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6章
久しぶりのお仕事
しおりを挟む今日は久しぶりにちゃんと依頼を受けようと冒険者ギルドにきた。
混んでいる時間を避けたため、数日前ほど冒険者はおらずすんなりと依頼書が貼ってある掲示板の前に来れた。
掲示板がよく見えるようにグレンに抱っこしてもらい、依頼書を眺める。
〈何を受けるんだ?〉
「私とジルベルト君のパーティランクがEだから、そのランクで受けられるやつだよ。ってあれ?」
〈どうした?〉
「これ、タルゴーさんに紹介状書いてもらったホットプレート作った人がいる村じゃない?」
〈あぁ、そうだな。……ダンジョン化してしまった坑道での間引きと採掘か。これにするのか?〉
「村に行きたいから丁度いいかと思ったけど、これCランクだから受けられないね。残念」
「それ、受けてもらえるんですか!?」
後ろから大声が聞こえて振り返ると、前に手紙の受け付けをしてくれたウサ耳お姉さんだった。
周りの冒険者達も、他のギルド職員さんもみんな何事かと固まっている。
「それ、受けてもらえるんですか!?」
私をまっすぐ見つめて、お姉さんが先程と同じセリフを口にした。
私達に聞いているらしい。
「ランクが足りないので受けられません」
「そうですか……なら、もし指名依頼にしたら受けてもらえますか?」
私達に問いかけるウサ耳お姉さんは両手を胸の前で握り、グレンに抱っこされている私を涙目で見上げてくる。
ウサ耳お姉さんの様子に私達は顔を見合わせた。
とりあえず注目されているので、隅に寄ってお姉さんから事情を聞いてみる。
依頼主の村はウサ耳お姉さんの故郷で、ダンジョンとなっているのに気が付いたのは半年程前。村人は全員が採掘をして生計を立てているわけではないため、坑道に毎日人が入るわけではない。
採掘しようと村人が入ると既にダンジョン化していて、坑道内を魔物が闊歩していた。おかげで村人が負傷、採掘ができないため冒険者ギルドに依頼を出したものの一度も受けてもらえず途方に暮れていた。――とのことだった。
私のことは王都の冒険者ギルドからの通達で街に来る前から知っていたらしい。
「二つ聞いてもいいですか?」
「はい。答えられる範囲でしたら」
「村なら領主がいますよね? 領主からとして依頼を出したら受ける人がいたと思うんですけど」
「村から一番近い街はこの街ですが、村はこの街の領地ではないんです。村の領主様は……村に関心がありません。この街の領主様のおかげでなんとか生活できています」
「なるほど……」
飛び地ってことね。この街の領主の管轄じゃないから、この街の領主は手が出せないってところかな? 貴族はそういう体裁気にするだろうし。
「二つめの質問です。普通であればダンジョンが新しく発見されたら我先にと受けたがると思うんですけど」
「それは、依頼内容です。鉱石が見分けられない人が多いのと、採掘してきて欲しい鉱石の量が多いからです……」
依頼を受けずにダンジョンに入った人もいたけど、出現する魔物は低レベル、めぼしいものは何もない。ドロップ品も役に立たないものばかり……と、冒険者にはうまみがないため今ではほとんど冒険者が訪れないらしい。
採掘するにはツルハシを振るわなければならず、体力面と採掘量を考えてランクが決められたらしい。
「セナ様に指名依頼なんて図々しいかと思いますが……なんとかお願いできないでしょうか? やはり報酬が少ないから……」
考えている間にウサ耳お姉さんの思考が受けない方向に傾いていた。
「考え事をしていました。このままだとランク的に無理なので、指名依頼にしてもらえたら受けますよ。報酬はそのままで大丈夫です」
「ほっ、本当ですか? ありがとうございますうぅぅ……」
「え!? お姉さん泣かないでっ」
まだ受けてもらえていないのにウサ耳お姉さんに泣かれてしまい、とりあえずハンカチを出してお姉さんに渡した。
「ずみまでん……うれじぐで。ずびっ」
お姉さんは涙を拭かず、私のハンカチで…………思いっきり鼻をかんだ。
「ありがとうございます……あ、ちゃんと洗ってお返しします」
「い、いえ。そのハンカチは差し上げます」
「いいんですか?」
