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6章

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 今日も雨が止んでおらず足止めだ。
 結界内は雨を弾くので最初は昨日作ったフライングディスクで遊んでいたものの、午後にはグレンに限界が訪れた。

〈あぁー! 暇だ!〉
「リバーシも飽きた?」
〈飽きてはいないが、違うことがしたい〉
「うーん……なにか暇つぶしってことでしょ?」
〈よし! ちょっと狩りに行ってくる〉
「えぇ!? 風邪引いちゃうよ?」
われはそんな軟弱ではない。肉を狩ってくる〉

 私が引き止める前に素早く馬車から飛んでいってしまった。

『あらら……。主様は気にしなくて大丈夫よ。風邪を引いたら自業自得だわ』
「でも外雨すごいよ?」
『大丈夫よ。放っておきましょ? 気が済んだら帰ってくるわ』
「うん……」

 グレンに念話で雨は大丈夫か聞いてみるとテンション高めで大丈夫だと返ってきた。なにかあったら念話で知らせるように言い、念話が終わった。

「じゃあ、私はトマトペーストと水煮の作り置きでも作ろうかな? ジルベルト君はどうする?」
「何かお手伝いすることはありますか?」
「特にないかな?」
「でしたら本をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「いいよー。何系がいい?」
「植物や魔物の本をお願いいたします」
「はーい」

 ジルベルト君に本を十冊ほど渡して、私はキッチンに向かう。
 ポラルとプルトンはリバーシに夢中で、ネラース達は小さいサイズでじゃれあって遊んでいる。
 私はクラオルとグレウスとエルミスに手伝ってもらいながら作り続けた。


〈((セナ! 取ってきた!))〉

 キッチンで作業に熱中していると、グレンから念話が届いた。
 ドアを開けて馬車の外に出ると、グレンは上半身裸で頭をタオルで拭いていた。

「風邪引いちゃうでしょ」
〈お。助かる。それよりいいものを狩ってきたぞ!〉

 【ドライ】をかけて乾かしてあげると、グレンはニヤリとなにかの山を指さした。

「これは?」
〈これはレニーレムマッシュだぞ!〉
(レニーレムマッシュってなんだっけ?)
「レニーレムマッシュは雨の日にしか現れない魔物で、とても珍しいと言われています。地域によっては幸運の象徴とされ、遭遇すれば女神に愛されると伝えられていたりします。そして、食べても美味しく、薬にも使われるため素材としてはとても高級品として取引されています」
「おぉー! さすがジルベルト君。めっちゃわかりやすい!」

 わかっていなかった私にジルベルト君が丁寧に説明してくれた。
 レニーレムマッシュは体長一メートルほどで、見た目は椎茸の傘が逆さまバージョン。は薄い水色で傘は深緑色。なぜかから短い手足が生えている。

(女神に愛されるなんて怖すぎる! イグねぇだったらウェルカムだけど、パナーテル様はズレてるからな……ぶっちゃけロクなことにならなさそうだから関わりたくないんだよね)

「キノコの着ぐるみみたい。いや……あの有名キノコ会社のキャラクターみたいだわ。キノコなのに魔物なの?」
〈これは雨の日にどこからか現れる。生体は解明されていないはずだ〉
「なにその謎に満ちてる感じ」
〈嬉しいか?〉
「うん。グレン、ありがとー!」

 美味しい食材は大歓迎だ。何を作るか考えながら隣りにしゃがみこんだグレンを撫でてあげると、とても満足そうだった。
 12体ものキノコの魔物を回収して、早速馬車の付属ワンルームマンションへ。

「グレンがせっかく持ってきてくれたから、あのキノコで夜ご飯作ろうかな。って大きいな……」

 四苦八苦しながら風魔法でカットして、まな板に置けないのはひとまず無限収納インベントリにしまった。
 久しぶりに料理アプリの助けを借りつつ、鼻歌を歌いながら料理を作っていく。
 全部を作り終わったころには、だいぶ時間が経っていた。

「できたよー!」
〈レニーレムマッシュか?〉
「そうだよー。炊き込みご飯、お味噌汁、キノコの和風ステーキ、豚肉巻き、バター醤油炒め、ピリ辛炒めでーす!」
〈おぉ! 全部美味そうだ!〉

 私が作ったのは全部キノコ料理。
 グレンだけじゃなくて他のみんなも目を輝かせている。
 いただきますと食べてみると……

「なにこれ! 超美味しい!」
〈やはり美味いな!〉
『美味しいわ!』
『んん~!』

 味は、しめじとエリンギを足した感じだけどそれより断然美味しく、香りは松茸みたいだけど遥かにいい香りで、食感はエリンギに似ていた。味も香りも今まで食べたことのあるキノコのなによりも美味しい。
 あまりの美味しさに元々ない語彙力がさらになくなって“美味しい”しか言えなくなってしまう。
 みんなも声を上げるくらい美味しいと思ったらしい。

「んもう、なんて言っていいかわかんないくらい美味しいー!」
〈セナ! おかわり!〉
「はーい。ジルベルト君は? 遠慮しなくて大丈夫だよ」
「はっ、はい。お願いいたします」
「はいなー」

 みんなでおなかいっぱいになるまでキノコ祭りを満喫すると、残ったのは炊き込みご飯が少しだけだった。

「ふぅ。おなかいっぱい。超美味しかったねぇ。まだ残ってるけど、また遭遇したらぜひ狩ろう!」
〈だろう? これはわれも中々遭遇したことがないからな〉
「秋の季節の方に行ったら遭遇しやすいとかないかな?」
〈なぜだ?〉
「ん? あーっと……キノコって秋のイメージがあるからさ」
〈あぁ、なるほど。そういうことか。われはそんな話しは聞いたことがないが、セナが言うならありえるかもな〉

 グレンは私が言いたいことがわかったのか深くつっこんで聞いてこなかった。
(いつかジルベルト君にもちゃんと話せたらいいいな)

 おなかも満足したのでグレンとジルベルト君が一緒にお風呂に入りにいった。
 私は片付けをしてからグレン達のあとにお風呂に向かう。

「ちょっと待ってね。コテージのパパ達のロッカーに炊き込みご飯のおにぎり置いてきたいんだ」
『わかったわ。神達の取って置いてたのね』
「そうそう。グレンが絶賛してたから、パパ達も食べたいかと思って先に確保してたの。よしっ!」

 洗面所からコテージに移動して全員のロッカーに入れたら、マンションの方に戻ってお風呂に入る。
 ニヴェスは昨日入ったけど、ネラース達はお風呂に驚いていた。
 モフモフを堪能しながら洗ってあげて、みんなでバスタブに浸かる。
 ネラース達もお風呂が好きになってくれたみたい。

 今日はミニサイズのネラース達のモッフモフに包まれて幸せな微睡みに沈んだ。

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