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5章
大捕物【1】
しおりを挟む一昨日の夜ウェヌスに聞いた理由がショックで、昨日の夜ウェヌスに明日あいつらが動き出しそうだと言われるまで丸一日どうやって過ごしたのか覚えていない。
ショックで頭の中でグルグルと考えていたけど、動き出すと聞いて怒りに変わった。
闇の子の報告では、今日のお昼以降にネライおばあちゃんのお店にくるらしい。
白昼堂々なんて目立つのに……後悔させてやる!
午前中はブラン団長達に報告したり、騎士団の配置を考えたりとバタバタと過ごした。
お昼ご飯を済ませたらジルベルト君にはお留守番を頼み、ネライおばあちゃんのお店に向かった。
「こんにちは!」
「おや。セナちゃん。こんにちは。昨日二着とも完成したから、今日商業ギルドに預けにいこうと思っていたんだよ」
「わぁ! ありがとう!」
早速グレンに試着してもらうとこちらも素晴らしい出来だった。やはり軍服は堪らない!
細かいところを直してもらうことになり、明日また来て欲しいと言われた。
もちろん了承するけど、私はまだ帰るつもりはない。
「ねぇ、ネライおばあちゃん。私はやっぱりネライおばあちゃんにお店を続けて欲しいよ」
「ありがとうねぇ。そう言ってもらえると嬉しいんだけど、こればっかりは無理なのさ。どうしようもないんだよ」
「お孫さんの借金のせい?」
「知っていたんだねぇ……」
おばあちゃんは力無く笑う。
「ごめんね。どうしても気になって商業ギルドのサルースさんに協力をお願いしたの」
「なるほど。サルースが知ってたのはそういうことだったんだねぇ。サルースにも話したけど、ウチには返せるお金はないんだよ。元々色を作るための魔物が中々手に入らなくて閉めようかと旦那と話していてね……セナちゃんからブラックマンティスを譲ってもらえたからもう少し続けようかと話し合った矢先だからね。きっと潮時なのさ」
「お孫さんはどんな子だったの?」
「あの子は……アンジェリッタは優しい子で、この店をよく手伝ってくれていたよ。店を継ぐんだと言ってくれていたんだけどねぇ……あんなことになっちゃうなんてねぇ」
「この問題が片付いたら、おばあちゃんはお店続けてくれる?」
「そうさねぇ……セナちゃんが望む服は作ってあげたいねぇ」
――――バン!!
「おう! 客がいるじゃねぇか! 今日こそ払ってもらおうか!」
おばあちゃんと話しているとガラの悪い男が入って来た。
「毎回言ってるけど、ウチには返せるお金はないんだよ」
おばあちゃんはそんな男にも冷静に返す。
「客がいんなら金はあるだろ!」
「ねぇ、お兄さん」
おばあちゃんに詰め寄ろうとしたので、間に入って通せんぼ。念話でグレンにおばあちゃんをお願いしておく。
「セ、セナちゃん!」
おばあちゃんに焦った声で呼ばれたので安心させるように笑顔で「大丈夫だよ」と言っておく。
「ぁんだぁ? このガキ」
「ねぇ、お兄さん。どういうこと?」
「このばあさんの孫が借金したから金返せって言ってるんだよ」
「借用書は?」
「ぁん?」
「まさか書類がないのに言ってるの?」
「なんでてめぇに言われなきゃならねんだ!」
私の首元を掴んで持ち上げられた。
「借用書見せてよ。借用書がちゃんとしてたら私が払ってあげるよ」
言いながら、男にだけ見えるように大金貨をチラつかせる。
白金貨や白銀貨じゃ見たことないかもしれないから大金貨にしておいた。
「セナちゃん!」
おばあちゃんの悲鳴のような声が聞こえる。申し訳ないけど今はスルーだ。
「言ったな? 待ってろ! 持ってきてやる」
男は乱暴に私を落としてお店を出て行った。
「セナちゃん! 大丈夫かい!?」
おばあちゃんが駆け寄って立ち上がるのを手伝ってくれた。
「大丈夫。おばあちゃん。ごめんね。ごめんなさい」
しゃがんだままのおばあちゃんに頭を下げる。
「どうしたんだい? ウチの問題に巻き込んでごめんよ。なんとかするから早く逃げておくれ」
「ううん。違うの。巻き込んだのは私なの。ごめんなさい。おばあちゃん達は守るから私に任せて」
「え?どういうことだい?」
「おばあちゃんはこのお店から出ちゃダメだよ?」
おばあちゃんに抱きついて、作った魔道具のネックレスを付けさせてもらった。
「こ、これは?」
「おばあちゃんのお守り。待っててね」
理解が追いついていないおばあちゃんを残して、グレンも一緒にお店の前に移動して先程の男を待つ。
男は走って戻って来た。
「ハァハァ。これが借用書だ!」
どうだ!と私に見せてくる。
「お兄さん。見えないよ。身長考えて」
「ん?そうか。すまん」
お兄さんは素直に私に渡してくれた。
(このお兄さんは意外にいい人なのかもしれない)
急いで借用書を確認すると内容は同じだった。やはり金額も期日も書いていない。
そして……見付けた! さっき偶然にも聞いていて良かった。
見付けたことに安堵しながらお兄さんに話しかける。
「ねぇ、お兄さん。これは無効だよ」
「ぁんだと!? てめぇふざんじゃねぇぞ!」
「だって金額が書いてないもん。これならお兄さんが嘘付いていてもわからないよ」
「ちゃんとサインしてあんじゃねぇか!」
「これサインも無効だよ」
「てめぇぇぇ! ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ!」
「ふざけてないよ。お兄さんは命令されて回収してるんだよね? お兄さんの上司はとってもおバカさんだよ。もし本当にお金を貸してたら騙されたんだね」
「ぁん? どういうことだ?」
お兄さんは理解できないと首を捻っている。
「お兄さん。こういう書類ってすごく大事なんだよ。普通ならちゃんと管理してなきゃダメなの」
「んんん? 俺にもわかるように説明してくれ」
「仮にさ、この借用書が燃やされちゃったり、破られちゃったり、水に濡れちゃったらどうなると思う?」
「燃えたらなくなるな。破れたら風で飛んでくだろ? 水に濡れたら……サインが滲むな」
「お兄さんすごーい! 大正解!」
「へへっ。そうか」
「だからね、この借用書に保護魔法もかけないで、そのままにしてるお兄さんの上司はおバカさんなんだよ」
お兄さんの声が大きくて、私の想像以上に野次馬が集まってきてしまった。
これ以上集まって、さらに注目を浴びたくはない。さっさとケリを付けたいところだ。
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