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5章
爆発≠ロマン
しおりを挟む今日のブラン団長は昨日ほど疲れた様子はないものの、目の下のクマが寝ていないことを物語っていた。
クマがあってもイケメンはイケメンなんだけどね!
フレディ副隊長もパブロさんもほとんど寝ていないらしい。なんでこの三人だけが大変なのかと思ったら、プルトンいわく“信用できる人物がわからないから自分達で動いている”らしい
ブラン団長達はカリダの街から来た。以前「貴族の息がかかった者もいる」と言っていたから、ここ王都の騎士団員を見極められていないのかもしれない。何人かは既に捕らえられているらしい。
老害との接触は人物が限定されているだろうし、次から次へと事件が起きてそれどころではないんだと思う。
お疲れならば昨日の夜作ったおやつを食べていただこう!
ブラン団長にマドレーヌの型で焼いたケーキを渡すと喜んで食べてくれた。
うん、うん。目の下のクマがなくなって顔色も戻ったね!
「……ん? 疲れが取れた……のか?」
「それならよかった! 疲れたときにはやっぱり甘いものだね! フレディ副隊長とパブロさんにもこのケーキ渡してあげてくれる?」
「……あぁ、わかった。二人とも喜ぶ」
ブラン団長は回復したことに首を傾げながらも受け取ってくれた。ちゃんと渡してくれるだろう。
ブラン団長に食べてもらったのはあのチートなリンゴの欠片を入れたケーキ。もちろんフレディ副隊長とパブロさんのケーキも同じものだ。これは一時凌ぎ用に作ったやつ。
大事な人達が過労で倒れるなんて冗談じゃないからね! ちゃんとみんなに許可取ったから怒られることもない!
ブラン団長が復活したところで魔法省へ。
ジルベルト君には昨日と同じく、お買い物と美味しいご飯を探してもらう。
魔法省の職員さんは今日の午後から来てもらえるらしい。
「さて、今日も頑張るよ!」
気合い充分にみんなに声をかけ、昨日と同じように魔道具のチェック作業を始めた。もちろん小音で音楽再生して。
昨日と今日で気が付いたことがある。テンポの早い曲だとメモする手が早くなって、テンポがゆっくりの曲だと遅くなる。そして好みが分かれていた。プルトンが恋愛系の曲が好きなのはなんとなくわかるけど、意外にもポラルはロックが好きらしい。曲に合わせて糸を出しているお尻のフリフリが激しくなっていてちょっと面白い。
そういえばと、行進曲が一番効率が良くなるBGMってなんかのTVでやっていたのを思い出した。
みんな慣れたのか昨日よりスピードが早い。思っていたよりも日数をかけずに終われそうだ。
お昼ご飯を済ませて作業を進めていると、ブラン団長とトゥリーさんがココに向かって来ているのがわかったので精霊達には姿を見えないようにしてもらった。
「……待たせた」
「ううん。大丈夫だよ。トゥリーさんこんにちは」
「こんにちは」
「トゥリーさんが手伝ってくれるんですか?」
「はい。シヤモだと手伝うどころか邪魔しそうなので……」
「あぁ……魔道具好きですもんね……」
昨日と一昨日の様子から、途中で気になる魔道具を見つけたらオタクスイッチがオンになって夢中になる姿を容易に想像できて苦笑いしてしまう。
「……セナ。悪いが俺は戻らないといけない。また夕刻に迎えに来る」
「はーい! ありがとう!」
私とトゥリーさんが挨拶すると、ブラン団長はお仕事に戻っていった。
「えっと、この部屋の魔道具がどこの部署の魔道具になるのかわからないので、トゥリーさんに選別して欲しいんです」
「わかりました」
「どんな魔道具なのかは魔道具に付けている紙に書いてありますし、部屋のドアに部署の名前の紙も貼り付けてあります」
