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6章
酒は飲んでも飲まれるな
しおりを挟む朝、いつもならクラオルとグレウスが起こしてくれるのに、今日はプルトンが起こしてくれた。
《セナちゃん、おはよー!》
「おはよう、プルトン。みんなは?」
《まだ寝てるわ》
私が起きようと動くとクラオルが渋い顔をしながら『ゔぅ……』と唸った。
「クラオル大丈夫?」
『ゔぅ……あ、頭痛いわ……』
「あぁ……二日酔いだね。ゆっくり休んでて大丈夫だよ」
クラオルを撫でてあげると少し楽になったのか、表情が緩んで寝てしまった。
「クラオルが二日酔いなら、みんなも二日酔いっぽいね」
《そうだと思うわ》
起きてみんなのためにシジミのお味噌汁を作る。
魚の形のシジミは見慣れなさすぎて違和感を感じるけど、味はちゃんとシジミなのが不思議。
お味噌汁を作っているとジルベルト君が起きてきた。
「おはようございます……」
「おはよう。ジルベルト君も二日酔い?」
「はい……そのようです……申し訳ございません……」
「大丈夫だから気にしないで。ちょうどできたからこれ飲むといいよ。蜂蜜でもいいんだけど、お味噌汁の方がホッコリすっきりすると思うんだよね」
「ありがとうございます……」
ジルベルト君にシジミのお味噌汁を渡してブラン団長とサルースさんへのお手紙を書く。
チラッとジルベルト君を見てみると、縁側でお茶を飲むおじいちゃんみたいになっていた。
ジルベルト君若いのに……
ジルベルト君はシジミパワーで少し復活したけど、朝ごはんは食べる元気はないらしいので一人で宿の朝ごはんを食べた。
みんなをジルベルト君にお願いして、私は手紙を出すために冒険者ギルドに向かう。
カリダの街や王都同様に朝の道は賑わっている。お店の人はお客さんを呼び込むのに声を張り上げていて活気がある。王都みたいに注目されたり、避けられたりもしない、私はただの旅行者だ。
精霊二人は一緒にいてくれているけど、クラオルもグレウスもグレンもジルベルト君もいない。ちょっと肩が寂しいけど、ワクワクしてきてしまう。
ルンルンと機嫌よく冒険者ギルドへ着くと、冒険者ギルドの中は冒険者でごった返していた。
「そうだ。失敗した。朝は依頼書争奪戦で混むんだった……」
カウンターに進みたくても進めない。途中まで進んでしまったため、戻ることもできない。完全に失敗だけど、なんとか進むしかない。
もみくちゃになりながら進んでいると、急に体が浮遊感に襲われた。
「うわっ!」
「おい。暴れるな。ガキがなにしてる」
焦って手足をバタつかせていると近くから声が聞こえた。
声の方を見ると思いの外近くに男性の顔があって驚いた。
なんでこんな近くに顔があるのかと思ったら、私の首根っこを持ち上げられていてプラーンと宙に浮いていた。
私を持ち上げている男性は、顔にナナメに大きな裂傷があり鎧を着ているゴリマッチョ。腕も傷だらけで歴戦の勇士のような風貌だった。
「降ろしてください」
「ガキがなにしにきた? スリか?」
(失礼な! 多分あなたより私の方がお金持ちだぞ!)
