上 下
150 / 538
6章

重い愛とサプライズ

しおりを挟む


 ガイにぃに無言で引き剥がされて、エアリルパパがクチを尖らせた。

「さっき聞いたんだけど、アクエスとイグニスになにかお願いしたんでしょう?」

 エアリルパパを放置してガイにぃが話しかけてきた。
 そんなガイにぃを睨むエアリルパパ。
 でも顔が可愛いから全然怖くない! むしろちょっと涙目で可愛さが増している。

「私達にも何かないのかな?」
「ん~。特に思い付かないかな。馬車も、ネラース達と出会えたのもパパ達みんなのおかげだし……お世話になりすぎなくらいだから。本当はアクエスパパにもイグねぇにも頼むつもりはなかったんだ」
「そうか……アクエスとイグニスのために頼んだんだね」
「でも内容は自分のためだから……それだと語弊がある気がする」

 エアリルパパを撫でながらガイにぃに答えていると、エアリルパパの膝の上に座らされた。
 なんでこの体勢になったのかな? パパよ。そのグリグリは地味に痛いぞ。

「僕はセナさんに会えないなんて耐えられません! もっと頼って欲しいです……神でもありますが、パパですから!」

 私が先程呑み込んだ、パパ達はみんなの神様だからという言葉はもう言えなくなってしまった。

「そうだね。セナさんはしっかりしなくちゃと思っているけど、私達には遠慮なく甘えて欲しいんだよ。今はまだ五歳だし。まぁ、あちらの世界の年齢でも私達からしたら子供だけどね。(まぁそんなセナさんだから放っておけないんだけど)」

 ふふっと微笑みながら言うガイにぃの最後の言葉は小さくて聞き取れなかった。

「うーん……とりあえず、教会に行くようにするね」
「うんうん。そうしてくれると嬉しいよ。さて、そろそろ今日一番のお披露目をしようか!」
「お披露目?」
「ふふっ。楽しみにしていて」

 ガイにぃは私の頭を撫でてからイグねぇとアクエスパパの方へ歩いて行き、二人に話しかけている。

「パパ達はお仕事忙しいの?」
「少しバタバタはしていましたが、セナさんに会えたので大丈夫になりました」
「無理しないでね」
「ふふっ。ありがとうございます」

 エアリルパパの膝の上に座らされたまま話していると「ゴツンッ!」と穏やかじゃない音が聞こえた。
 イグねぇがグレンに拳骨ゲンコツを落としたらしい。

〈ん゛! 痛いではないか……〉
「そなたはそれくらいしないと起きないじゃろ? アレの披露じゃ!」
〈おぉ! やっと見せるのか!〉

 痛そうな音だったのにケロリと普通に話し始めたグレンに私は驚きを隠せない。

「ほれ! みんな起きぬか!」

 イグねぇが「お披露目じゃぞ!」と、クラオルとグレウスまで起こした。
 なんのことだかわからない私は首を傾げるしかない。

 「くぞ!」とイグねぇが張り切りながら指を鳴らして移動した先は私のコテージの空間だった。

『ふふっ。主様不思議そうね』
「うん。ここコテージだよね?」
『そうよ!』

 アクエスパパに手を引かれて空間内の森の方へ連れて行かれる。
 森を少し歩くと小さな泉と果樹園のように規則正しく樹木が植わっている広場に出た。

「ん? んん? あれって……」

 アクエスパパに手を引かれたまま歩いていくと思いもしなかったモノがあった。

「え!? えぇ!? なんで? なんで醤油と味噌の木があるの!? え? どういうこと?」
「ククッ。驚いたか?」

 笑いを堪えながらアクエスパパに聞かれたけど、驚いたなんてもんじゃない。ワケがわからない。

『ふふっ。こっちはミリンの木よ!』

 クラオルが肩から降りて走って行った先には、確かに呪淵じゅえんの森でみりんを採取した木が植わっている。

「え? なんで?」
〈これはニホンシュの泉だぞ!〉

 直径三メートルほどの泉は日本酒らしい。
 私の頭は理解が追いつかず混乱に拍車がかかる。

「ふふふ。以前セナさんが移植できたら便利だとクラオルに言ったでしょう?」
「へ?」
呪淵じゅえんの森にミリン取りにくるのが大変って言ってたでしょ? だからガイア様に相談したのよ』
「そう言えばそんなこと言った気がする……でもいつの間に? ずっと一緒にいたのに」
『ふふっ。王都に向かう魔馬車のときよ』
「あ……あぁー!」

 そうか……クラオル達がどこかに遊びに行って土まみれて帰ってきてたときか!

