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5章

閑話:とある従者side

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 俺は間諜。つまり諜報員だ。元々俺の出身は違う国だが、アーロンに「オレに仕えないか?」って引き抜かれた。つまり俺は、国ではなくアーロン個人に仕えている。
 俺は鳥族と蝙蝠コウモリ族のハーフで、空を飛べるし暗闇でも昼間と変わらずところが気に入られたらしい。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。
 アーロンが「ムレナバイパーサーペントを倒した」と隣国の王太子に言われてパーティーに呼ばれたんだよ。めんどくせぇ。
 話を聞いた時は信じられなかった。
 隣国クラーロ国の軍事力ではおそらく倒せない。倒せたとしたら相当な被害が出てるはずなんだ。なのに被害はゼロなんてありえないだろ? 冒険者に頼んだとしても何人かは確実に死ぬような魔獣だぞ!
 し・か・も! 倒したのは幼い少女なんて信憑性は皆無だ。ただ、連絡をしてきた王太子もよくわかっていないらしい。

 シュグタイルハン国は強い者が上に立つ。アーロンも兄弟と戦って国王の座を勝ち取った。
 そんな国民性にたがわずアーロンも強い者が好きだ。
 アーロンが乗り気になったお陰で俺も巻き添えを食らう羽目になった。
 俺はアーロンに命令されて渋々このクラーロ国にきた。本当に渋々だ。国の国王であるアーロンに命令されたら拒否権はない。

 だけどさ、見れるっつーならちょっとくらいは期待しちゃうだろ?
 俺はさ、前乗りして情報収集してたんだよ。その子は王城に泊まってなくて見当たらなかった。本人たっての希望で宿に泊まってるらしい。普通賓客って城に泊まんじゃねぇの?
 んで、なんか部屋が荒らされたらしく城に泊まることになったからアーロンへの報告のために早速見に行ったんだよ。
 俺は夜中こっそりと天上裏に忍び込んで彼女の元へ向かった。向かったまでは良かった。はな。
 少女の部屋に近付くと暗闇に赤く光る四つのがあった。おそらくその子の従魔だ。他の諜報員を音も立てずに葬ってやがった。しかも楽しそうに。思わず身震いしちまった。
 これはやべぇと思ってジリジリと離れようとしたんだけどさ、目が合ったんだよ……赤い目と!
 赤い目に「お前もか?」って問われた気がして、急いで撤退した。あれはものすごく焦った。おそらく俺じゃ勝てない。追われなくて良かったぜ。

 結局、他の情報収集に忙しくその子を確認する前に、ムレナバイパーサーペントとマザーデススパイダーの素材が出回るようになって本当に討伐されたことが判明した。
 マザーデススパイダーも倒したのかよ! しかも! おそらくだが、魔落ちしたやつだと思う。あんなに魔力を含んだ素材はそうそうお目にかかれない。
 昔仕事で行った先で魔落ちした魔物を見たことがある。あのときは被害も甚大だった。その魔物と張るくらいだと思う。そんな魔物を一人で倒すなんて最早バケモンだろ……

 別の日も情報収集のために夜中に飛んで移動してたんだよ。
 ふと気配を感じて辺りを探ると、ジジイがガキをムチで叩いてた。
 こういうクズはどこにでもいるんだなーって思ってたら、ちっこい少女がこっそりと様子を窺っていたことに気が付いた。少女は今にも泣きだしそうな顔をしてるのにジジイに怒っているみたいだ。
 正義を振りかざしたところで権力には無意味だ。ほっときゃいいのに。
 数日少女の泣きそうな顔が頭から離れなかった。


 パーティー会場で見たのはあのちっこい少女だった。以前目撃したのとは違い、純真無垢って言葉が似合う屈託のない笑顔を振りまく、小さくて可愛らしい子だ。俺ですら親戚かなんかにいたら間違いなく可愛がると思うくらいの。
 なんつーの? 庇護欲を掻き立てるっつーの? そんな少女があの魔獣を倒したなんて信じられるかよ。
 招待客であるこの国の貴族の男共もチラチラと盗み見ていた。だが、それより酷かったのは女共だった。ギラギラと獲物を狙うような目で少女の隣りに立つ男を見ていた。
 そう! 少女と仲の良さそうな男がドラゴンだってことにもめちゃくちゃ驚いた。そのドラゴンは見たことない服装だった。ただ、なんかカッコイイ服だと思った。あれ、どこに売ってんだろ? 俺も着てみたい。
 
 少女は飲み物だけは給仕に頼んでたけど、こっそりアイテムボックスから何かを出して従魔達と一緒に食ってんのを俺は見逃さなかった。
 アイテムボックスだぜ!? 目を疑ったね! そんな伝説級のスキル持ってるなんて何者なんだよ!

 だけど俺はまた目を疑う現場を目撃することになったんだ。
 パーティー会場で明かりの魔道具が一斉いっせいに消えた瞬間、あの少女が結界を張ったんだ。しかもご丁寧にグループ分けして。
 信じられるか? 結界だぜ? この世界で数人しかできない芸当だぜ? なんでこんな子供ができるんだよ! 普通は自分の周りに小さな結界を張るくらいだろ!

 少女が戦っている姿を見て俺は確信した。この子はただもんじゃねぇ!
 ただ、あるじさんよ。少女が張った結界を殴るのは止めてくれ……しかも笑顔で殴ってるとか怖ぇから。
 あれは身体強化して殴ったのに壊れない頑丈さが嬉しかったんだな。

 あるじであるアーロンはこの一件で少女を気に入ったらしい。まぁ、確かに強かったもんな……

 アーロンへは一応全部報告したけど、ちゃんと忠告しておいた。手玉に取れる相手ではないと。
 アーロンは納得して友好的にしておくことに決めたらしい。っつーよりは、マジで友人になりたがっていた。

 アーロンがすげぇ気にかけてるから幼女趣味ロリコンなんじゃねぇの?ってちょっとばっかし疑ってたんだが、どうやら違うらしい。純粋に強いあげくに五歳児とは思えないほど聡明だから面白いんだそうだ。良かったぜ……

 アーロンに少女が貴族に害を及ぼされず、街の人間に好かれるよう噂を流せと命令された。悲しい顔は見たくないんだそうだ。
 ホントに幼女趣味ロリコンじゃないんだよな?って確認したら殴られた。まぁ、あの笑顔を護ってやりたい気持ちはわからなくもないが……
 嫁にしたいとか言われたらどうしよう……そうだ。国に戻ったら宰相に言ってアーロンの婚約者候補を見繕ってもらおう。


 まだ、噂を流すために動いてる俺もアーロンもなかったんだ。彼女の規格外を……




ーーーーーーーキリトリーーーーーーー

最後の伏線はだいぶ先に回収となりますので、しばらく出てきません。
忘れても大丈夫です。
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