「お手紙出しにきただけです」
「ホントか? まぁいい」
ゴリマッチョは私を持ち上げたまま冒険者で溢れ返っている中を進んでいく。
念話でプルトンとエルミスの怒りを宥めていると受け付けカウンターの上に置かれた。
私は状況がイマイチ飲み込めず、カウンターにいたウサ耳のお姉さんも固まっている。
「埋もれてたから連れてきた。スリかもしれんがな」
「ムッ! 違うし。お兄さん超失礼! でも運んでくれてありがとう」
私がお礼を言うと、意外だったのか一瞬目をまん丸にしてから爆笑した。
「ハッハッハ! 肝の据わったガキだな! ほら、用があるんだろ?」
「うん。お姉さん。王都の冒険者ギルドにお手紙送りたいの」
「はっ、はい! 承ります!」
お姉さんは我に返って手紙を送る手続きをしてくれる。冒険者ギルドカードを見せて、手数料である銅貨一枚を払えば完了だ。
「承りました。こちら受領書と……」
「お話中失礼しまーす。セナ様ですかー?」
ウサ耳お姉さんが話している最中に三十代だと思われる男性が割り込んできた。
誰だと割り込んできた男性を見つめていると、ウサ耳お姉さんがギルマスだと紹介してくれた。
「今日は依頼ですかー?」
「いえ、お手紙送りにきただけです」
「近々また来てもらえませんかー?」
「なぜですか?」
「あの素材を売ってもらいたいんですよー。ちゃんと倉庫も用意しておきますのでー」
なんの素材だと思ったけど、倉庫と言われてウツボのことだとわかった。やる気はなさそうな人だけど、おそらく目立たないようにオブラートに包んでくれたんだと思う。
了承してお姉さんから受領書を受け取ると、ゴリマッチョが肩に乗せて入り口まで運んでくれた。
入り口でゴリマッチョと少し話してから、私はあのおばさん……タルゴーさんの商会に向かった。
私が商会に入ると、受け付けのお姉さんがタルゴーさんを呼んでくれた。
応接室で待っていると、テンション高くタルゴーさんが入ってきた。
「まぁ! セナ様! 早速また足を運んでいただけるなんて嬉しいですわ! 今日はいかがいたしましたの?」
「魔物の素材とかなんでもいいんですが、伸縮性に富んでいる素材と弾力のある素材があれば売ってもらいたいんです」
「伸縮性と弾力ですの? うーん……ダーリ、何かあったかしら?」
タルゴーさんは悩んだあと、執事のおじさんに話を振った。
「ふむ。そうですね……服飾に使うカウチュフロッグでしたら伸縮はいたしますが……あれはどちらかというと防水性のほうが重要視されております。弾力は該当する素材が思い付きません」
「そのカウチュフロッグを見せてもらえることはできますか?」
「もちろんですわ!」
紅茶を飲みながら待っていると、執事のおじさんが持ってきてくれた。
それは、オレンジ色で片面がツルツルしている三十センチ四方の布みたいなものだった。
「おぉ! これはこれで欲しいです!」
「まぁ! これが正解ですの?」
「奥様、おそらく違うかと……」
「そうなんですの?」
「はい。違いましたが、これも欲しい素材だったのでとても嬉しいです」
タルゴーさんは私が求めていたものじゃないと聞いて一気に肩を落としたけど、私が嬉しいと言うと一瞬にしてテンションが上がった。喜怒哀楽が激しい。
「セナ様が求めていたものじゃなくて残念ですが、喜んでいただけて嬉しいですわ!」
「これはどれくらいありますか? 可能なら二十枚ほど欲しいんですけど」
「ございます。少々お待ちください」
執事のおじさんが在庫を取りに行ってくれている間に、タルゴーさんにこの街のことを聞いてみた。
この街は初めて訪れた人や久しぶりに訪れた人と、この街の住人やこの街を拠点にしている冒険者と入る門が違うらしい。そして周りには小さな村が点在していて、村で作られたものがこの街で売り買いされるため人が多いんだそう。
タルゴーさんの商会はこの街で唯一の商会で、貴族から平民まで幅広い顧客ニーズに対応しているらしい。
私がお礼としてもらったホットプレートは近くの村にある工房で作られたもので、タルゴーさんの商会でしか取り扱っていないそう。熱鉄板よりホットプレートの方が親しみやすいから品名として使っていいか聞かれたので問題ないと伝えた。
ホットプレートを作っている人物に作ってもらいたいものがあると言うと、タルゴーさんが紹介状を書いてくれた。
戻ってきた執事のおじさんからカウチュフロッグの皮を受け取り、タルゴーさんにお金を払う。タルゴーさんはテンション高く本来の売価よりも四割引きにしてくれた。
お礼を言ってタルゴー商会を後にした。
お目当てのものではないけど、いいものが手に入った。
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