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6章
閑話:あの人達は今
しおりを挟む少女を探して旅に出ると決めたものの、未だにガルド達【黒煙】は自分達の国を出られていなかった。
元々Aランクだったときから堅実に依頼をこなしてきたために、ガルド達の評判はすこぶるいい。それが世界で数パーティしかいないSランクになったため指名依頼が増え、中々動けていないせいだ。
断ることが可能と言っても、貴族からの依頼は平民からすれば断りにくい。明らかに危険なものでなければ、この先のことを考えて受けるのが得策とされている。そうでなければ街での生活がしにくくなるのがわかりきっているからだ。
もし、目を付けられれば街に入れなかったり、自分達の血縁者や関係者にまで害が及ぼされてしまうかもしれない。
実際、とある商会の依頼を断ったら商会で買い物ができなかった。それ以来、買い物は個人店ですることが【黒煙】メンバーの暗黙のルールとなった。
「やっと終わりましたね。これで次の街に進めそうです」
ホッとした様子でモルトがパーティメンバーに話しかけた。
「ホントだよー。Sランクになった途端、こんなに指名依頼が増えるなんて予想外だよー」
コルトに反応したのはジュードだ。少し疲れを滲ませている。
「領主や高位貴族の依頼だから嫌でも受けるしかねぇだろ」
「わかってるよー。ギルドのノルマはこなしたんだから、もう解放してもらいたいねー」
自分のせいではないと言外に匂わせてたガルドに、ジュードが口を尖らせた。
そう。パーティメンバーは理解はしていた。善い貴族もいるが、悪い貴族もいる。経験から充分すぎるほど理解はしていても、すんなり移動できないため歯がゆくて仕方がなかったのだ。
そんな会話をしたのはひとつ前の街だ。次の依頼を頼まれる前に街を後にして、数週間かけて次の街に移動した。
街に着き、ギルドに少女の確認を取ると指名依頼を言い渡されるのが、少女と別れてからのお決まりとなったパターンだ。
「【黒煙】の皆様ですね。指名依頼が入っておりますので、確認をお願い致します」
Sランクに上がり、ギルド職員の口調が丁寧になったのにも慣れてきた。
また今回も指名依頼があるらしい。
ため息をつきながら確認すると今回は三件だった。うち一件は高位貴族からの依頼で、内容は厄介な魔物の素材。舌打ちしたくなる内容だったが、断れない。順調にいけば全てひっくるめて三週間以内には終われそうな内容だ。
これ以上は受けないとギルド職員に告げてからガルド達は依頼を受けた。
今日は街に着いたばかりのため、仕事を始めるのは明日からだ。
「SSランクになったら断れるのかなー?」
「どうだかな……SSランクがいたのは昔の話だろ?」
「国王のお墨付きでももらえたら断れると思いますが……難しそうですね」
無口なコルトは少女と別れてからさらに喋らなくなっていた。
そんなコルトを気遣って三人は軽口をたたきながらギルドから移動した。
「あぁー。あの子どうしてるかなー? ちゃんとご飯食べてるかなー?」
「この街でも食材買うのか?」
「当たり前だよー。わかりきってること聞かないでー。この街の特産品は何かなー?」
ジュードは少女に美味しいご飯を食べさせてあげようと、立ち寄った街で特産品を買うことに決めていた。食材さえあれば、また少女に新しいレシピを教えてもらえるかもしれないとの打算的な考えも持っているが、それはガルド達には話していなかった。
全員で店を回り必要な物を買い足していく。
十日ほどかけて比較的楽な依頼を済ませ、残ったのは厄介な依頼だ。この時点で予想していた日数を超えることがわかった。
依頼にあった魔物の素材を確保するため街を出て森を目指す。
四日ほどかけて森に到着すると、しばらく人が立ち入ってないのか魔物が多かった。
