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6章

効果のほどは

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 ケガ人がいる家に着いたらしく、クラオルからのテシテシ攻撃でトリップ先から戻ってきた。
 クラオルは呆れた視線、グレンは期待の眼差し、ジルベルト君からは温かい目で見られなんとも居心地が悪い。

「えっと……」
『んもう、主様ったら食材に目がないんだから』
「ごめん、ごめん。みんなと美味しいご飯食べたくてさ。もう大丈夫だよー」
『そう言われたら怒れないじゃないの』

 プリプリして可愛いクラオルを宥めながら家に入ると、血の匂いが濃く一瞬にして軽い雰囲気は飛んでいった。
 門番さんの説明では、この家の男性は一人暮らしで何かあっても自分は構わないと魔物に果敢に挑んでケガをしたらしい。
 寝ているベッドに近付くと、ただのケガじゃないことがわかった。
 二十代だと思われる男性の顔色は紫がかっていて呼吸は荒く、険しい顔をして眠っていた。

「この人毒にも侵されてるね」
「なんだと? じゃあポーション飲んでも……」
「ゴホッゴホッ……ヴォフッ」

 男性が咳き込みながら吐血して目を覚ました。私達がいることに驚いていたけど、門番さんが一緒なことで特に不審には思わなかったらしい。

「こんにちは。普通のポーションとちょっと特殊な解毒ポーションどっちがいい? ちなみにお金はいらないよ」
「「はぁ?」」

 門番さんとケガ人のお兄さんの声が揃った。
 特殊なポーションとは、実験で作ったときにできた体力も回復する解毒剤。
 鑑定では大丈夫だったから大丈夫だと思うんだけど……いかんせん使ったことがないのでどれくらいの効果があるのかわからないんだよね。

「ゴホッ……解毒……ポーションを頼む……」
「はーい。コレだよ」

 私が渡した解毒ポーションを男性が震える手で一気飲みすると、徐々に顔色も戻り呼吸も落ち着き始めた。

「すげぇ……もうなんともねぇ……」
「わぉ。お兄さん勇気あるね。知らない子供があんな聞き方したのに、戸惑いもしないで一気飲みなんて」
「……普通のポーションじゃダメなことが自分でわかってたからな。ダメ元で頼んだんだが……こんなポーション持ってるなんてアンタ何者だ?」
「ん? ただの商人だよ。なくなった血は戻ってないからしばらく安静にすることをオススメするよ」

 本当に大丈夫かをこっそり鑑定して、手をグーパーして確認しているお兄さんに告げた。
 グレンと門番さんにお願いして窓を開けてもらい、風魔法で空気の入れ替えをしたら終わりだ。
 イマイチ状況が掴めていないお兄さんの家を後にして次のケガ人の家に向かう。

「あのポーションはなんだ?」
「なんだって?」
「普通の解毒ポーションと違うだろ」
「ちょっと特殊って言ったじゃん」
「まぁ、そうだが……」

 何か言いたげな門番さんをスルーして、次のケガ人がいる家のドアをノックした。
 出てきてくれたのは奥さんで旦那と子供がケガをしていると教えてくれた。
 彼らは普通のケガだったためポーションを飲ませてケガを治してから次の家にむかった。

 結局軽いケガをしていた人も合わせて26人全員にポーションを飲ませ終わったころには、日が暮れて辺りは闇に支配されていた。
 ニヴェスには影に戻ってもらい、馬車に結界を張ってから村長の家で報告をすませた。
 村長は本当に全員にポーションを飲ませてもらえるとは思っていなかったらしく、涙を流しながらお礼を言われてしまった。明日倉庫の農作物を見せてもらえることになり、用意してくれた部屋で夜ご飯を食べた。

「ねぇ、ずっと引っかかってるんだけど、アーマーウルフって毒の攻撃してくるの? 確か図鑑では毛皮が硬くて物理攻撃が効きにくいとは書いてたけど、毒なんて一言も書いてなかったよ?」
「僕もセナ様が仰った通り、毒を扱う種族ではないと認識しておりました」
「ジルベルト君も知らないのか……」
〈ふむ。もしかしたら亜種や変種かもしれんな〉

 亜種かぁ……
 この世界で亜種とは通常とは異なる成長や進化を遂げたモノを示す。
 ゴブリンが通常ならばホブゴブリンに進化するところ、ゴブリンソルジャーやゴブリンマージに進化した感じだ。基本的に亜種の方が通常進化するより強い場合が多い。
 変種は亜種のようにおおやけに認知されていないモノを示す。人間で言えば変人辺りだろう。

「うーん……なーんか引っかかるんだよね」

 今日飲ませたケガ人のうち、最初のお兄さんを合わせて八人が毒に侵されていた。全員あの実験的に作ったポーションで毒は消えたけど、ただの毒ではなさそうだった。
 倒したというアーマーウルフの毛皮でも剥いでいたら見せて貰おうかと思ったんだけど、ケガ人が多すぎて剥ぐこともできず埋めたんだそうだ。その村人の行動も引っかかっている一因だ。

「よしっ!」
『調べるのね?』
「さすがクラオル!」

 ジルベルト君には村長が部屋にきたとき怪しまれないように追い払って欲しいとお留守番をお願いして、プルトンには情報収集を頼んだ。
 グレンと一緒にバレないようにトイレから村の外まで転移して、村人が追い払ったというアーマーウルフを探す。
 マップを開いてサーチで探すとすぐに見つけられた。村からはそこまで離れていない場所に三匹が固まっているのがわかった。

 アーマーウルフの元に向かうと、どうも様子がおかしい。
 悪臭を放ち毒の息を吐いていて、皮膚がただれ肉が見えているモノまでいた。

「腐ってる? ゾンビ?」
〈いや……こやつらは理性があるからゾンビではない〉

 会話ができるらしく、グレンが通訳を買って出てくれた。
 グレンが聞いたのは、村の近くで村人を襲ったのは本当だけど村そのものは襲っておらず、翌日村人に奇襲され戦っているうちにこうなってしまったらしい。自分の体が腐っていくのがわかり、そのうち理性も消えてしまうだろう。とのことだった。

〈このままは辛いから殺して欲しいそうだ〉
「そんな……」
〈セナ。全てを助けることはできん。確かにセナなら助けられるかもしれんが、自然の摂理を壊しかねない。セナが嫌ならわれがやろう〉
「わかった……やるよ」

 せめてこれ以上辛くないようにと、光魔法を使ってあげた。

〈セナ……そんな顔をするな。最後に礼を言っていたぞ〉
「ホント?」
〈あぁ。『ありがとう。幼き人の子よ。そなたに幸あらんことを』だそうだ〉
「そっか……」

 生死をかけた戦いなら手段を選んでいられないこともわかる。相手が魔物なのもわかるし、魔物の味方をするわけじゃないけど……なんでこんなにもモヤモヤするんだろう。自分でもよくわかんないや……

 アーマーウルフを回収して、転移で戻るとプルトンはもう戻ってきていた。
 プルトンはしっかりと調べてくれていて、明日村長に話を聞くことにした。
 クラオルとグレウスに慰めてもらいながら眠りについた。


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