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5章

信者の説得

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朝ごはんまでを済ませてジルベルト君とティータイム。
美味しい紅茶が飲みたくてお願いしてしまった。

「うん。やっぱりジルベルト君が淹れてくれた紅茶は美味しいねー」
「ありがとうございます。セナ様に褒めて頂けることが至上の喜びです」

最初の無表情の能面はどこへやら、ニッコリと答えてくれた。

「えーっと。うん。それは良かった」
(昨日より大げさな表現になってるー! 笑顔になれるようになったのはいいことだけど、これはまずい。とってもまずい。信者じゃなくて狂信者化してる! なんとかしなければ!)
「ねぇ。ジルベルト君。これから一緒に行動するにあたってお願いがあるんだけど」
「何なりとお申し付け下さい」
「……あのね、普通にして欲しいの」
「普通ですか?」

首を傾げながら聞き返された。

「うん。普通にお友達みたいに接して欲しいの」
「お友達……セナ様、申し訳ございません。僕にはお友達が良くわかりません」

不思議そうな顔をしながら首を傾げられた。

(なんだって!?……あぁ、そうか……ずっと命令されて育ってきたからか……)
「そっか……じゃあ私が初めてのお友達だね!」
「お友達とはどういったものなんでしょうか?」
(え……なんて説明すればいいの!? そもそも連絡不精過ぎて私自体も友達少ないわ!って言うか、私もこの世界で友達らしい友達いないじゃん! みんな保護者じゃん! くちベタな私にお友達の説明は難しいぞ!)
「えっと……対等な立場で気軽に接せられる人? 悩みを一緒に考えたり、面白い事は一緒に笑ったり、ダメなところは注意しあえたりできる人かな?」
「セナ様にお仕えしたいのですが、それではダメなのでしょうか?」

私を窺うように見てくるジルベルト君。

「まずそれなんだけど……私はジルベルト君をこき使ったり命令したりするつもりは無いのね。クラオルやグレンみたいに仲良くしたいの。無理に役に立とうとしなくていいんだよ?」
「え……今はお役に立てないかもしれませんが、強くなって盾くらいにはなれる様に致します! お役に立てるように頑張りますのでどうか……」
「えっと……すごい誤解されてる気がする。とりあえずジルベルト君は一緒に行くから安心して。道中危なさ過ぎたら連れてはいけないけど……これは昨日も話して納得してくれたんだよね?」
「はい」
「うんとね。私はもっと気軽に接して欲しいの。そもそもジルベルト君の方が年上だし、そんなかしこまらなくて良いんだよ」
「僕はセナ様に助けていただいた身です……」
「それは私の自己満足だから、気にしなくていいんだよ。ジルベルト君には自由を満喫して欲しいし、自分の好きなように生きて欲しいの」
「はい。僕はセナ様にお仕えしたいです」
(おっとぉ?振り出しに戻ったぞー)
「わかった。私は平民だから、うやまわれたりおがまれたりは慣れていないし、好きじゃないの。偉そうな貴族は嫌いだから私自身偉ぶるつもりはない。だからもっと気軽に接して欲しいな?」
「気軽に……」
「うん。敬語じゃなくていいし、“様”なんか付けないで呼び捨てでいい。役に立ちたいって肩にチカラを入れないで、ジルベルト君が自然体でいてくれる方がいいの。手伝ってもらいたいこととかは命令じゃなくてお願い。やりたくなければやらなくてもいいんだよ。やるかやらないかはジルベルト君自身が決めて欲しいの」
「かしこまりました」
「わかってもらえた?」
「はい。セナ様を注目させてしまいますので、注目させるような行為はしないように致します。しかし、セナ様はセナ様ですので言葉遣いや“様”を付けることはお許しください」
「うーん。とりあえず納得してくれたみたいだからいいかな? もう土下座とかしないでね?」
「かしこまりました」

なんとかやっていけそうでホッと息を吐く。

《そもそもセナの嫌がることをしたら嫌われて連れて行けないだろ》

グレンが呆れ顔で言い放った。

「!」

ジルベルト君は驚いて顔の血色がサァッと悪くなった。

(しまった!って顔してる……まとめられそうだったから今言わないでもらいたかったけど、一理あるんだよね。あのままのジルベルト君だと、一緒にいる私はすごい偉い人物だと思われそうだもん)
「普通に気軽に接してくれたら大丈夫だよ」

顔色を悪くさせているジルベルト君に安心させるようにフォローしておいた。
また気にし過ぎて女神扱いされたら困る。


「そうそう。色々終わったら教会に行こうね。あと、私達と一緒に来るなら冒険者登録もしないとね」
「かしこまりました」
「ジルベルト君の服は王太子が準備してくれるって話だったけど、どうなったんだろうね? 後で聞いてみないと。それに落ち着いたら冒険に必要な物を色々買いに行かないとね」
「申し訳ありません……」
「ん? なんで謝るの?」
「セナ様のお役に立ちたいのにご迷惑を……」

ショボーンとしながらジルベルト君が言う。

「気にしなくて大丈夫だよ。討伐報酬で潤ってるし!」
「申し訳ございません」
「うーん。じゃあ、そのかわりに美味しい紅茶淹れてくれる?」
「そんなことでよろしいのですか?」
「うん。ジルベルト君の紅茶は美味しいからね」

私が笑顔で言うとホッとした様子のジルベルト君。
(ずっと役立たずって言われて生きてきたから役に立てるって事が第1基準なのかな? パパ達に会って、自信持てたらいいなぁ。そしたら洗脳がけて目が覚めてくれるかも!)

「さて、そろそろジルベルト君の髪の毛を……ってシザーがない! レザーは短剣で何とかなりそう? いや。ちょんぎっちゃいそうだな……セニングシザーかシザーが欲しい……ないから、ちっちゃい風魔法でなんとかしよう!」
「シザーですか?」

ジルベルト君の言葉にみんな揃って首を傾げている。

(みんな揃ってコテンって首を傾げるとか可愛い!)
「シザーは髪を切るハサミのことだよ。レザーは髪の毛を整えるカミソリのことね」

とりあえず広めのスペースがあるところにダイニングのイスを移動して座ってもらう。
同じダイニングのイスを運んで上に立って、動かないでねと注意してから風魔法でカットしていく。

風魔法イメージ次第ででき助かった。
制御がだいぶ大変で神経使うけど、思ってたよりもいい感じにカットできている。

「ふぅ。こんな感じでどうかな? 一応ジルベルト君に似合うと思う髪型にしたんだけど」
《セナは器用だな》

グレンに感心したように言われた。

「どこか気になるところとかある?」
「いえ。頭が軽くなりました。整えていただきありがとうございます」

ジルベルト君は笑顔で答えてくれた。

「大丈夫なら良かった!」

切った髪の毛を風魔法で集めて、全てまとめて無限収納インベントリに入れる。


「よし! じゃあそろそろお昼ご飯にしよう!」

イスをダイニングに戻して朝作っておいたホットドッグをみんなに渡す。
ケチャップがないのでホールトマトでトマトソースを作った。
おそらくホットドッグだけでは足りないと思ったので具沢山スープもジルベルト君に渡す。

精霊達のお昼は魔力水。
精霊達に我慢をさせているので早く紹介してあげたいんだけど、精霊達は神達に会わせてからじゃないと嫌らしい。
こだわりみたいなのがあるんだろうか?


食べ終わったら謁見までは暇なのでまたジルベルト君に紅茶を淹れてもらい、部屋でゆっくり過ごす。






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