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6章
重い愛とサプライズ
しおりを挟むガイ兄に無言で引き剥がされて、エアリルパパが口を尖らせた。
「さっき聞いたんだけど、アクエスとイグニスになにかお願いしたんでしょう?」
エアリルパパを放置してガイ兄が話しかけてきた。
そんなガイ兄を睨むエアリルパパ。
でも顔が可愛いから全然怖くない! むしろちょっと涙目で可愛さが増している。
「私達にも何かないのかな?」
「ん~。特に思い付かないかな。馬車も、ネラース達と出会えたのもパパ達みんなのおかげだし……お世話になりすぎなくらいだから。本当はアクエスパパにもイグ姐にも頼むつもりはなかったんだ」
「そうか……アクエスとイグニスのために頼んだんだね」
「でも内容は自分のためだから……それだと語弊がある気がする」
エアリルパパを撫でながらガイ兄に答えていると、エアリルパパの膝の上に座らされた。
なんでこの体勢になったのかな? パパよ。そのグリグリは地味に痛いぞ。
「僕はセナさんに会えないなんて耐えられません! もっと頼って欲しいです……神でもありますが、パパですから!」
私が先程呑み込んだ、パパ達はみんなの神様だからという言葉はもう言えなくなってしまった。
「そうだね。セナさんはしっかりしなくちゃと思っているけど、私達には遠慮なく甘えて欲しいんだよ。今はまだ五歳だし。まぁ、あちらの世界の年齢でも私達からしたら子供だけどね。(まぁそんなセナさんだから放っておけないんだけど)」
ふふっと微笑みながら言うガイ兄の最後の言葉は小さくて聞き取れなかった。
「うーん……とりあえず、教会に行くようにするね」
「うんうん。そうしてくれると嬉しいよ。さて、そろそろ今日一番のお披露目をしようか!」
「お披露目?」
「ふふっ。楽しみにしていて」
ガイ兄は私の頭を撫でてからイグ姐とアクエスパパの方へ歩いて行き、二人に話しかけている。
「パパ達はお仕事忙しいの?」
「少しバタバタはしていましたが、セナさんに会えたので大丈夫になりました」
「無理しないでね」
「ふふっ。ありがとうございます」
エアリルパパの膝の上に座らされたまま話していると「ゴツンッ!」と穏やかじゃない音が聞こえた。
イグ姐がグレンに拳骨を落としたらしい。
〈ん゛! 痛いではないか……〉
「そなたはそれくらいしないと起きないじゃろ? アレの披露じゃ!」
〈おぉ! やっと見せるのか!〉
痛そうな音だったのにケロリと普通に話し始めたグレンに私は驚きを隠せない。
「ほれ! みんな起きぬか!」
イグ姐が「お披露目じゃぞ!」と、クラオルとグレウスまで起こした。
なんのことだかわからない私は首を傾げるしかない。
「行くぞ!」とイグ姐が張り切りながら指を鳴らして移動した先は私のコテージの空間だった。
『ふふっ。主様不思議そうね』
「うん。ここコテージだよね?」
『そうよ!』
アクエスパパに手を引かれて空間内の森の方へ連れて行かれる。
森を少し歩くと小さな泉と果樹園のように規則正しく樹木が植わっている広場に出た。
「ん? んん? あれって……」
アクエスパパに手を引かれたまま歩いていくと思いもしなかったモノがあった。
「え!? えぇ!? なんで? なんで醤油と味噌の木があるの!? え? どういうこと?」
「ククッ。驚いたか?」
笑いを堪えながらアクエスパパに聞かれたけど、驚いたなんてもんじゃない。ワケがわからない。
『ふふっ。こっちはミリンの木よ!』
クラオルが肩から降りて走って行った先には、確かに呪淵の森でみりんを採取した木が植わっている。
「え? なんで?」
〈これはニホンシュの泉だぞ!〉
直径三メートルほどの泉は日本酒らしい。
私の頭は理解が追いつかず混乱に拍車がかかる。
「ふふふ。以前セナさんが移植できたら便利だとクラオルに言ったでしょう?」
「へ?」
『呪淵の森にミリン取りにくるのが大変って言ってたでしょ? だからガイア様に相談したのよ』
「そう言えばそんなこと言った気がする……でもいつの間に? ずっと一緒にいたのに」
『ふふっ。王都に向かう魔馬車のときよ』
「あ……あぁー!」
そうか……クラオル達がどこかに遊びに行って土まみれて帰ってきてたときか!
