167 / 541
7章
生命の源
しおりを挟む朝早く、冒険者でごった返す前に冒険者ギルドの掲示板の前へ。
うん、やっぱりあった。井戸掃除。そしてこの黄ばみ具合を見ると、しばらく受けられてないこともわかる。
「常設依頼だけど、一応声かけてこうか」
私達がカウンターに近付くと、ちょうど二階からギルマスが下りてきた。
私が井戸掃除をすると言うと、ギルマスに「セナ様にそんなことさせられません!」って言われたけど、誰も受けてないから依頼書がこんなに黄ばんでるんだと思うの。
街の井戸の数の多さと報酬の少なさが原因かな? 井戸ひとつにつき銀貨一枚ってありえないでしょ。キレイな井戸ならいざ知らず、汚くても値段が変わらないんじゃ、そりゃあ受けたくないよね!
◇
昨日ポラルに協力してもらって、グレンとジルベルト君と私の防水のオーバーオール風パンツ作って準備はバッチリ!
靴も一体化仕様だから「レインブーツの中に水がー!」なんてことにはならないぜ! まぁ、パパ作のブーツは別として、そもそもレインブーツを持ってないんだけどね。
一番最初はやっぱり私達が泊まっている宿の井戸だよね!
私達が部屋で着替えて下に降りると、ラゴーネさんに驚かれた。優しい人には優しさを返したくなるから頑張るよ。
井戸に案内してもらって井戸の中に降りると細い川が流れていて、降りた場所は広いけど、川沿いに洞窟のようになっていた。街の井戸が全部繋がっているらしい。
「なんだぁ。地図で井戸の場所調べてたけど、繋がってたんだねー。しかも地上はカラッカラなのに水量そこそこあるし」
《本流から支流を作ったようだな》
「なるほど」
本流はたぶん領主のところだろうなー。
「それにしても汚いねー。水自体はキレイなのに、水の中も土っていうかヘドロこびり付いてるし」
「セナ様、本流の方から掃除した方がよろしいかと思います」
「そうだね。ここ掃除しても本流から汚れが流れてきちゃうかもしれないもんね」
エルミスに水の流れを見てもらい、本流への近道を教えてもらう。エルミスが言うには支流に支流で、ただ上流に向かうのじゃ大回りになるらしい。
《着いた》
「うわぁ……きったねぇ……あげくに超臭ぇ」
思わず口が悪くなってしまうくらい、壁も地面もヘドロがこびり付いて悪臭を放っている。
宿の井戸のところが一番マシだったことを考えると、ラゴーネさんが定期的に掃除をしていたんだと思う。それでも汚かったけど……
〈鼻がバカになりそうだ……〉
「これはキツいですね……」
グレンもジルベルト君も鼻をつまんでいるのに臭いで顔色が悪い。
悪臭が取れるように辺り一帯【クリーン】をかけると、少しマシになった。普通の【クリーン】では汚れは落ち切らないらしい。
臭いを遮断するようにと願いを込めて結界を張ると、普通に呼吸ができるくらいの臭いに落ち着いて、全員が息を吐いた。
〈はぁ……助かった〉
「ありがとうございます」
「廃教会直すときもクリーンでキレイになったのに、汚れ落ちないとかヤバすぎでしょ」
ギルマスとラゴーネさんに貸してもらった掃除道具で汚れを落としていく。川には流せないためアイテムバッグにバケツごと入れて、バケツだけ取り出すを繰り返すハメになった。
付き合わせちゃってるグレンとジルベルト君に申し訳なさすぎる!
この重労働で銀貨一枚とか絶対ナメてる。今日の夜ご飯のあとは思いっきりデザート堪能してやる!
『ねぇ、主様。主様の【浄化】でキレイにならないのかしら?』
「その手があった!」
『主様! あの聖泉みたいにしちゃダメよ!』
「へ?」
『あんなにキレイになったら目立っちゃうでしょ? (本当は効能的にマズイんだけど)』
「そっか、そうだね。ココがキレイになるくらいだね」
んー……ヘドロが落ちて、川底に溜まってる土が全部流れていく感じ!
「〈『『おぉー!』』〉」
みんなの声が聞こえて閉じていた目を開けると、先程までのヘドロがキレイになくなっていた。川底の泥も流れたのかなくなっていて、なにより。
「おぉ! これなら楽チンだね! ちゃっちゃとやっちゃおう!」
井戸の中を歩き回って【浄化】をかけまくり、宿の井戸まで戻ってきた。
ここは今までのにプラスして、汚れが付きにくくなったらいいなーと、【浄化】をかけて依頼は完了だ。
「ふぅ。お疲れ様ー! みんな付き合ってくれてありがとう!」
みんなにお礼を言って井戸を登ると、ラゴーネさんが待っていてくれた。
「申し訳ございません」
「なんでラゴーネさんが謝るの?」
「セナ様を利用するつもりはなかったのです……」
「なんのこと? 私はギルドで依頼を受けただけだよ」
「セナ様…………ありがとうございます」
「ふふっ。変なラゴーネさん」
ラゴーネさんが気にしているのは昨日男性と話し込んでいた内容だろう。
プルトン情報では、来ていた男性は領主の使用人。私がキアーロ国を救ったと聞いたその男性が、“街の水質改善をするようにラゴーネさんから私に口添えをしろ”って内容を言いに来ていたんだけど……ラゴーネさんは「お客様にそのようなことは言えません」と、頑なに断っていた。――ここで重要なのは、この男性は領主からの命令を受けていたワケではない。つまり、使用人の暴走。
水質改善ということは井戸だろうなと、ギルドで依頼を受けたんだよね。
水は生きるのに必要不可欠だから、優しいラゴーネさんが困ったら嫌だなって思って受けたんだけど……ラゴーネさんは断っていてくれたし、すっとぼけるに限る!
宿を出て、ギルドに報告に行こうと歩き出すと、ジルベルト君に腕を引かれた。
「セナ様、顔色があまり良くありませんが、具合が悪いのですか?」
「ん? なんともないから大丈夫だよ?」
実際なんともないのにグレンに抱っこされて冒険者ギルドに着くと、ギルマスに出迎えられそのまま応接室に案内された。
謝り通しのギルマスにソファに座ってもらい、井戸の清掃が完了したことを伝える。
「ただ、今のままだと受けてもらえないと思います」
「はい……」
「純粋に報酬を上げるとか……街のみんなが使うものなんだから、月に一度とかでも全員参加の清掃の日を設けるとか……冒険者ギルドのペナルティとして、従事させるとか……色々方法はあると思うんです」
「なるほど……領主様にその内容を進言してもよろしいでしょうか?」
「ギルマスが進言するのなら構いません」
むしろ、自分の領地なんだからしっかりしなさい!って怒ってもいいと思うんだよね。水は生命の源だと思うの。
ギルマスは報酬を上乗せしてくれようとしたんだけど、依頼書に明記されているのを了承して受けたからと遠慮しておいた。
昨日頼んでおいた解体した肉と毛皮、報酬を受け取ってソファから立ち上がると、立ちくらみのように一瞬フラッとしてしまい、ただでさえ心配してくれていたみんなに余計に心配されてしまった。
グレンに抱っこされて宿まで戻る途中、温もりと心地よい振動でウトウトしてきてしまう。
おなかは減っているのに睡魔には勝てず、そのまま眠ってしまった。
785
お気に入りに追加
24,992
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。