上 下
146 / 537
6章

酒は飲んでも飲まれるな

しおりを挟む


 朝、いつもならクラオルとグレウスが起こしてくれるのに、今日はプルトンが起こしてくれた。

《セナちゃん、おはよー!》
「おはよう、プルトン。みんなは?」
《まだ寝てるわ》

 私が起きようと動くとクラオルが渋い顔をしながら『ゔぅ……』と唸った。

「クラオル大丈夫?」
『ゔぅ……あ、頭痛いわ……』
「あぁ……二日酔いだね。ゆっくり休んでて大丈夫だよ」

 クラオルを撫でてあげると少し楽になったのか、表情が緩んで寝てしまった。

「クラオルが二日酔いなら、みんなも二日酔いっぽいね」
《そうだと思うわ》

 起きてみんなのためにシジミのお味噌汁を作る。
 魚の形のシジミは見慣れなさすぎて違和感を感じるけど、味はちゃんとシジミなのが不思議。
 お味噌汁を作っているとジルベルト君が起きてきた。

「おはようございます……」
「おはよう。ジルベルト君も二日酔い?」
「はい……そのようです……申し訳ございません……」
「大丈夫だから気にしないで。ちょうどできたからこれ飲むといいよ。蜂蜜でもいいんだけど、お味噌汁の方がホッコリすっきりすると思うんだよね」
「ありがとうございます……」

 ジルベルト君にシジミのお味噌汁を渡してブラン団長とサルースさんへのお手紙を書く。
 チラッとジルベルト君を見てみると、縁側でお茶を飲むおじいちゃんみたいになっていた。
 ジルベルト君若いのに……
 ジルベルト君はシジミパワーで少し復活したけど、朝ごはんは食べる元気はないらしいので一人で宿の朝ごはんを食べた。
 みんなをジルベルト君にお願いして、私は手紙を出すために冒険者ギルドに向かう。

 カリダの街や王都同様に朝の道は賑わっている。お店の人はお客さんを呼び込むのに声を張り上げていて活気がある。王都みたいに注目されたり、避けられたりもしない、私はただの旅行者だ。
 精霊二人は一緒にいてくれているけど、クラオルもグレウスもグレンもジルベルト君もいない。ちょっと肩が寂しいけど、ワクワクしてきてしまう。

 ルンルンと機嫌よく冒険者ギルドへ着くと、冒険者ギルドの中は冒険者でごった返していた。

「そうだ。失敗した。朝は依頼書争奪戦で混むんだった……」

 カウンターに進みたくても進めない。途中まで進んでしまったため、戻ることもできない。完全に失敗だけど、なんとか進むしかない。
 もみくちゃになりながら進んでいると、急に体が浮遊感に襲われた。

「うわっ!」
「おい。暴れるな。ガキがなにしてる」

 焦って手足をバタつかせていると近くから声が聞こえた。
 声の方を見ると思いのほか近くに男性の顔があって驚いた。
 なんでこんな近くに顔があるのかと思ったら、私の首根っこを持ち上げられていてプラーンと宙に浮いていた。
 私を持ち上げている男性は、顔にナナメに大きな裂傷があり鎧を着ているゴリマッチョ。腕も傷だらけで歴戦の勇士のような風貌だった。

「降ろしてください」
「ガキがなにしにきた? スリか?」

(失礼な! 多分あなたより私の方がお金持ちだぞ!)

「お手紙出しにきただけです」
「ホントか? まぁいい」

 ゴリマッチョは私を持ち上げたまま冒険者で溢れ返っている中を進んでいく。
 念話でプルトンとエルミスの怒りを宥めていると受け付けカウンターの上に
 私は状況がイマイチ飲み込めず、カウンターにいたウサ耳のお姉さんも固まっている。