「え? じゃあそんな前から準備しててくれたの?」
「そうだよ。空間をいじって移したのは私達だけど、私達はあのときセナさんに会わないようにしていたからね。実際植えて、整えてくれたのはクラオル達なんだ」
「そうだったんだ……」

 本当は私の食材が切れたときにビックリさせたかったらしい。でもなかなか切れなくて後回しになっていたんだそう。
 今回、私達が焼肉で飲んでいるのを見て、お酒を飲み干しちゃえば披露できると今回の宴を思いついたらしい。

「でも、実際私達もセナさんに会いたかったし、一緒にご飯も食べたいと満場一致で決まったんだ」
「なるほど……」
「嬉しいか?」

 私の目線に合わせてしゃがんだアクエスパパに優しく聞かれた。
 嬉しいなんて言葉じゃ片付けられない。私の何気ない言葉から私のために移植してくれたのだ。いつでも取りに来られるように私の空間に。

「う……うぅ……ありがとう……」
「セナ!? 嬉しくないのか?」
「違う……嬉しいのっ」
「そうか。ほら」

 涙が溢れてしまった私にアクエスパパが手を広げてくれ、胸に飛び込んだ。
 アクエスパパはグズグズと泣いている私の背中を優しく叩いてくれる。

「成功じゃの!」
「そこまで喜んでもらえると嬉しいね。エアリルも一人で百面相してないでいっておいでよ」
「うっ! セナさーん!」

 アクエスパパにくっ付いて泣いていたらエアリルパパが突っ込んできた。

「セナが潰れるだろ! 考えろ!」
「ずるいです!」
「エアリルは焼肉のときくっ付いていただろ! 今度は俺の番だ!」
「横暴です! アクエスがイグニスと一緒になって飲んでいただけじゃないですか!」

 二人が言い合いし始めてしまったけど、私には兄弟喧嘩にしか見えないし、喧嘩しているのに二人共私の頭を撫でる手つきは優しい。

「ふふっ」
「「セナ(さん)!?」」
「パパ達大好き! ありがとー!」
「そのパパ達の中には私達も入っているのかな?」
「もちろんガイにぃもイグねぇも大好きだし、クラオル達みんなも大好きだよ!」
『ワタシ達も主様のこと大好きよ』

 クラオルとグレウスのモフモフに頬ずりすると、クラオル達も擦り寄ってきてくれる。
 けしからん可愛い。

「そうそう、ポラルからのプレゼントもあるんですよ」
「ポラルから?」

 落ち着いたエアリルパパが出してくれたのは……

「パーカー!?……とショーパン!?」
「セナさんが欲しがっていたスウェット生地とデニムというものがわからなかったので、日本の神に聞いて作りました。生地は僕が用意しましたが、ポラルの糸でポラルが縫ったんですよ」
「ポラルすごい! しかも理想そのもの! パパもポラルもありがとう!」

 ポラルを抱きしめてポラルにも頬ずりすると、頭にある星マークがわずかにピンク色に変わった。
 うちの子達が優秀すぎる!

 夜ご飯もみんなで食べて、グレンに頼んで日本酒を確保してテンション高く神界に戻ってきた。
 グレンに日本酒確保のために龍牙渓谷りゅうがけいこくに行ってもらわなくてもいいし、ジルベルト君もコテージのことを説明したのでもうコソコソしなくてもいい!

 パパ達が明日同じ時間に街の教会に送ってくれるらしいので、神界にお泊まりすることになった。
 グレンに催促されて出したリバーシにパパ達が興味を示したのでパパ用のリバーシを作ってあげると大喜びされた。

 お風呂に入ることになり、イグねぇに連れて行かれた先はレトロな銭湯風の温泉。ちゃんと男湯と女湯で分かれていて、中はスーパー銭湯みたいにいろんな種類のお風呂。
 私が機嫌よくお風呂に入っていくのを見て、そんなにいいものなのかと私の記憶から作ったらしい。
 今では神達のお気に入りスポットなんだそう。

 キッチリ男女で分かれてスーパー銭湯を満喫した。
 イグねぇのボディに何回鼻血が出そうになったことか。

 みんなと一緒に眠ることになり、用意されていたのはキングサイズを遥かにしのぐ大きさのベッド。
 みんなで並んで目を閉じる。
(幸せすぎて怖いくらい。なんでパパ達はこんなに可愛がってくれるんだろう)

 隣りにいるイグねぇがポンポンと優しく背中を叩いてくれ、温もりと幸せで心地よい睡魔に包まれた。


しおりを挟む
感想 1,797

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。