143 / 537
6章
魔物にだって好みがある
しおりを挟むいつものように結界を張るわけにもいかず、朝起きてニヴェスに確認するとプロンバットというコウモリ型の魔物がチョロチョロと襲ってきたらしい。
主におばさんの馬車の方が襲われていて手伝ったらしく、ニヴェスが倒したプロンバットの小山ができていた。
それを聞いてグレンが首を傾げた。
「どうしたの?」
〈プロンバットはこんな平地には普通はいない。森ならまだわかるが、洞窟や山に生息していることの方が多かったはずだ〉
「そうなんだ。もうすぐ街なのにおかしいね」
グレンの言葉も気になるし護衛さん達のことも気になるので、今日は私も御者席に座った。
ジルベルト君と並んで護衛さん達を見ていると、やはり疲れているらしい。
「なんだろう。なんか引っかかるんだよねぇ……あ、ゴブリン二体。周りにはいないからハグレかな?」
「おそらくは。しかしなにかおかしいですね」
「ジルベルト君もそう思う?」
「はい。ですが、何がおかしいのかはハッキリわかりません」
ゴブリンは護衛さん達が退治したので私達が出ることはなかった。
「ん? また魔物……今度は鳥だね」
「あれは、プレリーホークですね。平地にも出る魔物です」
「上からかぁ。しかも一匹……真っ直ぐ向かってきてるし撃っちゃおう」
弓を構えて、前ではなく横に落ちるように撃ち落として回収しておく。
結局その後二回ほど弱い魔物と遭遇して、護衛さん達が狩っていた。
やっぱりおかしいと、お昼ご飯のスープを配るときに護衛のリーダーを呼び出して聞いてみることにした。
おばさんは幌馬車の中でご飯を食べるらしく、降りて来ていないので今がチャンスとリーダーを手招きして呼ぶ。
「ねぇ、お兄さん。ずっとこんな感じで魔物と戦ってたの?」
「あぁ。あんた方が助けてくれた盗賊以外は強いのは出てきていないが、頻度は高いな……夜は確実に戦闘になるからちゃんと休めていなくて盗賊に遅れを取っちまった。あんた方が来てくれて助かったよ。夜も助けてもらったしな。感謝している」
「いや……お礼を言って欲しかったわけじゃないから大丈夫。教えてくれてありがとう。スープできたからみんなで飲んで」
「感謝する」
リーダーは疲れを滲ませていたもののまだ大丈夫そうだけど、他のメンバーは眠いのか目をシパシパしていた。
あと数時間だろうから、倒れるとかはないと思う。
お昼ご飯を終え出発すると、前方には何組か冒険者のグループがチラホラ見えてきた。
「もう魔物は現れなさそうですね」
「そうだね。気配もしないし大丈夫だと思う」
二時間ほどで街に着き、街の門前にできていた列に並ぶ。
カリダの街では並ばなかったけど、この街は訪れる人が多いみたい。
ギルドカードを掲示して犯罪の有無を確認する水晶に手をかざし、馬車の中のチェックを受けて街に入った。
盗賊達は門で待機していた騎士団に引き取られるらしく、護衛さん達が説明していた。
「恩人方はこのまま商会の方へ来ていただいてもよろしいですか?」
おばさんに付いていた執事のおじさんに言われて、護衛さん達はどうするのか確認すると、護衛さん達はギルドへ報告に行くらしい。
「あんた方のスープ美味かった。助けてくれてありがとう。また会ったら今度何か奢らせてもらうよ」
「ふふっ。ありがとう。楽しみにしてる」
「おう! じゃあな!」
護衛さん達と別れておばさんの馬車にそのまま付いていくと、着いたのはでっかい邸だった。パッと見では商会には見えず、豪華な貴族の家みたいだ。
おばさんは馬車から降りて、荷物を下ろすように指示したあと、私達の馬車の方まで歩いてきた。
「ぜひ中へお願いしますわ!」
「馬車はどこに置けばいいんですか?」
「はっ! そうですわね。気が急いて失念しておりました。ダーリ!」
(ダーリン!?)
