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5章

二位じゃダメなんでしょうか?

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 朝、ブラン団長は疲れた様子で部屋にきた。ソファに座って開口一番に告げたのは「魔法省を建て替える」だった。
 寝ていないのはもちろんのこと、魔法省の職員に聞き込むと他にも出てきたんだそう。ジルベルト君も一緒にいる手前ハッキリとは言わないけど、おそらく職員だけじゃなくて老害にも聞いたんだろう。
 疲れた様子のブラン団長に近付いてヒールをかけてあげると、膝の上に乗せられて抱きしめられた。本当に疲れているらしく、いつも姿勢がいいのに猫背気味だ。
 ブラン団長には癒しが足りないんだろう。思えば、私のせいで気苦労ばっかりかけている。調べものや捕まえたやつの取り調べ、絶えず仕事に追われストレス発散も難しそうだ。
 少しでも癒せますようにと願いながら、よしよしと頭を撫でてあげているとブラン団長は息を吐いた。体の中に溜まったモノを全て出すように、それはもう盛大に。
 いつもなら文句のひとつも言いそうなグレンは不服そうではあるものの、ブラン団長の疲れ具合に何も言えないみたい。

「……すまない。やはりセナといると落ち着くな。嫌なモノが浄化されていく気がする」
「気にしなくて大丈夫だよ。それよりブラン団長は大丈夫なの?」
「……あぁ。今大丈夫になった。それより続きを話そう。建て替えるのにあたってあの魔道具の山をなんとかしないと建物を壊せない。そのためやはりセナに鑑定を頼みたい。セナに頼まれていた物は用意できた」
「うん。大丈夫だよ」

 ジルベルト君には大量のお買い物を頼んだ。おそらく今日だけじゃ終わらないので、買い物も何日かに分けていいからご飯の美味しいお店を何件か見つけてくれると嬉しいなと伝えておいた。そう言っておけばご飯もちゃんと食べてくれるでしょう。

 ブラン団長と魔法省に向かうと見張りの騎士さんの近くでシヤモさんと誰かがモメていた。
 相手は耳がとんがっているからエルフだと思う。
 シヤモさんはオタクスイッチが入っていないようでモジモジしていて、エルフっぽい人は「あ゛ぁー! もう! 人の話を聞け!」と頭を掻きむしっている。
 二人はブラン団長が声をかけても気が付かない。

「……」

 ブラン団長が無言で二人のすぐ傍に立つと、背の高いブラン団長の影でようやく気がついた。

「はっ! 申し訳ございません」

 エルフの人が瞬時に膝をついて頭を下げた。シヤモさんは「あっ。どうも」と挨拶をしていた。
 そんなシヤモさんの態度を見てエルフの人が「ちゃんとしろ!」と怒っている。

「……堅苦しい挨拶はいい。魔法省の職員だな?」
「はい。シヤモが昨日立ち入り禁止となった本部に行くと言って聞かないので止めておりました」
「……なるほど。助かった。悪いがシヤモ殿も立ち入り禁止だ」
「えぇぇぇぇぇ!?」

 シヤモさんの特大の絶叫が響き渡った。

「むしろ、立ち入り禁止って言われたのになんで大丈夫だと思ってたんだよ……」
「そんなぁ……」

 エルフの人の呆れ声も届かず、シヤモさんはガックリと項垂うなだれている。
 「はぁ……」と大げさにため息をついたエルフの人と目が合った。
(ん? なんか見たことある? いや。誰かに似てる?)
 ブラン団長が名前を聞くと、エルフの人はトゥリーさんというらしい。
 何かあれば呼ぶからと言い含めてシヤモさんとトゥリーさんを帰らせた。

 ブラン団長は昨日建物の中も調べたらしく、迷うことなく魔道具部屋に案内してくれた。
 まだお仕事があるらしく、いなくなっても大丈夫か聞かれたので問題ないと答えておいた。むしろ精霊達にも協力してもらうつもりだったので渡りに船だ。


「よしっ! みんなにも手伝ってもらいます!」

 エプロンを着てやる気満々に宣言する。みんな嫌がることもなく手伝ってくれるらしい。
 鑑定して、魔道具の名前とどういった機能なのかを簡潔に書いた紙を糸で魔道具に付けていく。そしてどんな魔道具があったのかを一覧表にまとめて、関係すると思われる部門別に別部屋に運べば完了だ。
 大量の紙はブラン団長に頼んでおいたのでバッチリ! 目印用の糸はポラルにお願いして現在生産中である。グレンとプルトンは鑑定を、エルミスは一覧表を、クラオルとグレウスはサポートを頼んだ。
 白スーツのあの仕分け人みたいだわ! もっとも、経費削減とは全然違って倉庫内仕分け作業の方が近いかもしれないけど。

《ウェヌスを帰らせなければ良かったわねぇ》
《そうだな。あやつはこういう作業など得意だからな》
「そうなの? 綺麗好きそうだもんね。でもお仕事溜まってるだろうから呼ばないよー」
《大丈夫よ。セナちゃんの役に立てなかったって悔しがるだろうから、からかってあげるわ! ふふふっ。楽しみ~》
「えっと……ホドホドにね」

 雑談しながらも作業を進めていく。みんな字がキレイで読めないなんてことはなかった。もちろんグレンも。
 途中から大人サイズのプルトンが鼻歌を歌いだして音楽再生スキルを思い出した。
 みんなに聞いてからBGMになるように小音で再生する。

〈セナ。鑑定したが、意味がわからん〉
「どれー?」
〈これだ〉

 グレンから渡されたものを鑑定してみると、クッション型のマッサージ器だったんだけど……
 “使い方はあなた次第♪”って書いてあるのがなんとも……腰とか背中以外に使い道ないでしょうよ。

〈これも似ているが、同じくわからん〉

 今度はアヒルの形をした魔道具だった。鑑定してみるとマルっと同じ説明文。
 なぜアヒルの形なのか……って言うかこんなもん作らないでよ! 説明に困るでしょ!

 グレンへの説明はマッサージ器ってことでゴリ押しした。
 なんとなく魔道具を触った手にクリーンをかけてから作業再開。もちろん問答無用でグレンにもクリーンをかけた。

 途中でお昼ご飯も食べて作業を進めているけど、まだ1/10も終わっていない。そしてどの部門に該当するのか迷うモノも多い。例えば光魔法のライトだ。
 この世界では異世界あるあるのアンデッドやレイスも存在する。そういう魔物には光魔法が効果的なんだけど……
 このライトはボヤァっと光るだけ。浄化まではとてもじゃないができそうもない。なので魔物対策部門なのか、ただのライトとしての便利道具なのかの判別が付けられない。
 明日は手伝ってもらおうと今日はこのまま作業を進めていく。

 クラオルから夜ご飯のお知らせがきて今日の作業は終わりになった。
 後片付けをしているとブラン団長がお迎えに来てくれた。
 ブラン団長に明日は仕分け作業を魔道具がわかる人物に頼みたいとお願いをして部屋まで送ってもらった。

 夜ご飯もそこそこに私はコテージで思いついた料理と魔道具作り。何人かには手伝ってもらったけど、今日だけじゃ終わらなかったのでみんなのリバーシタイムにコツコツ作っていこうと思う。



 
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