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6章
パパ達の限界
しおりを挟む朝起きると、グレンも二日酔いから復活していてテンションが高かった。
宿の朝ごはんを食べてみんなで教会へ向かう。
教会には住民よりも冒険者がお祈りに訪れているらしく、ひっきりなしに冒険者が着ている鎧がカシャカシャと音をたてていた。
目立たないようにお祈りの間の隅にあるベンチに座り、目を閉じる。
「((パパー!))」
――「キヒターのいる教会に飛ばすよ」――
ガイ兄の声が聞こえたと思ったら空気が動く気配がして、目を開けるとキヒターのいる元廃教会だった。
《女神様!》
「キヒター、久しぶり。早速で悪いんだけど、キヒターもお祈りしてくれる?」
《はい!》
ジルベルト君は何が起きたのかわからず混乱していたけど、私が再びお祈りするように言うと、不思議そうな顔をしたままお祈りしてくれた。
「パパー?」
「セナさん!」
目を閉じてパパを呼ぶとムギュっとエアリルパパに抱きしめられた。
いつもの花畑で神達四人が揃っている。
ジルベルト君も神界に呼ばれていて、パパ達を見て目をこれでもかと見開いていた。
「今日はジルベルト君も一緒だね」
「あぁ、一人放置はさすがに可哀想だから一緒に呼んだ」
エアリルパパに抱きしめられている私の頭を撫でながら、アクエスパパが説明してくれた。
「そっか。ありがとう。新しい街に着いたよ。神界に来たってことは何かあったの?」
「「「「セナ(さん)!」」」」
「ぴぇ!?」
四人にズイッと顔を近付けられて名前を呼ばれ、変な声が出てしまった。
「え? な、なに? 私なんかした?」
「セナ!!」
「ひゃいっ!」
イグ姐に大声で呼ばれて体がビクッと反応する。
なにかしでかしたつもりはないけど何を言われるんだろうかと、ゴクリと喉が鳴った。
「妾も飲みたい! セナの料理を腹いっぱい食べたいのじゃ!」
「へ?…………え? えぇー!?」
怒られるのかと思ったのに、まさかの食の催促!
え? まさか、そんなことで呼んだの? ロッカーに入れていたご飯じゃ足りなかったの?
「レニーレムマッシュのご飯もとても美味しかったです。ありがとうございます」
「それは良かった」
「ですが! 僕達もセナさんと焼肉したいです! セナさんは僕達にもご飯を作ってくれていますが、あんな風に楽しくセナさんとご飯食べられません! うぅ……」
「そうだ! それに、前から……」
私を抱えたままエアリルパパが泣き出してしまった。
泣いているエアリルパパを継いでアクエスパパが説明してくれている。
エアリルパパをヨシヨシと撫でながらこの状況をどうしようかと逡巡する。
エアリルパパとアクエスパパの話をまとめると……
ずっと一緒にご飯を食べたいと思っていたけど騎士団と一緒だったから我慢していた。私があまりパパ達にご飯を作らなくなって寂しかった。焼肉をしながらお酒を飲んで楽しそうに騒いでるのを見て我慢できなかった。神達も一緒に楽しく食べて飲んで、とワイワイしたい!ってのことらしい。
「あんまり差し入れできなくてごめんね。気を付けるよ」
「違うよ。そうじゃない。セナさんが大変なのはわかってる。“ちょっと家政婦みたい”って思っていることも知ってる。私達はセナさんの負担になる気はないんだ。私達はセナさんに頼って欲しいけど、セナさんは自分で解決しようとするでしょう? セナさんの中に私達がいない気がして寂しかったんだよ。あとは単純に一緒にご飯が食べたかっただけだよ」
私が謝ると、私の頭を撫でながらガイ兄がパパ達の言葉を言い換えた。
つまり極端に言うと、あんまり相手してくれないから寂しい!ってことか。
ほんのちょびっとだけ、「私と仕事どっちが大事なの!?」ってセリフを思い出しちゃったよ。
「そっか……あんまり教会も行ってなかったもんね。ごめんなさい」
「セナさんに会いたかったんですよぉー」
私が謝ると、エアリルパパが再びギュッと抱きしめてから下ろしてくれた。
「さて、とりあえず固まっているジルベルトに説明しないとね。私とエアリルが説明するから、アクエスとイグニスといつもの部屋で待っていてくれるかな?」
「わかった! ジルベルト君にまた女神扱いされたくないからちゃんと説明してくれる?」
私が不安を口にすると、ガイ兄が笑いながら請け負ってくれた。
「じゃあ妾達と行こうかの!」
連れ去られた宇宙人のようにイグ姐とアクエスパパに両手を繋がれ、イグ姐の指パッチンでいつものソファのある部屋に移動した。
今日はなぜかアクエスパパとイグ姐に挟まれる形でソファに座らされ、グレンとキヒターは対面のソファに座っている。
「はぁー。癒されるの」
イグ姐が私を抱きしめながら頭にグリグリと頬ずりをしてくる。
「どうしたの? お疲れなの?」
「ふむ。ちょっとな……それよりも、セナはあのホットプレートを作ったやつに何を頼むんじゃ? 妾が作ってやるぞ?」
話題を逸らすようにイグ姐に言われたけど、せっかく紹介状を書いてもらったからタルゴーさんの好意を無駄にしたくない。そう説明するとイグ姐は肩を落としてしまった。
『ねぇ、主様。前にイグニス様に何かお願いしたいって言ってたわよね?』
「本当か!? なんじゃなんじゃ! 妾に言うてみよ」
何を頼みたいって言ってたっけ?
記憶を掘り起こすとそう言えば一つあったと思い出した。
「あぁ! そう言えばお魚焼く用の金網が欲しかったんだ!」
でもあれは私がまだ鍛冶ができなかったときの話だ。今なら自分でも作れるけど……キラキラとした目を向けられ、見てわかるくらいテンションの上がったイグ姐には言えなかった。
形状を聞いてくるイグ姐に絵を描きながら説明する。
「ほう。網で挟むと身が縮まらぬのか」
「うん。まぁそれはイカとかタコなんだけど、たき火でもお魚焼けたらいいなって思って」
「そうかそうか! セナは魚が好きか!」
アクエスパパまでテンションが上がってしまった。
「あ! パパに聞きたいことあったんだ!」
「なんだ? なんでも答えてやる」
「あのね、にがり知らない?」
「にがり?」
「そう。海水からできるのは知ってるんだけど、どうやってできるのかは知らないんだよね」
「俺も知らないが……海のものなら調べられるから調べてやる」
「本当!? ありがとー!!」
アクエスパパに抱きつくと、アクエスパパにまでグリグリと頬ずりされた。
今日はやたらパパ達のスキンシップが激しい。お仕事のストレスかな?
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