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5章

精霊の国【4】

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クラオルとグレウスをモフモフして時間を潰しているとウェヌスが戻ってきた。

《お待たせ致しました…》

戻って来たウェヌスを見てビックリする。
髪はボサボサで服は所々破れていてとても疲れた様子。
(さっきまでの爽やかさどこいった!?)

「えぇ!?ウェヌス大丈夫!?」

《はい。大丈夫です》
ウェヌスが何か呟くとキラキラと光の粒子が集まり、服まで元通りのウェヌスになった。

「本当に大丈夫?」
ソファに座ったウェヌスに聞く。

《はい。ご心配して頂きありがとうございます。お待たせしてしまって申し訳ありません》

「待つのは全然良いんだけど、お仕事の邪魔になるなら帰るよ?」

《いえいえ!先程の騒動はセナ様のパンが美味しいと精霊が詰め掛けて来たのですが、とりあえず落ち着きましたので》

(えぇ!?原因って私!?)
「ご、ごめん…」

《やっぱり!セナちゃんのパンの美味しさにやられたのね!それを全て納得させる方法があるわ!》

《それはぜひ聞きたいですね》

《セナちゃんはこっちの物をパンと交換出来たら嬉しい?》

「そうだね。精霊の国は基本お金使わないんでしょ?パンで交換してくれるなら嬉しいよ」

《ふふふ…それ聞いて安心したわ!》
プルトンが怪しげに笑い始める。

《プルトン。怪しすぎるぞ》
エルミスがジト目でプルトンに言う。

《失礼ね!まぁ、いいわ。まずウェヌス!風の精霊を世界に飛ばすのよ!》
ビシッとウェヌスを指差しながら命令する。

《風の精霊をですか?》

《そうよ!それでね…》
プルトンが説明を始める。


・酸っぱい液体を風の精霊を使って世界中を探させる。
ふしの木を精霊に削らせる。
・レンコンと長芋とバジルを育てて量産させる。
・何か情報があったら私に言う。

これら全ての報酬として私が精霊の国に来たらパンと交換する。


プルトンがテンション高く説明し終える。
(つまり仕事の報酬として私のパンを渡すって事ね)


《それはとても魅力的な案ですね。そうすればこの騒ぎも落ち着きましょう》

〈むっ。それだとわれの仕事が無くなる〉

《グレンはもうセナちゃんと契約してるじゃない》

〈(撫でて貰えなくなるじゃないか…)〉
グレンが小声で呟いたけど隣りに座っている私にはバッチリ聞こえてしまった。

(そんなに撫でられるの気に入ったのね…子犬だわー)
思わず笑ってしまう。

「ふふっ。じゃあグレンには違う事頼もうかな?」

〈本当か?〉

「うん。グレンは力仕事も大丈夫でしょ?」

〈任せろ!〉

「ふふっ。手伝って欲しい時に言うからお願いね」

〈分かった〉

《さすがセナちゃんね。セナちゃんが欲しい物がある時に精霊の国に来てパンと交換すれば全部解決よ!》

ふしの木削って貰えるのは嬉しいけど、道具とかどうするの?」

《ちょっと借りられれば直ぐに作れるわ!ただ、削り方とか分からないから1回教えて貰わないとダメだけどね》

「削るのはグレンが上手だよ。職人みたいだから」

《あら!じゃあ早速行ってくるわ!セナちゃん道具貸してちょうだい!》

「はい。これだよ」
削り器をプルトンに渡す。

《ありがとう!グレン、エルミス行くわよ!セナちゃんはウェヌスとゆっくりしててね》
言うなり直ぐに部屋から出て行ってしまった。


《こちらの事情に巻き込んでしまい申し訳ありません》

「へ?むしろ私のせいだよね?」

《いえ。元々自由を好む精霊はあまり働いたりしないのです。望めばなんでも貰えると思っているか、特に何も思わずに自由気ままに過ごしています。
しかし、今回セナ様のおかげで仕事の対価として美味しいパンが与えられる事になりました。働いたり役に立つ事に生きがいを持つ者も現れるでしょう。
好奇心のみで人里に行き、捕まえられ羽をむしられたり、利用されたり、殺されたりする精霊を減らせると思います》

(うわぁ…エルミスに冗談で羽をむしるって言ったけど、本当にある話だったのか…そして欲深さがエグい)

「完全に私のための仕事内容だから申し訳ないくらいだよ」

《先程のセナ様のパンが貰えるなら喜んで働き始めると思いますので、セナ様はお気になさらないで下さい》

「ありがとう」

《そうそう。セナ様にこちらを受け取っていただきたいのです》
ウェヌスが何か渡して来たので手を伸ばして受け取る。

「指輪?」
手を開いて見てみると指輪だった。

《そちら今は指輪の形状ですが、望むアクセサリーの形に変える事が出来ますのでご安心下さい》

「これは?」

《私や精霊の国と繋がっている魔道具の様な物です。私もずっと行動を共にしたいのですが、どうしても仕事をしなければいけない時に精霊の国に戻ります。私がいない間に移動してもそちらを身につけていただいていれば、呼ばれずともすぐにセナ様の傍に行けるのです。例えダンジョンや、強固な結界等で守られている場所であっても。
もう1つ、そちらを持っていればどんな場所からでも精霊の国に来る事も出来るのです》

「便利だねー。ありがとう!」

《はい。受け取っていただけて嬉しいです》
ウェヌスがニコニコしながら言う。

「どこに付けようかなー。ネックレスは冒険者ギルドのやつがあるし、ブレスレットは多分邪魔になる…穴開けてピアスか指輪かなぁ?」

『そう言えば、ネックレスのチェーン替えたいって言ってなかった?』
クラオルが聞いてくる。

「言ってた。忘れてた」

《どのような物に替える予定だったのですか?》

「革紐みたいに軽くて肌触りが優しい感じのにしたかったの」

《なるほど。かしこまりました》

何がかしこまりましたなのか分からずブツブツと何かを呟くウェヌスに首を傾げる。

《直ぐに来れるそうです》
ニッコリ笑顔のウェヌスに再度首を傾げる。

《来たようですね。どうぞ》

(え!?もう来たの!?1分くらいしか経ってないよ!?)

