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6章
報酬は
しおりを挟むタルゴーさんが報酬を用意してくれている間に、応接室で執事のおじさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいると執事のおじさんに話しかけられた。
「セナ様は冒険者ギルドにも登録しておられるのですね。拝見させていただいたギルドカードは行商人となっていましたが、何を取り扱っていらっしゃるのですか?」
「んー。何でも屋みたいな感じですね。雑貨や工芸品もありますが、魔物の素材がメインですかね」
「工芸品ですか……見せていただいてもよろしいでしょうか?」
嘘ではないけど、本当でもない……行商なんかしていないから誤魔化しながら返すしかなかった。
見たいというのでソイヤ村で女性陣から買った小物をテーブルの上に並べると、執事のおじさんはソファに座ってルーペのようなもので細部までチェックし始めた。
「これは……申し訳ございませんが、これはどちらで?」
「ソイヤ村です」
「ソイヤ村……何もないところだと思っておりましたが、このようなものもあったのですね。セナ様、もしよろしければ紹介状を書いていただけませんか? 当商会で取り扱いたいのです」
「いいですよ」
「本当ですか!?」
「は、はい」
執事のおじさんが興奮して身を乗り出してきて勢いに引きつってしまった。
グレンが私を引き寄せて睨み付けると執事のおじさんは咳払いをして元の体勢に戻った。
「申し訳ございません。奥様が戻り次第紹介の話をしたいと思います」
「わかりました。あの、執事さん……」
「大変失礼いたしました。私ダーリ・タヴァーリと申します。名乗りもせず申し訳ございません」
「あ、はい。タヴァーリさんですね。なぜ最初に会ったときから私と普通に話しているんですか? 怪しんだりもしてなかったですよね?」
執事はダーリと言う名前でダーリンと呼ばれたわけではなかったらしい。
私がずっと疑問に思っていたことを問い掛けると、執事のおじさんは虚をつかれたように目を丸くして笑顔を見せた。
「私共は今まで多くの人を見て参りました。そちらの少年は後ろに控えるようにしていて、こちらの男性はセナ様を守ろうとしているのがわかります。ですので、自然とセナ様と話していたのです。奥様も同じでしょう。護衛として雇った冒険者はどう思っていたのかはわかりませんが」
「なるほど」
「それにセナ様の言葉遣いも丁寧でいらっしゃいますので、幼さを感じさせないということもあります」
「あぁ……なるほど」
内側からおばさん臭を醸し出してるってことか……せっかく若返ったのに……子供っぽく話したら相手にされないだろうし、丁寧に話したらババ臭いなんて……難しすぎじゃない?
〈((セナはセナだ。あまり深く考えるな))〉
「((うぅ……グレン、ありがとう))」
グレンが念話で慰めてくれながら私の頭を撫でてくれていると、ノック音が聞こえた。
「お待たせ致しましたわ! 別部屋に用意致しましたので、移動をお願い致しますわ」
タルゴーさんに促され、別部屋に移動すると、部屋は色々なもので埋めつくされていた。
魔道具・農具・鉱石・ポーション等の雑貨類・大量のアクセサリー・大量のドレスと、「なぜこれをチョイスした?」と思われるものから、冒険に役立ちそうな物まで多種多様揃っていた。
「こちらの中からお好きな物を選んで下さいませ!」
「破格過ぎませんか?」
「いいえ! 先ほど説明を受けましたの。あれは魔物に好かれる指輪で魔物を呼び寄せると。わたくしが一度指輪をはめたから指輪に主人として認識されてしまったのですわ! わたくしがすぐに指輪を取り外したからあの程度だったのだと。誰かに渡ってしまったら大変になるところでしたのよ! これくらい当然ですわ!」
おぉー! 執事のおじさんはそうやって報告したのか! 確かにそれなら違和感はないねー。タルゴーさんも嫌な思いしないし。でも伝言ゲームみたいになったら本来の効能と違いが出ちゃうかもしれないから、あの執事のおじさんにちゃんと言っておこう。
報酬はある意味便利なあの呪いの指輪っていうのも一瞬考えたけど、昼夜問わず襲われたらたまったもんじゃないし、どの程度の魔物がくるのかはわからない。ロリ好みは危険な気がする。そんなものを欲しがるなんて怪しまれそうだし……
そしてみんなに怒られそう。見つけたときにクラオルが『こんな怪しげなモノのせいで主様に虫が寄ってきたらどうするのよ!』って怒ってたし……
ああいう機能の魔道具が欲しかったら自分用のを作ればいいもんね!
「わたくしはこれが似合うと思いますの!」
そう言ってタルゴーさんが手にしたのは、何かの発表会のときに着そうな華やかな白から淡いグリーンに変わるグラデーションのドレス。ヒッラヒラのフッワフワで、裾には輝く宝石やラインストーンのようなものが付いていて、裾が動く度にキラキラと煌めいている。
「初めてお会いしたときから絶対に似合うと思いましたの! ぜひ着て見せて下さいませ!!」
そう言うタルゴーさんの目がキラリと光った気がして鳥肌が立った。
(うお! これか! 最初のゾワッと感は!)
「も、申し訳ありませんが着る機会がありませんので……今後の旅に役立つものの方がありがたいです……」
「そうですの……とても、とても残念でございますわ……」
顔が引きつるのを感じながら返すと、タルゴーさんはガックリと肩を落としてしまった。無理強いする気はないようで私はホッと息を吐いた。
「では、ダーリがオススメのこちらか、わたくしがオススメのこちらからお好きなものを選んで下さいませ。わたくしがオススメのこちらは、もちろんサイズのお直しなども致しますので遠慮なく仰って下さい!」
執事のおじさんのオススメが普通の道具類で、タルゴーさんのオススメがドレスや装飾品だったらしい。
なんだろう。ものすごく納得した。
鑑定を使いつつ何がいいだろうと見ているといいものを見つけた。
「あ!! ホットプレートだー! これ! これがいいです!」
「こちらは熱鉄板の魔道具ですわ。こんなものでいいんですの?」
「はい! これがいいです!」
「ふふっ。わかりましたわ。ドレスや装飾品じゃないのが残念ですが、そんな素敵な笑顔になっていただけるなんてわたくしも嬉しいですわ。どうぞお持ちになって。では、また応接室の方へお願い致しますわ」
おばさん先導で再び応接室に戻ってくると、ソイヤ村の話になりおばさんも乗り気満々になったので、そのまま紹介状を書いた。
「セナ様には二度も助けていただき、新しい取り引きまでできるなんて嬉しいですわ! もちろんセナ様が仰っていたように村の魔物の素材も買い取らせていただきますわ! 呪われた魔道具なんて運がないと思いましたが、セナ様に会えたわたくしは最高運だったのですわね!」
タルゴーさんが興奮しながらまくし立てると執事がうんうんと頷いた。
タルゴーさんがどう思うかは別として、これでソイヤ村も少しは裕福な暮らしができると思う。あの村が笑顔溢れる村になったらいいな。
「ぜひこちらをお受け取りになって!」
「これは?」
「これはわたくしの商会の証書となっておりますの。他の街にもわたくしの商会の支店がございますわ。これを見せたら割引きされますし、なにかと融通が利くようになりますわ!」
「ありがとうございます。いただきますね」
タルゴーさんから渡されたギルドカードより一回り小さい金属板を受け取って、タルゴーさんの商会を出る。
タルゴーさんは私達が見えなくなるまでブンブンと笑顔で手を振ってくれていた。
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