おばさんが呼んだのは先程の執事だった。
「ダーリ! 馬車置き場に案内して差し上げて」
「かしこまりました。コチラへどうぞ」
執事に付いて馬車置き場に案内してもらうと、ニヴェスは馬車を守ると待っていてくれることになった。一応軽めな結界を張って、何か起きそうなら念話を飛ばすようにニヴェスにお願いした。
再び執事の案内の元、邸の玄関に向かうとおばさんが待っていた。
「どうぞ中へお入りになって!」
おばさん自らの案内で玄関を入ると、思っていたよりもしっかりと商会らしかった。
(もっと成金っぽいかと思ってたよ)
そのまま応接室に案内された。
「昨日は助けていただいてありがとうございますわ。そのままで申し訳ありませんが、先に護衛の報酬をお渡ししますわね」
おばさんが手を二回叩くと女中さんと思われるメイド服を着た女性が小袋をトレイの上に乗せて入ってきた。
「こちらをお受けとり下さいまし」
小袋の紐を緩めて中を見てみると金貨五枚が入っていた。
「多くないですか? たった一日だけ。しかも私達はほとんど魔物と戦っていません」
「命の恩人ですもの! これくらいは当たり前ですわ! 正直、今回の旅は魔物との遭遇率が高くまいっておりましたの。護衛を頼んだ冒険者も疲れており、そこへあの盗賊ですわ! 護衛の冒険者も疲れているのがわかったので、彼らの安全のためにも、どうしてもご一緒して欲しかったのですわ。ですから、これは正統な報酬ですわ!」
語尾の“ですわ”が気になってあまり内容が入ってこないけど、特に他意はないみたいなので受け取ることにした。
そしていい人だったらしい。おばさんではなく、ちゃんとタルゴーさんと呼ぶことにしよう。
〈ふむ。呪いの魔道具でも持っているんじゃないのか?〉
「呪いの魔道具?」
〈その名の通り呪われている、もしくは呪いの効能を持った魔道具だ〉
「そんなもの持っておりませんわ!」
「奥様! もしかしたら今回仕入れた中にあるのでは? きちんと鑑定しておりませんよね?」
「……」
指摘したグレンに叫ぶように否定したタルゴーさんに、見守っていた執事が声をかけるとタルゴーさんは黙ってしまった。
「そうね。そうだわ。鑑定していない物も多いわ……鑑定士は?」
「本日休みとなっており、三日後に来る予定になっております」
「なんてことなの!? どうしましょう! 呪いの魔道具があるなんて仕入れた物を触れませんわ!」
タルゴーさんは執事のおじさんとどうするか相談し始めてしまった。
「((ねぇ、グレン。呪いの魔道具のせいだとしたらこの街危ない?))」
〈((なんとも言えん。道中のような弱い魔物ならば害はないと思うが、無作為に魔物を呼び寄せるとしたらそこそこくらいのが街を襲うかもしれん))〉
「((なるほど……))」
私が鑑定した方が早そう。冒険者に依頼するとしても隠蔽でもかかっていたら見破れないかもしれない。王都ではそれで私が鑑定頼まれたわけだし。
街では買い物もしたいし、私達が滞在中に襲われるとかは止めていただきたい。
「わかりました。私が鑑定します」
「「え?」」
「その代わり、目立ちたくないので内々に処理してください」
「え……鑑定、できるんですの?」
「はい。これ、ギルドカードです」
「まぁ! 本当だわ! セナ様とおっしゃいますのね! 商業ギルドに登録しているなら安心して任せられますわ!」
タルゴーさんのテンションが上がり、仕入れてきた物が置いてある部屋に案内された。
タルゴーさんの好みなのか今回の仕入れの系統がそうだったのか、箱の中にはアクセサリーがいっぱい詰まっていた。
鑑定を始めると呪いの魔道具はすぐに見つかった。モヤっとするゴテゴテした装飾に大きな石の付いた指輪を見つけて、鑑定したらビンゴだったのだ。
鑑定結果は……魔物に好かれる指輪。指輪の持ち主に好意を抱く魔物を引き寄せるらしい。
タルゴーさんはハツラツとしているけど、おそらく五十代。人によっては熟女と言いそうな年齢だ。つまり寄ってきていた魔物はおば好みだったということ。
呪いではないけど、それに近いものがある。
「えっと……見つけました」
「本当ですか!?」
「ええ。これです」
「この指輪が……どういった効能なのでしょうか?」
タルゴーさんがちょうど席を外していたので執事のおじさんに教えてあげると、なんとも言えない表情になってしまった。
うん。あのタルゴーさんにどう説明しようか考えちゃうよね。気持ちすごくわかる。
「とりあえず指輪自体は安全なことがわかりましたので、教会に頼んで封印してもらいます。冒険者の手に渡らなくてよかったです」
「そうですね」
普通の冒険者はこんな邪魔になる指輪はいらないと思うと思ってしまったのは内緒だ。
608
お気に入りに追加
24,621
あなたにおすすめの小説
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。