「え? じゃあそんな前から準備しててくれたの?」
「そうだよ。空間をいじって移したのは私達だけど、私達はあのときセナさんに会わないようにしていたからね。実際植えて、整えてくれたのはクラオル達なんだ」
「そうだったんだ……」
本当は私の食材が切れたときにビックリさせたかったらしい。でもなかなか切れなくて後回しになっていたんだそう。
今回、私達が焼肉で飲んでいるのを見て、お酒を飲み干しちゃえば披露できると今回の宴を思いついたらしい。
「でも、実際私達もセナさんに会いたかったし、一緒にご飯も食べたいと満場一致で決まったんだ」
「なるほど……」
「嬉しいか?」
私の目線に合わせてしゃがんだアクエスパパに優しく聞かれた。
嬉しいなんて言葉じゃ片付けられない。私の何気ない言葉から私のために移植してくれたのだ。いつでも取りに来られるように私の空間に。
「う……うぅ……ありがとう……」
「セナ!? 嬉しくないのか?」
「違う……嬉しいのっ」
「そうか。ほら」
涙が溢れてしまった私にアクエスパパが手を広げてくれ、胸に飛び込んだ。
アクエスパパはグズグズと泣いている私の背中を優しく叩いてくれる。
「成功じゃの!」
「そこまで喜んでもらえると嬉しいね。エアリルも一人で百面相してないでいっておいでよ」
「うっ! セナさーん!」
アクエスパパにくっ付いて泣いていたらエアリルパパが突っ込んできた。
「セナが潰れるだろ! 考えろ!」
「ずるいです!」
「エアリルは焼肉のときくっ付いていただろ! 今度は俺の番だ!」
「横暴です! アクエスがイグニスと一緒になって飲んでいただけじゃないですか!」
二人が言い合いし始めてしまったけど、私には兄弟喧嘩にしか見えないし、喧嘩しているのに二人共私の頭を撫でる手つきは優しい。
「ふふっ」
「「セナ(さん)!?」」
「パパ達大好き! ありがとー!」
「そのパパ達の中には私達も入っているのかな?」
「もちろんガイ兄もイグ姐も大好きだし、クラオル達みんなも大好きだよ!」
『ワタシ達も主様のこと大好きよ』
クラオルとグレウスのモフモフに頬ずりすると、クラオル達も擦り寄ってきてくれる。
けしからん可愛い。
「そうそう、ポラルからのプレゼントもあるんですよ」
「ポラルから?」
落ち着いたエアリルパパが出してくれたのは……
「パーカー!?……とショーパン!?」
「セナさんが欲しがっていたスウェット生地とデニムというものがわからなかったので、日本の神に聞いて作りました。生地は僕が用意しましたが、ポラルの糸でポラルが縫ったんですよ」
「ポラルすごい! しかも理想そのもの! パパもポラルもありがとう!」
ポラルを抱きしめてポラルにも頬ずりすると、頭にある星マークがわずかにピンク色に変わった。
うちの子達が優秀すぎる!
夜ご飯もみんなで食べて、グレンに頼んで日本酒を確保してテンション高く神界に戻ってきた。
グレンに日本酒確保のために龍牙渓谷に行ってもらわなくてもいいし、ジルベルト君もコテージのことを説明したのでもうコソコソしなくてもいい!
パパ達が明日同じ時間に街の教会に送ってくれるらしいので、神界にお泊まりすることになった。
グレンに催促されて出したリバーシにパパ達が興味を示したのでパパ用のリバーシを作ってあげると大喜びされた。
お風呂に入ることになり、イグ姐に連れて行かれた先はレトロな銭湯風の温泉。ちゃんと男湯と女湯で分かれていて、中はスーパー銭湯みたいにいろんな種類のお風呂。
私が機嫌よくお風呂に入っていくのを見て、そんなにいいものなのかと私の記憶から作ったらしい。
今では神達のお気に入りスポットなんだそう。
キッチリ男女で分かれてスーパー銭湯を満喫した。
イグ姐のボディに何回鼻血が出そうになったことか。
みんなと一緒に眠ることになり、用意されていたのはキングサイズを遥かに凌ぐ大きさのベッド。
みんなで並んで目を閉じる。
(幸せすぎて怖いくらい。なんでパパ達はこんなに可愛がってくれるんだろう)
隣りにいるイグ姐がポンポンと優しく背中を叩いてくれ、温もりと幸せで心地よい睡魔に包まれた。
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