「はい」
お姉さんは不思議そうにコテンと首を傾げているけど、鼻水でピタピタになったハンカチは返されても使わないと思う。
村までは歩いて一日ほど。馬車を用意するか聞かれたけど断った。
指名依頼としてパーティで受けてから街を出た。
少し離れたところでネラース達を呼んで村まで走ってもらう。
途中でお昼ご飯を食べたけど、村までは三時間もかからなかった。
「こんにちは。冒険者ギルドから依頼を受けてきました。村長さんはどこですか?」
私が声をかけると、入り口近くにいたヨボヨボのおじいちゃんがアゴが外れるんじゃないかと思うくらい驚かれた。
「おじいちゃーん。大丈夫?」
「フガッ! そ、村長はワシじゃ……」
「あぁ、村長さんでしたか。これウサ耳お姉さんからの手紙です」
村長さんにウサ耳お姉さんから預かった手紙を渡し、その場で読み終わるのを待つ。
「とりあえず、我が家へ案内します」
おじいちゃんは歩くのがめちゃくちゃ遅い。途中からグレンが耐えきれなくなり、おじいちゃんを持ち上げて運ぶことになった。
「ありがとうございます。あなた方が本当に受けて下さるんですか?」
「はい。もうギルドで受けてきました」
「こんな小さな子供に受けさせるなんて……しかも指名依頼にしたなんて、あの子は一体何を考えているんだか」
おじいちゃんの瞳は優しい色を湛えていて、私とジルベルト君のことを本気で心配してくれているのがわかった。
「おじいちゃん、心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」
〈この村の住民が束になってもセナには勝てんぞ〉
「そんなまさか!」
信じてもらえないときのためにウサ耳お姉さんに手紙を書いてもらったんだけど、全く効果がなかった。
うーん……困ったな……
「とりあえず、ギルドカードです」
「これは……この幼さでEランク!?」
「はい。なので安心してください」
掲示板に貼ってあったときはCランク依頼だったから渋い顔をされることを予想したんだけど、そんなことは杞憂だったらしい。
Eランクでも大丈夫だと思ったのか、おじいちゃんは話してくれたけど、細かいことはわからないとのことで、採掘に入ってケガをした村人の家を聞いた。
おじいちゃんに教えてもらった村人の家は村の中心にあり、村の中では比較的大きい平屋だった。
ノックをすると出てきたのはジルベルト君と身長が変わらないずんぐりむっくりしたおじさんだった。
「オイはゲーノっつーもんだ。ほんとにアンタらが入るのか?」
「ゲーノ? ゲーノってホットプレートの人?」
「そりゃなんだ? オイは熱鉄板を……」
「そう! それ! ゲーノさんに作ってもらいたいものがあって……これ、タルゴーさんの紹介状です」
「んあ? タルゴー商会か?」
私が渡した紹介状を読むと、どんなものを作ればいいんだと聞いてくれたので、これでもかと力説した。出来上がったもので作る美味しいモノを想像しながら。
「お、おう……すんげぇ欲しがってんのはわかった。だが鉱石がないと作れない」
「任せて! 鉱石採取ってどの鉱石が必要なんですか?」
「アンタさっきと話し方ちげぇな……取ってきて欲しいのはこれだよ」
ゲーノさんは手のひらサイズの石を渡してくれた。鑑定してみると【スティーレス石】というステンレスだった。
これは私も欲しい!
ゲーノさんは魔族のドワーフなんだけど、魔力が少ないのと細かい制御が苦手らしく、魔道具はホットプレートしか作れないとゲーノさんは言う。むしろやっと作れるようになったのがホットプレートだったんだそう。
他にはこの村で使う農具や簡単な武器を作っているらしい。
ゲーノさんは鼻の下にもっさりとした髭を生やしているけど、ゲームによくある毛むくじゃらじゃなかった。
ゲーノさんいわく、ドワーフの女の子も毛むくじゃらではなく人族と変わらないんだそう。
ただ、人族よりも全体的に身長が低く肌の色がバラバラで、基本的に力持ちらしい。
ゲーノさんが作っているものをみせてもらったり、鍛冶の話を聞いているうちに夜になってしまい、今夜は泊まらせてもらうことになった。
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