依頼の魔物はモスキーアントの上位種であるクイーンモスキーアントだ。
モスキーアントは血を吸う蟻である。体長は1メートル程で、一匹いたら三十匹はいると言われている。
クイーンモスキーアントはその名の通り女王だ。群れの中に一匹だけ存在し、配下の卵を産む。こちらは体長1.5メートル~2メートルと大きい。
ガルド達は、大量のモスキーアントに苦戦を強いられていた。
「クソッ! こう魔物が多いと魔力が持たねぇ」
余分に持ってきたはずのポーションもマジックポーションも、目当ての魔物に遭遇する前に残り少なくなっていた。
「うわっ!」
「おい! モルト!──グッ!」
モルトが吹き飛ばされ、ガルドは目の前の敵から目を逸らしてしまう。その一瞬の隙を付き、モスキーアントがガルドの剣を弾き飛ばした。
「クソッ!」
ガルドは舌打ちをしながら弾き飛ばされた自分の剣を探すが見当たらない。
焦りながらも、何かないかとマジックバッグに手を突っ込んだ。ガルドが無意識に取り出したのは少女が置いていった木刀だった。
「素手よりはマシだな。あいつには悪いが使わせてもらうぜ」
ガルドが木刀を振ると、いつも自分が使っていた剣よりも速く振るえた。
「あいつに返してやりたいから壊れないでくれよ」
少女の木刀は、いとも簡単にモスキーアントの硬い殻を粉砕した。
その威力に驚きながらもジュードとコルトにモルトを頼み、ガルドは木刀でモスキーアントを倒し続けた。
「お待たせー。コルトがモルト回復してるから大丈夫だよ」
「そうか。良かった。そろそろクイーンのお出ましだと思う」
ジュードが戦闘に戻ってきたため、先程よりは楽になった。
「それあの子のやつだよねー?」
「あぁ。剣が吹っ飛ばされて焦って出したらコレだった」
「なるほどー」
会話をしながらもガルドとジュードがモスキーアントを倒し続けていると、お目当てであるクイーンが現れた。
「チッ! 想像よりでけぇな」
「でも殺るしかないねー」
ガルドとジュードはアイコンタクトを取り、クイーンに挑む。
ジュードがクイーンの意識を逸らし、ガルドが木刀で攻撃していくと、さほど時間をかけずにクイーンも倒すことができた。
「終わったー!」
「だな。さっさと回収して街に戻ろう」
ガルドとジュードが周りに散乱しているモスキーアントを全て回収し終わるころには、モルトは動けるまでに回復していた。
森にいたくはないが、モルトを休ませるために森の入り口まで移動し、一泊してから戻ることにした。
野営での話題は少女の木刀についてだ。
モスキーアントの殻は硬く、安い武器では刃こぼれしてしまう。ただの木でできているはずなのに、その硬い殻をいとも簡単に粉砕した少女の武器は、少女と同じく謎に満ちている。
「またあいつに助けられたな……」
「そうだねー。もしかしたら短剣もすごいのかもしれないねー」
呪淵の森にいた少女は不思議な少女だった。
夢だったんじゃないかと思っても少女が残していった武器が、少女は存在することを物語っている。その証を全員が持ちたがったため、木刀はリーダーであるガルドが持っていたが、短剣は全員がひとつずつ持っていた。
今回のことで少女の謎は益々深まったが、少女を大切に思う気持ちは変わらなかった。
「結界石置いたし、早めに休もー」
ガルドはモルトが気にしないように疲れを見せないようにしていたが、さすがに疲弊しているのをジュードには見破られていたらしい。
ガルドは苦笑いしながら毛布に横になり目を閉じた。
少し急ぎすぎた。パーティメンバーも疲れが溜まっている。そんな状態で会ってもアイツを心配させるだけだな。街に着いたら少し休ませよう。
と、ガルドは考えながらも疲労からウトウトし始めた。眠りに落ちる瞬間、少女の笑顔を見た気がして心地よい眠りについた。
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