134 / 530
6章
ダンジョン【2】
しおりを挟む三階層の階段近くでお昼ご飯を食べ、四階層に進んだ。
四階層はアホスライム。
名前がなんとも言えないこのスライムは鈍色で他のスライムよりも弾力が強かった。今までのスライムがゼリーだとすると、このアホスライムはグミってところだろうか。
手を突っ込むと、溶かすというよりも締め付けて骨を折ろうとしてくる。
核が外からでは見えないので、手を突っ込んで手探りで探さないといけない。
今までのスライムよりも時間をかけて核と【アホスラ粉末】を手に入れた。
私とジルベルト君を心配して、回収はグレンがやってくれることになった。
「スライムってこんなに種類いるんだねー。本で見て少しは知ってたけど、実際見ると面白いね」
〈スライムは謎に包まれているからな。100種類とかいるんじゃないか?〉
「えぇ!? 本にもそんなに載ってなかったよ」
〈新種がどんどん出るから追いつかないんだろ〉
私と会話をしながらもグレンは現れたスライムから核を回収している。
私とジルベルト君はグレンが回収できるように倒さない程度に牽制しているだけだ。
〈罠も見当たらんな〉
「そうだねぇ。採掘って言われたけど、鉱石も見当たらないんだよね」
鑑定を使って壁を調べているものの、鉱石の反応がない。
鉱石が取れなかったら依頼は失敗になってしまう。ダンジョンに近い場所に新しく坑道を掘る……なんてことはしたくないから、ダンジョン内でなんとか採掘できる場所を探したい。
五層に下りると、今までダンジョン内で遭遇したスライム全種類に足してゴブリンが現れた。
「ここでゴブリンが出るんだ」
「弱いですが、こう数が多いと低ランク冒険者の子供のスタミナは持たなそうですね」
〈普通の子供ならスライムで諦めるだろ。核を正確に狙って倒せるとは思えん〉
私達は話しながら現れた魔物を片っ端から狩っていく。
ダンジョンのいいところは戦闘後のグロさがないところ。魔物は死んだ瞬間にモヤっとしたエフェクトが起こりすぐに消えてしまう。
スライムのドロップ品はどれも使用用途不明。ゴブリンのドロップ品は小さな魔石か、錆びた短剣や片手剣などボロボロで使いたいと思えない粗悪品の武器か、全く何も落とさないかの三通り。
使えない物は売れない。売れても二束三文。確かに冒険者にとってはいいところが何もないダンジョンだ。
《主よ、律義に全て拾っているが、いらない物まで拾う必要はないと思うぞ》
「ん? これ? これは粗悪品だけど、一応鉄からできてるから溶かして成型し直したら使えるんじゃないかと思ってさ。使い捨ての鏃とか」
エルミスは、私がゴブリンのドロップ品を拾っているのが不思議だったらしい。まぁ、普通の冒険者なら荷物になるいらないものをわざわざ拾わないもんね。
説明に納得したらしく、エルミスとプルトンもドロップ品を拾うのを手伝ってくれた。
あらかた狩り尽くし六層に下りると、階段からまっすぐ進んだ先に大きな扉が構えていた。
〈ボス部屋だな。このダンジョンの最奥だ〉
「そっか。ボスはなんだろうね」
ボス部屋の前で糖分補給のために少し休憩してから扉に触れると……ギギギィーっと音を立てて勝手に開いた。
「へぇー! 便利だねぇ!」
〈大体のダンジョンはこうだ〉
「そうなんだ!」
私達がボス部屋に入ると、また音を立てて扉が閉まった。
ボスとの戦闘が終わるまで開かないんだそうだ。
ボス部屋は天井も高く、広間のように広かった。これなら暴れても大丈夫そう。
「こういうのもテンプレなのか~」
――――ギィヤァァァァァァ
私が後ろを振り向いて、閉まった扉に異世界ダンジョンあるあるだと感心していると、耳障りな大声が洞窟内に響き渡った。
大声を上げたボスはゴブリン戦隊。ゴブリンマージ、ゴブリンアーチャー、ゴブリンソルジャー……そして真ん中に一際大きいゴブリンコマンダ。その五匹を守るように配下のゴブリンが大量にいた。
「今まで戦ってきた階層の敵から考えると有り得ないほど強いですね」
「そうなの?」
「はい。あのスライムとゴブリンから考えれば、このダンジョンのボスはゴブリンソルジャーが二体程度だと思います」
〈どっちみち弱い〉
「そうですね。ですが、ギルドへは報告しておいた方がよろしいかと思います」
数が多いので向かってきたゴブリンを風魔法と氷魔法で攻撃していく。
ゴブリンはゴブリンコマンダが指示を出しているみたいだけど、私達との力量差がありすぎる。
完全にオーバーキル。攻撃らしい攻撃を受けないまま二分くらいで片付いてしまった。
ボスのドロップ品はボスを倒した際に出現する宝箱だ。中身はダンジョン難易度やボスの強さによって変わる。
同じダンジョンで同じボスを倒したとしても違うものが宝箱には入っていたりするので、ランダム要素もあるらしい。この情報はグレンとジルベルト君が教えてくれた。
さて、宝箱の中身は……魔石数個とゴブリンコマンダ達が使っていた武器だった。
