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6章

ダンジョン【2】

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 三階層の階段近くでお昼ご飯を食べ、四階層に進んだ。

 四階層はアホスライム。
 名前がなんとも言えないこのスライムはにび色で他のスライムよりも弾力が強かった。今までのスライムがゼリーだとすると、このアホスライムはグミってところだろうか。
 手を突っ込むと、溶かすというよりも締め付けて骨を折ろうとしてくる。
 核が外からでは見えないので、手を突っ込んで手探りで探さないといけない。
 今までのスライムよりも時間をかけて核と【アホスラ粉末】を手に入れた。
 私とジルベルト君を心配して、回収はグレンがやってくれることになった。

「スライムってこんなに種類いるんだねー。本で見て少しは知ってたけど、実際見ると面白いね」
〈スライムは謎に包まれているからな。100種類とかいるんじゃないか?〉
「えぇ!? 本にもそんなに載ってなかったよ」
〈新種がどんどん出るから追いつかないんだろ〉

 私と会話をしながらもグレンは現れたスライムから核を回収している。
 私とジルベルト君はグレンが回収できるように倒さない程度に牽制しているだけだ。


〈罠も見当たらんな〉
「そうだねぇ。採掘って言われたけど、鉱石も見当たらないんだよね」

 鑑定を使って壁を調べているものの、鉱石の反応がない。
 鉱石が取れなかったら依頼は失敗になってしまう。ダンジョンに近い場所に新しく坑道を掘る……なんてことはしたくないから、ダンジョン内でなんとか採掘できる場所を探したい。


 五層に下りると、今までダンジョン内で遭遇したスライム全種類に足してゴブリンが現れた。

「ここでゴブリンが出るんだ」
「弱いですが、こう数が多いと低ランク冒険者の子供のスタミナは持たなそうですね」
〈普通の子供ならスライムで諦めるだろ。核を正確に狙って倒せるとは思えん〉

 私達は話しながら現れた魔物を片っ端から狩っていく。
 ダンジョンのいいところは戦闘後のグロさがないところ。魔物は死んだ瞬間にモヤっとしたエフェクトが起こりすぐに消えてしまう。

 スライムのドロップ品はどれも使用用途不明。ゴブリンのドロップ品は小さな魔石か、錆びた短剣や片手剣などボロボロで使いたいと思えない粗悪品の武器か、全く何も落とさないかの三通り。
 使えない物は売れない。売れても二束三文。確かに冒険者にとってはいいところが何もないダンジョンだ。

あるじよ、律義に全て拾っているが、いらない物まで拾う必要はないと思うぞ》
「ん? これ? これは粗悪品だけど、一応鉄からできてるから溶かして成型し直したら使えるんじゃないかと思ってさ。使い捨てのやじりとか」

 エルミスは、私がゴブリンのドロップ品を拾っているのが不思議だったらしい。まぁ、普通の冒険者なら荷物になるいらないものをわざわざ拾わないもんね。
 説明に納得したらしく、エルミスとプルトンもドロップ品を拾うのを手伝ってくれた。

 あらかた狩り尽くし六層に下りると、階段からまっすぐ進んだ先に大きな扉が構えていた。

〈ボス部屋だな。このダンジョンの最奥だ〉
「そっか。ボスはなんだろうね」

 ボス部屋の前で糖分補給のために少し休憩してから扉に触れると……ギギギィーっと音を立てて勝手に開いた。

「へぇー! 便利だねぇ!」
〈大体のダンジョンはこうだ〉
「そうなんだ!」

 私達がボス部屋に入ると、また音を立てて扉が閉まった。
 ボスとの戦闘が終わるまで開かないんだそうだ。
 ボス部屋は天井も高く、広間のように広かった。これなら暴れても大丈夫そう。