「埋もれてたから連れてきた。スリかもしれんがな」
「ムッ! 違うし。お兄さん超失礼! でも運んでくれてありがとう」

 私がお礼を言うと、意外だったのか一瞬目をまん丸にしてから爆笑した。

「ハッハッハ! 肝の据わったガキだな! ほら、用があるんだろ?」
「うん。お姉さん。王都の冒険者ギルドにお手紙送りたいの」
「はっ、はい! 承ります!」

 お姉さんは我に返って手紙を送る手続きをしてくれる。冒険者ギルドカードを見せて、手数料である銅貨一枚を払えば完了だ。

「承りました。こちら受領書と……」
「お話中失礼しまーす。セナ様ですかー?」

 ウサ耳お姉さんが話している最中に三十代だと思われる男性が割り込んできた。
 誰だと割り込んできた男性を見つめていると、ウサ耳お姉さんがギルマスだと紹介してくれた。

「今日は依頼ですかー?」
「いえ、お手紙送りにきただけです」
「近々また来てもらえませんかー?」
「なぜですか?」
「あの素材を売ってもらいたいんですよー。ちゃんと倉庫も用意しておきますのでー」

 なんの素材だと思ったけど、倉庫と言われてウツボのことだとわかった。やる気はなさそうな人だけど、おそらく目立たないようにオブラートに包んでくれたんだと思う。
 了承してお姉さんから受領書を受け取ると、ゴリマッチョが肩に乗せて入り口まで運んでくれた。
 入り口でゴリマッチョと少し話してから、私はあのおばさん……タルゴーさんの商会に向かった。


 私が商会に入ると、受け付けのお姉さんがタルゴーさんを呼んでくれた。
 応接室で待っていると、テンション高くタルゴーさんが入ってきた。

「まぁ! セナ様! 早速また足を運んでいただけるなんて嬉しいですわ! 今日はいかがいたしましたの?」
「魔物の素材とかなんでもいいんですが、伸縮性に富んでいる素材と弾力のある素材があれば売ってもらいたいんです」
「伸縮性と弾力ですの? うーん……ダーリ、何かあったかしら?」

 タルゴーさんは悩んだあと、執事のおじさんに話を振った。

「ふむ。そうですね……服飾に使うカウチュフロッグでしたら伸縮はいたしますが……あれはどちらかというと防水性のほうが重要視されております。弾力は該当する素材が思い付きません」
「そのカウチュフロッグを見せてもらえることはできますか?」
「もちろんですわ!」

 紅茶を飲みながら待っていると、執事のおじさんが持ってきてくれた。
 それは、オレンジ色で片面がツルツルしている三十センチ四方の布みたいなものだった。

「おぉ! これはこれで欲しいです!」
「まぁ! これが正解ですの?」
「奥様、おそらく違うかと……」
「そうなんですの?」
「はい。違いましたが、これも欲しい素材だったのでとても嬉しいです」

 タルゴーさんは私が求めていたものじゃないと聞いて一気に肩を落としたけど、私が嬉しいと言うと一瞬にしてテンションが上がった。喜怒哀楽が激しい。

「セナ様が求めていたものじゃなくて残念ですが、喜んでいただけて嬉しいですわ!」
「これはどれくらいありますか? 可能なら二十枚ほど欲しいんですけど」
「ございます。少々お待ちください」

 執事のおじさんが在庫を取りに行ってくれている間に、タルゴーさんにこの街のことを聞いてみた。
 この街は初めて訪れた人や久しぶりに訪れた人と、この街の住人やこの街を拠点にしている冒険者と入る門が違うらしい。そして周りには小さな村が点在していて、村で作られたものがこの街で売り買いされるため人が多いんだそう。
 タルゴーさんの商会はこの街で唯一の商会で、貴族から平民まで幅広い顧客ニーズに対応しているらしい。
 私がお礼としてもらったホットプレートは近くの村にある工房で作られたもので、タルゴーさんの商会でしか取り扱っていないそう。熱鉄板よりホットプレートの方が親しみやすいから品名として使っていいか聞かれたので問題ないと伝えた。
 ホットプレートを作っている人物に作ってもらいたいものがあると言うと、タルゴーさんが紹介状を書いてくれた。

 戻ってきた執事のおじさんからカウチュフロッグの皮を受け取り、タルゴーさんにお金を払う。タルゴーさんはテンション高く本来の売価よりも四割引きにしてくれた。

 お礼を言ってタルゴー商会を後にした。
 お目当てのものではないけど、いいものが手に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。