「い、いらない……今までのゴブリンと変わらないじゃん。鉱石とかにしてくれればいいのに」
〈弱いからな。こんなもんだ〉
期待を打ち砕かれた私の頭をグレンがクシャクシャと撫でて慰めてくれた。
ボス部屋は壁に鉱石の反応があったので、雑魚ゴブリンのドロップ品を回収したら採掘を始める。
ゲーノさんから借りたツルハシを身体強化を使って振り下ろす。
時間が経つとボスもリポップしてしまうので、そちらはグレンに任せようと思ってたんだけど……クラオル軍曹の下、ネラース達の手加減訓練が行われることになってしまった。
クラオルいわく、実地訓練なんだそうです。
私とジルベルト君がツルハシを使い、エルミスとプルトンには鑑定と仕分け作業をお願いした。グレウスは私の癒し要員兼崩れないように壁の補修をしてもらっている。
「ふぅ。こんなもんでいいかな?」
汗を拭って、息を吐いて確認すると鉱石の種類毎に山ができていた。
時間を確認すると、もう夕方だった。数時間ぶっ通しで採掘に没頭していたらしい。
私もジルベルト君も砂だらけでベトベト。顔を見合わせてお互いの姿に笑ってしまった。
鉱石を全て回収してクラオル達を見てみると、こちらも砂まみれ。
声をかけてみんなまとめて【クリーン】をかけ、すっきりしたら、ボス部屋の最奥から続く小部屋にある転移魔法陣からダンジョンの入り口に戻る。
これもダンジョンの醍醐味。
今回は初級も初級のダンジョンだったから六層がボス部屋だったけど、二十層以上のダンジョンもざらにある。そういう場合は中ボス部屋の続き部屋に下に降りる階段と転移魔法陣がある。ダンジョン内の転移魔法陣は繋がっていて、自分が行ったことのある階層を選択して移動できる。
このダンジョンは階層が浅いためなかったけど、階層が深いダンジョンでは入口付近にも転移魔法陣が設置されている。そこから途中まで下がることもできるし、深い場所から入り口まで戻ることも可能なのだ。
転移魔法陣は伝説と言われているのに、ダンジョンには普通に存在する。ダンジョンは不思議なものだからと、この世界の人は気にしていないらしい。
この転移魔法陣を調べたら研究も進むんじゃないかと思うけど、そういう考えは思い付かないんだそう。常識って怖い。
ダンジョンを出ると、外は夕暮れに染まっていた。
1,286
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜
咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。
元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。
そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。
「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」
軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続!
金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。
街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、
初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊!
気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、
ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。
本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走!
ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!?
これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ!
本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
転生令嬢は庶民の味に飢えている
柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!!
もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ!
ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。
まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。