《失礼致します》
入って来たのは身長は私と変わらないくらいで、頭頂部がツルツルなのに両サイドがふさふさで、某有名な10万馬力の科学の子のアニメに出てきた駅名の博士ヘアーのおじいちゃん。
唯一違うのはサイドはふさふさなのに後ろはツルツルな所。
しかも白衣みたいな服を着ている。

《こちらチャノミーです》
ウェヌスが紹介してくれた。

(すごい。天然でこの髪型とか…名前もまさにだし、あだ名は博士と呼ばせて貰おう)

「セナです。よろしくお願いします」

《チャノミーです。こちらこそよろしくお願い致します。ご要望のお品をお持ち致しました》
博士が見せてくれたのはキレイな糸だった。

「糸?」

《こちらミスリルカイーコの糸となっております。とても軽く、頑丈でそうそう切れたりしません》
博士が説明してくれる。


(ミスリルは神銀ミスリルで分かるけど。カイーコ?カイコ…って蚕か!絹糸の神銀ミスリルバージョンって事ね!確かカイーコは魔物の本に載ってたな。えーっと……攻撃手段を持たないから狩られていて珍しいんだっけ)

「へぇー!」

《こちら色を変えられますので、お好きなお色をおっしゃって下さい》

「そのままでもキレイだよね。白がキラキラ輝いててゲレンデとかの白銀の世界の色みたい」

《気に入っていただけて何よりでございます》

「うん。そのままにする!」

《かしこまりました。精霊帝せいれいていよりネックレスとお聞きしましたので自動サイズ調整や軽量化など役に立つと思われる付与をほどこしてあります》

「わぁー!ありがとう!早速付けても良い?」

《もちろんでございます》

クラオルとグレウスに手伝ってもらい、ウェヌスの指輪にも糸を通して2連チェーンみたいになった。糸だけど。
軽い。ギルドのドッグタグもウェヌスの指輪の重さも軽減してくれるらしく、とても軽くて付けていないみたい。

「これのお礼はどうすればいいかな?」
博士に聞くとパンと答えられた。

本当に報酬はパンとなったらしい。
聞くと、ミスリルカイーコは精霊の国で偶然死にかけている所を発見されたらしく博士達が保護して育てているらしい。

〔ゴシュ…サマ…コノイト…ッパイ…シイデ…〕
ポラルが興味津々に糸を見ながら言う。

(ご主人様、この糸いっぱい欲しいです。って事かな?)

「この糸いっぱい貰えたりしますか?パンはあります!」
ポラルを撫でながら博士に聞く。

《今すぐには無理ですが、ただいま数を増やそうとしております。そしてカイーコに頼んでおきますので次回でしたら渡せるかと思います》

「ありがとうございます!ポラル。良かったね」
〔ハイ!〕

《いえいえ。セナ様のお役に立て、先程のパンがいただけるなら嬉しい限りでございます》

「今回のこの糸のお礼がいるよね。何人でお世話しているの?」

《今は3人でございます》

「そっか!いっぱい欲しいし、3人なら1人1つでも大丈夫かな?」

《先程のパンが1人1つ貰えるのですか!?》
博士が前のめりになって聞いてくる。

「え…うん。そんなにいらない?」

《とんでもない!我々は嬉しいですが、セナ様は宜しいのですか?》

「3個くらい大丈夫だよ。これから頑張って貰いたいからジャムパンとかどうかな?」


黙って見守っていたウェヌスまで博士と一緒に反応する。

「そうジャムパン。さっきのとちょっと違うやつで、中にジャムが入ってるの」

《初めて聞きましたが、先程のパンも美味びみでしたのでぜひお願い致します》
博士が頭を下げる。

「気に入って貰えると嬉しいな!…はい!ジャムパン3個ね。なるべく早く食べ切ってね。傷んじゃうから。
あとミスリルカイーコって事は神銀ミスリル食べるんだよね?これカイーコに頑張ってって事で渡して貰える?」
麻袋にジャムパン3個と以前ネックレスを作る際に抽出した神銀ミスリル100%の直径5センチ程の塊を渡す。

《こ…これは!とても喜ぶと思います!セナ様はこの様な物もお持ちなのですね!》
鼻息荒く興奮状態になってしまった。

博士の身振り手振りが大きくなるとサイドのフサフサの髪の毛がフワンフワン揺れるのが凄く気になる。

「魔道具作った残りだから少なくてごめんね」

《とんでもない!大変素晴らしいです!では、早速カイーコに渡しに行きたいと思います》

「うん!来てくれてありがとう!よろしくね」

《こちらこそありがとうございます》
博士がピッチリ頭を下げて執務室から出て行った。



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