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5章
おばあちゃんVSおばあちゃん
しおりを挟むネライおばあちゃんも一緒に商業ギルドに着くとサルースさんはすごく驚いていた。
「ちょっと。サルース! セナちゃんに面倒かけたらダメでしょう!」
「何言ってんだい! セナのおかげで奴隷にならなくて済んだし、店も続けられるようになったじゃないか!」
「そうさね。それだけで充分なんだよ! それなのにサルースったらセナちゃんに冒険者用の装備を考えろなんて言うなんて!」
「セナが気にしてたから助言してやっただけじゃないか!」
ネライおばあちゃんが執務室に入るなりサルースさんに詰め寄ったのを皮切りに言い合いが始まってしまった。
内容は完全に私のせいだ。私がサルースさんに相談したからサルースさんがアドバイスしてくれただけである。
「セナ様。とりあえずソファへどうぞ」
「えっと……」
「お気になさらず。懐かしゅうございます」
ゲハイトさんが懐かしいと言うなら以前はよくあった光景なんだろうとソファに座った。
「お孫さんが生きていらした頃は、ことあるごとにこうしてじゃれていらっしゃいました。セナ様のおかげでお元気になられたようで安心致しました」
ネライおばあちゃんはいつもの温厚な雰囲気はどこへやら……声を張ってサルースさんに怒っている。ただ、その姿はいつもよりも若々しく感じる。
(高校の同級生とかと飲むと年甲斐もなく盛り上がるよなぁー。いい意味でネライおばあちゃんにとってはサルースさんはそういう存在なのかもしれないね!)
「一緒に来られたと言うことはなにかありましたか?」
ネライおばあちゃん達のやり取りを微笑ましく見ているとゲハイトさんに話しかけられた。
「うん。サルースさんに私が考えたデザインの服を目立つように飾ればいいって教えてもらったから、飾るマネキンも作ったんだけど……」
「マネキンでございますか?」
「うん。見てもらった方がわかりやすいと思う」
首を傾げているゲハイトさんにマネキンを出して説明する。
ネライおばあちゃんのお店で組み立てていたから、一度分解して再度組み立て直した。
私が説明していく間にゲハイトさんはだんだんと目を輝かせていく。
「こ、これはっ! なんて画期的な人型!」
私がマネキンの説明を終えると、ゲハイトさんは大興奮して一人で喋り始めてしまった。
ネライおばあちゃん達は変わらず言い合いしてるし、ゲハイトさんはマネキンがいかに素晴らしいかを怒濤の勢いで言い募っている。
(これどうしよう……)
〈セナ。うるさい。何とかしてくれ……〉
グレンがうんざりしたように言ったので、ネライおばあちゃん達とゲハイトさん別々に結界を張ってあげた。
ポラル以外はみんな耳を塞いでいたらしく、結界を張るとホッと息を吐きながら手を外している。
『助かったわ……うぅ……頭がクラクラする……』
『グワングワンしますぅ』
体調不良のクラオル達に私がヒールをかけてあげると持ち直したらしく、お礼を言いながら頬にスリスリしてくれた。
ラスクを片手にゲハイトさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、コンコンとノック音がした。
音がした方を見てみると、ゲハイトさんが結界をノックしていた。マネキンの世界から戻ってきたらしい。
ゲハイトさんの結界を解除するとキッチリお辞儀をしながら謝られた。
「大変失礼致しました。この人型は素晴らしいですね。ぜひ作り方をお教え頂きたいです」
「教えるのはいいんだけど、私が作ったやつはネライおばあちゃんのお店に置いて欲しい」
「それはもちろんでございます! 早速セナ様の木工レシピとして登録致しましょう!」
ゲハイトさんはテンション高く書類を書き始めてしまった。
普及してもらえるだけで良かったんだけど、言い出せない雰囲気なので任せることにした。
マネキンは料理レシピとは違って、販売したら途中で許可を取り消すことはできないらしい。料理と違ってモノが残るからだそうだ。もちろん料理と同じく売れたら売れただけ私に還元されるとのこと。
私はもちろん無問題! 私がいなくなった後に問題が起きなければいい。
「では、本日セナ様にお願いしていた料理のレシピとともに登録致します。そうですね……そろそろコチラのことを思い出して頂きましょう。結界を解除していただいてよろしいでしょうか?」
「はーい」
私達にだけ結界を張ってからネライおばあちゃん達の結界を解除した。じゃないといきなり大声が響き渡ることになっちゃうからね。
ゲハイトさんが仲裁したのを確認してから自分達に張った結界を解除した。
「あぁー! もしかしてラスク食べてたのかい!?」
〈フンッ。もう遅いわ。セナを放置していたのが悪い〉
「あぁ……老い先短い年寄りに残しておこうって優しさはないのかい……」
サルースさんはラスクを乗せていたお皿を見てガックリと肩を落とした。
「本日セナ様に教えていただくスイーツなるものがあるじゃないですか。そちらを楽しみにしたらいかがですか?」
「そうだね! セナから昨日もらったパンも美味しかったからね。新しい料理を楽しみにするよ!」
ゲハイトさんが苦笑いしながらとりなすとサルースさんはテンションが上がった。その姿を見てゲハイトさんは再び苦笑いをこぼす。
「申し訳ございません。セナ様が考えた装備のデザインも登録致しましょう」
「本当にうちのお店で販売しちゃってもいいのかい?」
「うん。私のせいでおばあちゃん巻き込んじゃったから」
「セナちゃんのせいだなんて思ってないよ。むしろ疎遠になってた子供達との仲も戻ってセナちゃんには感謝しかないんだよ」
全部私のせいだけど、そう言ってもらえるとまだ救いがある。お世話になった人にはもう迷惑をかけたくない。今回のことを教訓にして、ほかの街ではあまり深く関わらないようにしようと思う。
全員がソファに座ると私が考えたデザインの話しになった。
ニッカポッカのようにダボっとしたデザインは今までなかったらしく、なんでこの形なのかを説明すると思いのほか食いつかれた。作業着はポケットが多いのに服の形状が崩れていないと驚かれた。
なぜかネタ枠として考えたツナギの作業着とニッカポッカが高評価でビックリだ。
ネライおばあちゃんは四種類のうちどれかを選ぶつもりだったらしいけど、サルースさんとゲハイトさんに説得されて四種類とも作ることにしたらしい。まさかのネタ枠も採用されてしまった。
「登録が終わりました。もうお昼ですのでご一緒に昼食はいかがですか?」
ゲハイトさんが誘ってくれたのでみんなでゾロゾロとゲハイトさんのオススメのお店に移動した。
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