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5章

良かれと思っただけなのに

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 昨日お城に戻ってから、帰り際にサルースさんに言われたネライおばあちゃんのお店で販売する冒険者用の服のデザインを考えた。
 サルースさんいわく「セナの考えた服を目立つように置いておけば無茶な依頼もされないだろう」とのことだった。
 いいように使われている気がしないでもないけど、ネライおばあちゃんのためなら嫌とは言わない。
 あんまり面倒なのはネライおばあちゃんが大変になっちゃうだろうからと、わりかし簡単なんじゃないかと思われる布製の服と革の鎧だ。
 もちろん私が丸々考えつくワケがないので、某有名ゲームの装備デザインをほぼほぼパクった。ついでにネタ枠で、ツナギの作業着とニッカポッカも描いてみた。

 朝ご飯を済ませて、人通りが少ない朝早くにネライおばあちゃんのお店に向かう。
 ネライおばあちゃんのお店はまだオープン前だったけど、起きていたらしくドアを開けてくれた。

「いきなり来ちゃってごめんね」
「気にしなくて大丈夫だよ。年寄りの朝は早いからね。悪いんだけど、セナちゃんに頼まれた服はまだできていないんだよ」
「ううん! 今日は違うお話で来たの」
「違う話かい?」
「うん。おばあちゃんのお店って今はどう?」
「そうさねぇ……貴族様の訪問は少し落ち着いたけど、冒険者がよく来てくれるようになったよ」

 おばあちゃんに確認してみると、一瞬何かを考えて取り繕うように返された。

「その冒険者に無理難題とか言われてない?」
「ふふふっ。セナちゃんには隠しごとができないねぇ……ただ、中にはちゃんとオーダーしてくれる子もいるから大丈夫だよ。セナちゃんに守られているしね」

 やっぱり……ネライおばあちゃんは多くは語らないけど、おそらく私と同じ装備を作って欲しいと言われているんだと思う。貴族は権力で、冒険者は武力だ。
 私自身の装備は作ってもらっていないからおばあちゃんには作れない。
 私の結界で悪者は弾くものの、純粋にオーダーしに来て作れないとなったら冒険者はガッカリして帰るだろう。

「それでね、サルースさんにアドバイスしてもらって、おばあちゃんのお店で売るための装備考えたの」
「アドバイス?」
「えっと……助言のこと」
「またサルースはセナちゃん巻き込んで……」
「迷惑だった?」

 余計なことをしちゃったかと心配になる。

「違うよ。いっぱいセナちゃんに世話になったのに、また世話になるのは申し訳なくてねぇ……」
「むしろ私が巻き込んでる側だと思うよ……」
「そんなことはないよ。セナちゃんがいなければアンジェリッタの真相もわからなかったからね」

 ネライおばあちゃんは私を責めることは一切なく、優しく微笑んでくれた。

「それでね。冒険者が普通に頼んできた場合はいいんだけど、おばあちゃんの手に余る依頼だった時にオススメできる服があったら断りやすいって思ってデザイン描いてきたの」

 気を取り直してネライおばあちゃんに描いたデザイン画を渡す。

「これは……」
「こっちが布製の服で、こっちが革の鎧だよ」
「見たことのないデザインだねぇ!」

 ネライおばあちゃんはデザイン画を見て目を輝かせた。

「どうかな?」
「これを作って販売してもいいのかい?」
「うん。一応面倒じゃない服を考えたんだけど……無理に作らなくても大丈夫だよ?」
「こんな素敵なデザインを思い付くなんてセナちゃんはすごいねぇ……」

 食い入るように見つめてため息をつくおばあちゃんを見て、とりあえず気に入ってもらえたようで安心する。

「えっと……」
「本当に販売してもいいのかい?」
「うん。サルースさんが私がデザインしたやつがあれば断りやすいだろうからって。一着作って飾っておけば、クチで説明しなくてもわかるかなってマネキンも作ってきたよ」
「マネキン?」
「えっと……見た方が早いね」

 木で作ったマネキンを出して目の前で組み立ててる。
 マネキンは服を着せやすいように各関節が取り外しできるようにした。顔はなく腕も手首までで、足はブーツを履かせるためにふくらはぎまでにしておいた。
 おばあちゃんは目玉が飛び出るんじゃないかってくらい驚いている。

「セ、セナちゃん。これは??」
「お客さんに服を見せるための人形だよ。ただ服を見せるより、自分が着た姿を想像しやすいでしょ? ちゃんと壊れないようにしておいたから、少しくらい乱暴に扱っても大丈夫だよ!」
「こんな……こんなすごいものもらえないよ!」
「え? 別にすごくないよね? ただのマネキンだし。トルソーくらいあるでしょ?」
「セナ様。僭越ながらよろしいでしょうか?」

 あまりに驚いているおばあちゃんに私が首を傾げていると、ジルベルト君に話かけられた。

「ん? どうしたの?」
「ここ王都にはこのような画期的な物は存在しておりません。服を作る際に使う物は金属の紐のような物で作られており、腕はなく腰までしかありません」
「え!? マジ? ワイヤータイプだけ?」
「はい。そのワイヤータイプがわかりませんが……その人型も貴族や王族が利用するお店では使われておりますが、平民のお店では使われておりません。平民ではその人型も知らない方が多いと思います」
「えぇ!? マジ!?」
「はい」

 まさかトルソーが上流階級だけなんて知らなかった。
 おばあちゃんに聞いてみると、型紙を作って服を作っているらしい。
 マジか……こんなことでやらかすなんて思っていなかった。良かれと思って作っただけなのに……

「商業ギルドのサルース様に一言伝えた方がよろしいかと思います」
「そうだね……そうしよう……この後商業ギルドに行くしね」

 またネライおばあちゃんを巻き込むのは申し訳なさすぎる。ジルベルト君のアドバイス通り、伝えた方が後々のためにいいだろう。
 聞いてみてダメそうだったら無限収納インベントリに死蔵しよう。

「とりあえず、マネキンはしまっておくね」
「うちなんかに置くなんてもったいないよ。まったく。セナちゃんに面倒かけるなんて! サルースに文句もひとつでも言ってやらないとねぇ」
「えっと……マネキンは私が勝手に作ったから、サルースさんのせいじゃないよ?」
「このデザイン画はサルースに言われたんでしょう?」
「それも私が相談したからで……」
「そうだとしてもだよ。孫より小さい子供にこんなに気を遣わせるなんて……」

 そういえば私5歳だった。
 全部私が勝手にやったことだけど、怒りながらため息をつくネライおばあちゃんに何も言えなくなってしまう。

「セナちゃんはこのあと商業ギルドに行くのかい?」
「うん。その予定だよ」
「そうかい。一緒に行くよ」
「え」
「一緒は嫌かい?」
「う、ううん! お店は大丈夫?」
「心配してくれてありがとうねぇ。大丈夫だよ」

 ネライおばあちゃんは私の頭を撫でてくれた。優しい手つきに先ほどの焦りがどこかに飛んでいった。
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