転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン

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5章

目には目を歯には歯を【2】

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 私がどうしようかと考えている間もグレンとサルースさんは言い合いを続けている。よくよく聞いてみると最後の一枚をどっちが食べるかで揉めているらしい。
 くだらなさすぎて半目になってしまう。
 どっちでもいいけど、グレンはほぼ毎日食べてるんだから譲ってあげればいいのに……への欲望強すぎでしょ……

「〈あぁぁぁぁー!〉」

 私が止める前にポラルが器用に蜘蛛の糸を使ってラスクを引き寄せて一口ひとくち食べた。
 この場を治めたポラルを撫でてあげる。
 サルースさんはガックリと肩を落としているし、グレンはムスッとしてしまった。

「まぁまぁ。グレンはほぼ毎日食べてるでしょ? サルースさん達には今回お世話になったからお礼にパン持ってきたんだよ」
「「パン?」」
「うん。ジャムパン。はい! どーぞ」

 サルースさんとゲハイトさんに袋に入れたパンを渡すと、サルースさんは嬉しそうにゲハイトさんは遠慮気味に受け取ってくれた。

「ありがとねぇ!」
「よろしいのですか?」
「うん。良かったら食べて」
〈セナの手作りだ。味わって食え〉

 またグレンはなんでこうも偉そうなのか……二人とも気にしてなさそうなのが救いだわ。

「では、話を戻しましょう。噂の件ですがおまかせください。人は噂好きですのですぐに広まるでしょう。店を守り、セナ様の不利になるようには致しません」
「まかせちゃっていいの? ちなみにどう流すのか聞いてもいい?」
「噂は“救世主のお気に入りのお店は守られているらしい”で充分さね」

 それは……まんまじゃないか?と思ったけど、サルースさんが自信満々だからつっこむのをやめておいた。

「すぐに、弾かれた者は悪いヤツだと尾ヒレが付くだろうから、貴族なんかは近付かなくなるさ」
「それって、お店の人が逆恨みされたりしない?」
「ハッハッハ! 大丈夫だよ。商業ギルドに冒険者ギルド、平民や国王もセナに借りがあるからね。悪いようにはならないさ」
「本当に?」
「心配性だねぇ。セナの意向を無視すれば反逆罪に問われるんだ、安心おし。賭けてもいいさ」
「大丈夫ならいいんだけど……」

 サルースさんが言い切るから大丈夫なんだろうけど、やっぱり気がかりだからたまに様子を見にこようと思う。

「納得していただけたようですので、先日の報告と致しましょう」
「わかった」
「調べた領地や他の街にある関係者宅に、同日一斉に調べに入りました。徹底的に調べると、地下室や隠し部屋などを発見致しました。そこで押収した書類が決定打となり、セナ様が仰っていた通り奴隷商人と結託していたことが判明致しました。その後記録から被害者の男性と女性が奴隷として働いていることがわかり、保護されたのです」
「そっか……当たらなきゃいいなって思ってたんだけど、当たっちゃったんだね……」
「男性は、奴隷として買い取った人物が良心的であったため、健康体でおられます。男性の証言によりセナ様の予想の裏が取れました。奴隷商人に加担していた盗賊も捕まえられました。女性は……大変痩せておられましたが、現在は徐々に食欲も戻りつつあるようです」
「そっか……」
「現在保護されているのはこの二人だけですが、“見つけ次第保護せよ”と王命が下っております。奴隷商人は王都に連行されている最中ですので、王都に着き次第尋問の予定です。王都から離れた街にいたため、おそらく三週間ほどかかると思われます」
「結果は気になるけど、三週間かぁ……さすがにそこまでは待てないかなぁ……」

 視線が突き刺さる王都は居心地が悪いし、このままズルズルと王城にお世話になる訳にはいかない。
 やはりネライおばあちゃんに頼んだジルベルト君の服が出来上がり次第出発しよう。
 結果は……前の作戦会議の時に【簡易送受信魔道具】と呼ばれている、手紙や小さな荷物などを送れる魔道具が冒険者ギルドと商業ギルドにあることを聞いたから、それでやり取りをして聞けばいいよね。