「なるほど。この部屋にある魔道具を各部屋に移動させればいいんですね」
「はい。よろしくお願いします。私はさっきの部屋にいますので」
「わかりました」
トゥリーさんにお願いして再び魔道具を鑑定していく。トゥリーさんの現在地を確認しつつ精霊達にも手伝ってもらう。じゃないと数日じゃ終わらなくなっちゃうからね。
トゥリーさんが私がいる部屋にくる気配がないのでそのまま作業を進めているとクラオルに呼ばれた。
『主様? 難しい顔してどうしたの?』
「ん?」
『さっきからずっと何か考えているじゃない。何か悩み事?』
「あぁ。違う、違う。トゥリーさんって誰かに似てるなって思ったんだけど、誰だったかなーって」
『それ、昨日も言ってたわね』
「ずっと気になっててさ。でも思い出せないんだよね」
『考え過ぎると思い出せることも思い出せないわ』
「そうだね。何も関係ないときに思い出したりするもんね」
気にしないことにして作業を進めていると、シヤモさんが建物に近付いていることに気が付いた。
トゥリーさんに声をかけ、シヤモさんが建物に入ってくるところを待ち構える。
「魔道具ぅ~。魔道具が呼んでいるぅ~」
「呼んでねぇ!」
「うわっ!」
調子っぱずれの歌を歌いながら窓から入ってきたシヤモさんにトゥリーさんが大声で否定すると、シヤモさんの手が滑って窓から落ちた。
「いたい……ひどいよ~」
「酷くねぇ! お前立ち入り禁止だろうが!」
「うぅ……トゥリーだけズルいぃぃ」
シヤモさんは落ちた場所に座り込んで涙目でトゥリーさんを睨んでいる。
(うーん……可愛い子がやったら萌える仕草なんだけどな……)
「だいたい、なんでこの窓の鍵が開いてることを知ってる?」
「え……昨日の夜、開けに来たりなんかしてないよ!」
自白と変わらない発言をしたシヤモさんに、「お前が原因かよ……」とトゥリーさんがため息をついた。
「トゥリーだけズルい! 魔道具はロマンだよ!」
「お前そう言って何回も暴発させてるだろ!」
「爆発も含めロマンだよ!」
「爆発はロマンなんかじゃねぇぇぇぇぇーーーー!」
シヤモさんは過去にも暴発させていたらしい。そんな危険な目にあっているのに堪えていないらしい。トゥリーさんの魂の叫びにも怯まず、シヤモさんが言い返している。
“爆発を含めロマン”から“爆発はロマン”にセリフが変わっていっているシヤモさんにトゥリーさんが頭を掻きむしりながら反論していた。
収拾がつかなくなりそうなので、グレンに頼んでちょびっとだけ威圧してもらい、静かになってもらった。
「えっとね。今回私が鑑定をお願いされてるんだよね。確かに一歩間違えたら危ないのもあったから、鑑定できないシヤモさんは危険なの」
「大丈夫です!」
その根拠はどこからくるのか断言しやがった。
「はぁ……大丈夫じゃないから言ってるんだよね。もし、あなたのせいで王都全体が暴発に巻き込まれたらどうするの?」
「それは……」
「国家反逆罪どころじゃないよ。街の人達からも恨まれる。王都が瓦礫の山になったら魔道具どころじゃなくなるよ? 今までが大丈夫だったからって次が大丈夫だとは限らないでしょ?」
後半はちょっとブーメラン発言な気がするけど、この際自分のことは棚に上げるよ。
「でも!」
〈でもじゃない。セナの邪魔をするな〉
グレンの睨みに怖がっているけど、諦めなさそうだ。
ブラン団長は忙しそうだし、見張りの騎士団の人もこの人を渡されても困るだろう。そもそも立ち入り禁止なのに侵入している時点で罪じゃないのか。見張りの意味がないじゃないか。
《((セナちゃん。セナちゃん))》
どうしようかと考えているとプルトンに念話で呼ばれて、いいことを教えてくれた。
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