かしたのを思い出したのか、エルミスが大人サイズになって手を広げてくれたので飛び込んだ。
エルミスはしがみつく私をあやすようにポンポンと背中を叩いてくれる。
『ここにゃにかおかしいです』
「な、なに? また虫?」
「いえ、おそらくこの蔦のことかと」
エルミスにしがみついたまま、ネラースとジルベルト君が教えてくれた場所を見てみると、確かに何かおかしい。
「あれ? これ、通路が隠れてる?」
〈燃やすか〉
――――ボンッ!
「ヒィィィィ!」
グレンが火魔法を放つとまたたく間に火が燃え広がり、上からまたもや虫がボロボロと落ちてきた。
先程のことを踏まえて大きめに結界を張っていたからいいものの、結界にコンコンと当たって地面に落ちていく。
下には日本サイズの幼虫やらムカデやらと虫の死骸が散乱していて、歩きたくない。
「うぅ……虫嫌いぃ……グレンがいじめる。いじわるなグレンは嫌い」
〈すまん! わざとではない!〉
一度目は自分のせいだけど、虫嫌いの私は既に涙目。
『この階層では火魔法使わない方がいいわね。んもう、主様、大丈夫よ。呪淵の森のときは大丈夫だったのに小さいのがダメなの?』
「あれは大きかったからファンタジー感強かったけど、小さいのとウジャウジャは嫌い」
『ご機嫌直して』
クラオルとグレウスがスリスリと癒してくれ、ポラルが心配そうに私を見上げていた。
「ポラルは大好きだよ」と撫でてあげると、安心してくれたみたい。
アクランが大火事になる前に鎮火させてくれたけど、中途半端に燃えた木から焦げ臭さと、生木を燃やした際の独特の匂いを放っている。
落ち着いてから見てみると、ネラースが怪しんでいたところはポッカリと穴が空いて、通路になっていた。
隠し通路だったらしい。
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