「待っていられないってことは街を出るんだね?」
「うん」

 考えているとサルースさんに確認された。

「いつ出て行くとか決めているのかい?」
「ネライおばあちゃんに頼んだ服が出来上がり次第かな?」
「そうかい。どこに向かうか聞いてもいいかい?」
「んと、アプリークム国方面に向かう予定だよ。どうかしたの?」
「先に連絡しておこうと思ってね。何かあった時にすぐ動けるからね」
「……」
「ハッハッハ! そんな顔しないでおくれよ。念の為さ。この国なら王家のメダルがあるけど、他の国では通用しないこともあるだろうからね」

 一瞬にして不吉なフラグが立った気がしてジト目になった私に、サルースさんが笑いながら理由を説明してくれた。

「何もないのが一番だけど、他国の貴族はわからないからね」
「なるほど……」
「商業ギルドも冒険者ギルドも世界共通だけど、セナが向かう先に優先的に連絡しておくよ。国によってギルドの立ち位置が違う国もあるからね。この先ずっと旅するなら気を付けた方がいい」
「ありがとう。立ち位置が違うって?」
「ここらへんの国では似たようなもんだけどね。冒険者ギルドより商業ギルドの方が権力を持っていたり、その逆もあるのさ」
「あぁ……なるほど」
「そんなに気に病まなくても大丈夫さ」
「うん……」
(マジで一気にいろんなフラグが立った気がする……)
「今日このあとはどうするんだい?」
「冒険者ギルドでジョルガスさんに会いに行く予定だよ」
「そうかい……ところでセナ、さっきのラスクってやつは販売予定でもあるのかい?」
「え? 自分達用だからそんな気はないよ」
「そうかい……」

 サルースさんは残念そうに肩を落としてしまった。相当気に入ったらしい。

「販売しないのかい?」
「するつもりはなかったんだけど……あれ、砂糖すごい使うからいっぱい食べたら不健康に太ると思うよ」
(私は太るより糖尿病の方が心配になるけど……)
「そうかい……もう食べられないのは残念だね……」
「そこまで気に入ってもらえるとは思ってなかったよ。ありがとう」
「セナ様。お知恵をお貸しいただいてもよろしいでしょうか?」

 何かを考えていたゲハイトさんに呼ばれて首を傾げる。

「知恵?」
「はい。キーウィは他国から輸入しているものになります。この国で作れるものをお教えいただきたいのです」
「そりゃいいね!」
「うーん……」
「セナ様の許可が下りている間のみ販売できることに致します。いかがでしょうか?」
(なるほど……つまり逆に言えば私が許可を撤回したら販売されないと。食べたければ私の邪魔するなって牽制に使えるってことか……)
「作れるものは食材によるかな?」

 私の発言でゲハイトさんがこの国の農産物の収穫高が記載されている資料を持ってきた。
 資料を見ている限りでは特産品はないみたいで、どれも平均的だった。
 天候不良や不作になったとしても収穫できているものを聞いてみると、さつまいもとにんじんならば一定で収穫できているらしい。
(そういえばカリダの街で大量にさつまいも買ったわな)

「簡単なのはクッキーだけど、私的には芋きんとんかスイートポテトがオススメかなぁ? 大学いもも美味しいけど蜂蜜がネックだから」
「「芋きんとん? スイートポテト? 大学いも?」」

 サルースさんもゲハイトさんも揃って首を傾げた。
 蜂蜜もミエールツって呼ばれているから通じないハズなんだけど、知らない単語が並んだからか蜂蜜に関してはスルーされたっぽい。

「それはどういったものなのでしょうか?」
「さつまいものスイーツだね」
「「スイーツ?」」
「あぁ……えっと……しっとりとしていて甘いお菓子って言えばいい?」
「どれか一品で構いませんので、作っていただくことは可能でしょうか?」
「大丈夫だよ。今?」
「いえ。明日でもよろしいでしょうか?本日は販売する店を厳選致します」
「はーい。わかった」
「ありがとうございます」

 芋きんとんとスイートポテトの説明をしてどちらがいいか選んでもらった。
 材料は全て商業ギルドが用意してくれるらしく、材料を伝えてから冒険者ギルドに向かう。
 冒険者ギルドでジョルガスさんにお礼とパンを渡してからお城の部屋に戻った。





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