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5章
大事な話【2】
しおりを挟む「うん。やっぱり大丈夫そうだね」
「ん?」
クラオルとグレウスを撫で回していたら、ニコニコとガイ兄に言われて首を傾げる。
「グレウスの始祖は元々すごい獰猛だからセナさんが聞いたら引くかと思ったんだよ。大丈夫だろうとは思ったけど、人の心には絶対はないからね」
「心配してくれてありがとう。グレウスがグレウスな限り大丈夫だよ。こんなに可愛いのに嫌がるわけがないからね。
むしろグレウスが居なくなったら寂しいよ?」
『主ぃ…』
「それでね。グレウスがセナさんの役に立ちたいって強く思ったから私が加護を与えてはいるんだけど、ヴァインタミアとして育ったからエキュルスタミアとしての能力は眠ったままなんだよ。色々調べて覚醒させる事ができるようになったから、覚醒するかどうか選んでもらおうかと思って」
「うーん。私はこのままのグレウスでもいいんだけど……グレウスはどうしたい?」
『ボクは……』
「ねぇ、ガイ兄。その覚醒したらグレウスに何か影響はあるの?」
「その辺はわからないのが正直なところかな。本来なら成長過程で目覚めるのを私達が強制的に目覚めさせるからね。
覚醒したら今までより魔力が上がり、制御も上手くできるようにはなると思うけど、いきなりものすごく強くなったりはしないと思うよ。
ただ、努力次第では今より確実に強くなれるだろうね」
「そっか。今のままでも充分だけど、グレウスはどうしたい?グレウスが決めていいよ」
『主はボクがもし変わったら嫌いになりますか?』
「ふふっ。そんなことないよ。悪いことしたら怒るけど、変わらず大好きだよ」
『なら……覚醒して貰いたいですっ』
「いいんだね?」
ガイ兄が真剣な顔になり再度グレウスに確認した。
『はい!』
「わかった。じゃあちょっと移動しようか」
全員が立ち上がった事を確認してから、ガイ兄がパチンと指を鳴らすと、来たことのない森の広場に移動した。
「じゃあ、この辺りにグレウスはいてね。覚醒させるからセナさんは少し離れていてもらえるかな?」
「はーい」
私がイグ姐とアクエスパパと一緒に離れると、ガイ兄とエアリルパパが並んで呪文を唱え始めた。
するとグレウスの足元に徐々に魔法陣が浮かび上がり光り始める。
『ぐぅっ!』
グレウスが苦しがっている声が聞こえて駆け寄ろうとすると、腕を掴まれアクエスパパに止められた。
「なんで!?」
「今はダメだ」
「離して!こんな苦しそうなの聞いてない!」
「グレウスは覚悟していた。見守ってやれ」
アクエスパパに抱っこでホールドされてしまう。
私達が騒いでいる間もグレウスが苦しがっている声が聞こえる。
「ヤダヤダ!」
『ウォォォォォォォォ!』
アクエスパパの腕の中で暴れていると、グレウスの声とは思えないほど大きくしゃがれた雄叫びが聞こえた。
「え!?グレウス?」
暴れるのを忘れグレウスを見つめると、グレウスの瞳が赤くなったり黒くなったりしている。
「今はエキュルスタミアの本能と戦っている最中だな」
アクエスパパがガッチリとホールドしながら説明してくれた。
「本能?」
「ガイアが元々は獰猛だと言っていただろう?」
「言ってたけど…もしかして力の強さしか話さなかったのってこうなるって分かってたから?」
「話したらセナは嫌がっただろ?だが、グレウスはセナのために強くなりたがっていたからな。ガイアはグレウスのために覚醒の方法を調べていたんだ。ガイアを責めないでやってくれ」
「分かった……」
アクエスパパの服を握りしめながら見守っているとグレウスは落ち着いてきているように見える。
『ウォォォォォォォォ!』
治まったかなと思ったらグレウスが再び雄叫びをあげた。
「くっ。ちょっと厳しいね」
ガイ兄を見てみると顔色悪く汗が流れていて、隣りのエアリルパパも何かに耐えているように見える。
「ちょっと!どうなってるの!?」
アクエスパパの服をグイグイ引っ張って聞く。
「恐らくエキュルスタミアの本能が勝ちつつある」
「グレウス!」
暴れなくなり段々と緩んできたアクエスパパの腕からするりと飛び降りてグレウスに駆け寄る。
「おいっ!セナ!」
アクエスパパが呼ぶけどそれどころじゃない。
魔法陣には結界が張ってあって入れなかった。
恐らくエアリルパパとガイ兄が張っているんだろう見えない壁に阻まれた。
「グレウス~」
魔法陣のすぐ側にしゃがみ、なるべく優しく聞こえるようにグレウスに話しかける。
『ヴヴゥ…』
「グレウス~。帰ったらパンケーキとプリンどっちがいい?」
『うぅ…』
「グレウス。……おいで」
私が呼ぶと魔法陣と結界が弾け、グレウスが駆け寄ってきたのを抱きしめる。
『主ぃ!』
「大丈夫?もう苦しくない?」
『主ぃ…うぅ…』
「ふぅ。さすがセナさんだね。助かったよ」
疲れた顔でガイ兄に言われた。
「どうなったの?」
「グレウスのエキュルスタミアとしての血の濃さが僕達の想像を超えていたんです。血が濃いと言うのはセナさんの世界で言う物を示す事もありますが、今回は違います。
そうですね…先程ガイアが説明した“黒い災厄”に近い物を持っていたと言えば良いでしょうか?」
疲れているガイ兄の代わりにエアリルパパが説明してくれた。
「あぁー。なんとなく言いたい事が分かった」
グレウスは疲れたらしく、すぐに寝てしまったのでポケットに入れてあげる。
「僕達が抑えていたせいで暴れられなかった事もありますが……突然目覚めた本能の破壊衝動と困惑でグレウスの理性でも抑えられないところでした。セナさんがグレウスを呼んだ事で一気に冷静になり衝動も収まったようですね」
「もうグレウスは大丈夫なの?」
「うん。ちゃんと覚醒もしているはずだよ」
ガイ兄が答えてくれた。
「良かった……でも!こういうことになるなら事前に言って欲しかった!」
「ごめんね。言ったら引き止めると思ったからね。それにちゃんとグレウスには確認したでしょう?」
「そうだけど!心の準備が必要でしょ!」
言いながらガイ兄に近付いて痛くない程度に足の太ももにグーパンチすると同時に、疲れているガイ兄達にヒールをかけてあげる。
「痛っくない。ふふっ。ヒールをかけてくれたんだね。ありがとう」
プンプンと怒っている私の頭を撫でながらお礼を言う。
「ありがとうございます。セナさんのヒールは癒されますね」
「もう!今度からちゃんと説明してよね!」
プンプンと怒り続ける私にガイ兄が頭を撫で続ける。
「善処するよ」
「グレウスの覚醒が終わったのでいつもの部屋に戻りましょうか?」
エアリルパパが言うとパチンと指を鳴らしていつものソファのある部屋に戻ってきた。
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