上 下
144 / 540
6章

報酬は

しおりを挟む


 タルゴーさんが報酬を用意してくれている間に、応接室で執事のおじさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいると執事のおじさんに話しかけられた。

「セナ様は冒険者ギルドにも登録しておられるのですね。拝見させていただいたギルドカードは行商人となっていましたが、何を取り扱っていらっしゃるのですか?」
「んー。何でも屋みたいな感じですね。雑貨や工芸品もありますが、魔物の素材がメインですかね」
「工芸品ですか……見せていただいてもよろしいでしょうか?」

 嘘ではないけど、本当でもない……行商なんかしていないから誤魔化しながら返すしかなかった。
 見たいというのでソイヤ村で女性陣から買った小物をテーブルの上に並べると、執事のおじさんはソファに座ってルーペのようなもので細部までチェックし始めた。

「これは……申し訳ございませんが、これはどちらで?」
「ソイヤ村です」
「ソイヤ村……何もないところだと思っておりましたが、このようなものもあったのですね。セナ様、もしよろしければ紹介状を書いていただけませんか? 当商会で取り扱いたいのです」
「いいですよ」
「本当ですか!?」
「は、はい」

 執事のおじさんが興奮して身を乗り出してきて勢いに引きつってしまった。
 グレンが私を引き寄せて睨み付けると執事のおじさんは咳払いをして元の体勢に戻った。

「申し訳ございません。奥様が戻り次第紹介の話をしたいと思います」
「わかりました。あの、執事さん……」
「大変失礼いたしました。わたくしダーリ・タヴァーリと申します。名乗りもせず申し訳ございません」
「あ、はい。タヴァーリさんですね。なぜ最初に会ったときから私と普通に話しているんですか? 怪しんだりもしてなかったですよね?」

 執事はダーリと言う名前でダーリンと呼ばれたわけではなかったらしい。
 私がずっと疑問に思っていたことを問い掛けると、執事のおじさんは虚をつかれたように目を丸くして笑顔を見せた。

わたくし共は今まで多くの人を見て参りました。そちらの少年は後ろに控えるようにしていて、こちらの男性はセナ様を守ろうとしているのがわかります。ですので、自然とセナ様と話していたのです。奥様も同じでしょう。護衛として雇った冒険者はどう思っていたのかはわかりませんが」
「なるほど」
「それにセナ様の言葉遣いも丁寧でいらっしゃいますので、幼さを感じさせないということもあります」
「あぁ……なるほど」

 内側からおばさん臭を醸し出してるってことか……せっかく若返ったのに……子供っぽく話したら相手にされないだろうし、丁寧に話したらババくさいなんて……難しすぎじゃない?

〈((セナはセナだ。あまり深く考えるな))〉
「((うぅ……グレン、ありがとう))」

 グレンが念話で慰めてくれながら私の頭を撫でてくれていると、ノック音が聞こえた。

「お待たせ致しましたわ! 別部屋に用意致しましたので、移動をお願い致しますわ」

 タルゴーさんに促され、別部屋に移動すると、部屋は色々なもので埋めつくされていた。
 魔道具・農具・鉱石・ポーション等の雑貨類・大量のアクセサリー・大量のドレスと、「なぜこれをチョイスした?」と思われるものから、冒険に役立ちそうな物まで多種多様揃っていた。

「こちらの中からお好きな物を選んで下さいませ!」
「破格過ぎませんか?」
「いいえ! 先ほど説明を受けましたの。あれは魔物に好かれる指輪で魔物を呼び寄せると。わたくしが一度指輪をはめたから指輪に主人として認識されてしまったのですわ! わたくしがすぐに指輪を取り外したからあの程度だったのだと。誰かに渡ってしまったら大変になるところでしたのよ! これくらい当然ですわ!」

 おぉー! 執事のおじさんはそうやって報告したのか! 確かにそれなら違和感はないねー。タルゴーさんも嫌な思いしないし。でも伝言ゲームみたいになったら本来の効能と違いが出ちゃうかもしれないから、あの執事のおじさんにちゃんと言っておこう。

 報酬はある意味便利なあの呪いの指輪っていうのも一瞬考えたけど、昼夜問わず襲われたらたまったもんじゃないし、どの程度の魔物がくるのかはわからない。ロリ好みは危険な気がする。そんなものを欲しがるなんて怪しまれそうだし……
 そしてみんなに怒られそう。見つけたときにクラオルが『こんな怪しげなモノのせいで主様にが寄ってきたらどうするのよ!』って怒ってたし……
 ああいう機能の魔道具が欲しかったら自分用のを作ればいいもんね!
 

「わたくしはこれが似合うと思いますの!」

 そう言ってタルゴーさんが手にしたのは、何かの発表会のときに着そうな華やかな白から淡いグリーンに変わるグラデーションのドレス。ヒッラヒラのフッワフワで、裾には輝く宝石やラインストーンのようなものが付いていて、裾が動く度にキラキラと煌めいている。

「初めてお会いしたときから絶対に似合うと思いましたの! ぜひ着て見せて下さいませ!!」

 そう言うタルゴーさんの目がキラリと光った気がして鳥肌が立った。
(うお! これか! 最初のゾワッと感は!)

「も、申し訳ありませんが着る機会がありませんので……今後の旅に役立つものの方がありがたいです……」
「そうですの……とても、とても残念でございますわ……」

 顔が引きつるのを感じながら返すと、タルゴーさんはガックリと肩を落としてしまった。無理強いする気はないようで私はホッと息を吐いた。

「では、ダーリがオススメのこちらか、わたくしがオススメのこちらからお好きなものを選んで下さいませ。わたくしがオススメのこちらは、もちろんサイズのお直しなども致しますので遠慮なく仰って下さい!」

 執事のおじさんのオススメが普通の道具類で、タルゴーさんのオススメがドレスや装飾品だったらしい。
 なんだろう。ものすごく納得した。
 鑑定を使いつつ何がいいだろうと見ているといいものを見つけた。

「あ!! ホットプレートだー! これ! これがいいです!」
「こちらは熱鉄板の魔道具ですわ。こんなものでいいんですの?」
「はい! これがいいです!」
「ふふっ。わかりましたわ。ドレスや装飾品じゃないのが残念ですが、そんな素敵な笑顔になっていただけるなんてわたくしも嬉しいですわ。どうぞお持ちになって。では、また応接室の方へお願い致しますわ」

 おばさん先導で再び応接室に戻ってくると、ソイヤ村の話になりおばさんも乗り気満々になったので、そのまま紹介状を書いた。

「セナ様には二度も助けていただき、新しい取り引きまでできるなんて嬉しいですわ! もちろんセナ様が仰っていたように村の魔物の素材も買い取らせていただきますわ! 呪われた魔道具なんて運がないと思いましたが、セナ様に会えたわたくしは最高運だったのですわね!」

 タルゴーさんが興奮しながらまくし立てると執事がうんうんと頷いた。
 タルゴーさんがどう思うかは別として、これでソイヤ村も少しは裕福な暮らしができると思う。あの村が笑顔溢れる村になったらいいな。

「ぜひこちらをお受け取りになって!」
「これは?」
「これはわたくしの商会の証書となっておりますの。他の街にもわたくしの商会の支店がございますわ。これを見せたら割引きされますし、なにかと融通が利くようになりますわ!」
「ありがとうございます。いただきますね」

 タルゴーさんから渡されたギルドカードより一回り小さい金属板を受け取って、タルゴーさんの商会を出る。
 タルゴーさんは私達が見えなくなるまでブンブンと笑顔で手を振ってくれていた。


しおりを挟む
感想 1,799

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。