「こういうのもテンプレなのか~」
――――ギィヤァァァァァァ

 私が後ろを振り向いて、閉まった扉に異世界ダンジョンあるあるだと感心していると、耳障りな大声が洞窟内に響き渡った。
 大声を上げたボスはゴブリン戦隊。ゴブリンマージ、ゴブリンアーチャー、ゴブリンソルジャー……そして真ん中に一際大きいゴブリンコマンダ。その五匹を守るように配下のゴブリンが大量にいた。

「今まで戦ってきた階層の敵から考えると有り得ないほど強いですね」
「そうなの?」
「はい。あのスライムとゴブリンから考えれば、このダンジョンのボスはゴブリンソルジャーが二体程度だと思います」
〈どっちみち弱い〉
「そうですね。ですが、ギルドへは報告しておいた方がよろしいかと思います」

 数が多いので向かってきたゴブリンを風魔法と氷魔法で攻撃していく。
 ゴブリンはゴブリンコマンダが指示を出しているみたいだけど、私達との力量差がありすぎる。
 完全にオーバーキル。攻撃らしい攻撃を受けないまま二分くらいで片付いてしまった。

 ボスのドロップ品はボスを倒した際に出現する宝箱だ。中身はダンジョン難易度やボスの強さによって変わる。
 同じダンジョンで同じボスを倒したとしても違うものが宝箱には入っていたりするので、ランダム要素もあるらしい。この情報はグレンとジルベルト君が教えてくれた。

 さて、宝箱の中身は……魔石数個とゴブリンコマンダ達が使っていた武器だった。

「い、いらない……今までのゴブリンと変わらないじゃん。鉱石とかにしてくれればいいのに」
〈弱いからな。こんなもんだ〉

 期待を打ち砕かれた私の頭をグレンがクシャクシャと撫でて慰めてくれた。

 ボス部屋は壁に鉱石の反応があったので、雑魚ゴブリンのドロップ品を回収したら採掘を始める。
 ゲーノさんから借りたツルハシを身体強化を使って振り下ろす。
 時間が経つとボスもリポップしてしまうので、そちらはグレンに任せようと思ってたんだけど……クラオル軍曹の下、ネラース達の手加減訓練が行われることになってしまった。
 クラオルいわく、実地訓練なんだそうです。

 私とジルベルト君がツルハシを使い、エルミスとプルトンには鑑定と仕分け作業をお願いした。グレウスは私の癒し要員兼崩れないように壁の補修をしてもらっている。

「ふぅ。こんなもんでいいかな?」

 汗を拭って、息を吐いて確認すると鉱石の種類ごとに山ができていた。
 時間を確認すると、もう夕方だった。数時間ぶっ通しで採掘に没頭していたらしい。
 私もジルベルト君も砂だらけでベトベト。顔を見合わせてお互いの姿に笑ってしまった。
 鉱石を全て回収してクラオル達を見てみると、こちらも砂まみれ。
 声をかけてみんなまとめて【クリーン】をかけ、すっきりしたら、ボス部屋の最奥から続く小部屋にある転移魔法陣からダンジョンの入り口に戻る。
 これもダンジョンの醍醐味。

 今回は初級も初級のダンジョンだったから六層がボス部屋だったけど、二十層以上のダンジョンもざらにある。そういう場合は中ボス部屋の続き部屋に下に降りる階段と転移魔法陣がある。ダンジョン内の転移魔法陣は繋がっていて、自分が行ったことのある階層を選択して移動できる。
 このダンジョンは階層が浅いためなかったけど、階層が深いダンジョンでは入口付近にも転移魔法陣が設置されている。そこから途中まで下がることもできるし、深い場所から入り口まで戻ることも可能なのだ。

 転移魔法陣は伝説と言われているのに、ダンジョンには普通に存在する。ダンジョンは不思議なものだからと、この世界の人は気にしていないらしい。
 この転移魔法陣を調べたら研究も進むんじゃないかと思うけど、そういう考えは思い付かないんだそう。って怖い。


 ダンジョンを出ると、外は夕暮れに染まっていた。


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