上 下
56 / 60
連載

第91話

しおりを挟む
鬼蛇穴組きさらぎぐみとは同盟関係で、D.U.S.Tダストからは新人を引き抜いて実質的な宣戦布告した大型新星ニュービーことサクたんね……。うふふっ」

 薄暗い部屋で数多のモニターからブルーライトが照射される中、とある女性が一つのモニターを見つめている。
 そこには、試験終了後にログアウトができずに困惑する咲太が映し出されていた。

地下空洞世界アンダーワールドの四天王の半分と関わりを持っているなら、ワタシたちもしなくちゃいけないよねぇ……」

 その女性がモニターに触れると、指先からみるみる粒子化してゆき、画面に吸い込まれていく。
 意識だけを電脳世界に入れるのではなく、体さえも入り込ませていたのだ。幻獣の電子鰻と同等の能力を行使していた彼女の正体は……。

「四天王が一柱――〝超電脳狂詩曲スーパーサイバーラプソディー〟がね……!!」

 ――ジジジジッ!

 そして、この場から姿を消し、完全に電脳世界へと入り込んだ……。


 # # #


 ログアウトができなくなってから数分後。
 駆動さんからの連絡なども途絶えてしまい、明らかな異常事態ということでうなぴにも動いてもらっている。
 だが、うなぴでさえここまで時間がかかっているということは、ただのバクなどではないかもしれない。

 そう考えた瞬間だった。

 ――ジ、ジジ……ジジジジッ!!

「ん?」

 足元が粒子化してゆき、どこかへ転送されそうになっている。なるようになれと抵抗も何もせず、僕の体は完全に粒子化してどこかへ転送される。
 そして、ゆっくりと目蓋を開けるとそこは別の世界だった。

「おぉ! 異世界転生ってこんな感じなのかなぁ!!」

 文明が微塵も感じられない大自然。屋久島の大杉くらいのサイズの木がそこら中に生えており、その葉の隙間にある空には月が三つ見えた。
 ぼーっと空を眺めていると、茂みの奥から何かが近づいてきている物音がする。ガサッと音を立てて僕の前に何かは現れたのだが、それは見知った顔だった。

「……あれ。さ、さくた……?」
「ルハ! 僕一人だと思ったから安心したよ~~!!」
「さくたっ!!」

 警戒しながら出てきたルハだったが、僕だとわかった瞬間に太い尻尾をゆらゆらと揺らしながら抱きついてくる。

「ルハ、なんでこんなところに飛ばされたか原因わかる?」
「わたしもわからない。探索者になるための試験で、仮想現実内で魔物討伐し終わったらここに飛ばされた」
「僕と同じような感じかぁ……」

 この場所に移動してからというもの、うなぴからの連絡が一切なくなっていた。さらに、〝鍵〟もこの場では使えなくなっているし、不安が募るばかりだ。
 とりあえず移動しようかと思い、ルハに言葉をかけようとしたところ、口を押さえられる。

「……わからないなら聞けばいいと思う。あからさまに知ってそうなやつに……ねっ!!」

 ――ヒュンッ!!

 ルハは目にも留まらぬ速さで懐から数本のクナイを取り出し、虚空に向かってそれを放った。
 クナイは通り過ぎて木に刺さる……ということはなく、何もない空間に弾かれて地面に落ちる。

「気配消すの下手くそすぎ。さっさと出てきたら?」
「――……気づくのが早いわね」

 空間が揺れたかと思えば、何もなかったはずの場所から人が現れた。
 サイバーパンク風な服を着てフードを被り、ヘッドホンを首にかけている灰色の髪と翡翠色の目を持つ女性だ。

「よりにもよってコイツか……!!」
「ルハ知り合いなの?」
「知り合いではないけど……有名なやつ。地下空洞世界アンダーワールドで秀でて強い四つの組織の内の一つに、超電脳狂詩曲スーパーサイバーラプソディーっていうのがある。それで、アイツはそのボス――〝彩芭さいばラプソディー〟」

 サイバー……つまりは電脳系で活躍している組織なのだろうか。それならばうなぴが苦戦しているのも納得できる。
 ルハは刀を抜いて臨戦態勢で、一触即発の状態だ。

「ふふっ、そう警戒しないでちょうだい?」
「何が目的。わたしたちを現実世界へ戻せ」
「ワタシはあなた……サクたんに挨拶しにきたのよ。どうせならってことで、この〝空論の迷宮ダンジョン〟に連れてきたってわけ」
「空論の迷宮ダンジョン……?」

 確か、この世界で物理的に進入不可なダンジョンがそう呼ばれているとかだったっけ。
 物理的には入れないなら精神だけ入れる……という力技で僕たちをここに招いたのだろうか。

「あなたたちはこのダンジョンをクリアしなければ、現実世界で死ぬことになるわよ?」
「お前……!!」
「それじゃ、ワタシは先に戻ってあなたたちを観察させてもらうわね」

 怒りを露わにするルハに対して、ひらひらと手を振ってこの場を立ち去ろうとする。腕を組み、このダンジョンから一足先に脱出する……ことはなく、ただ突っ立っているだけだった。
 よく見るとダラダラと汗をかいていて、バタフライ並みに目が泳いでいる。震えている手でスマホを取り出し、助けを求めはじめた。

「あ、もしもし? なんか出れなくなったのだけれど……。え、スケルツォ君が転送装置ぶっ壊した!? じゃあワタシは……『クリアして脱出しろ』? ちょ、助けに来るとかそういうのないの!? ワタシ一応ボスよね!!? ちょ」

 ツーッツーッという音だけがスマホから発せられており、虚しさが感じられる。
 彼女は少しうつむきながらこちらに近ずいてきて、ゆっくり姿勢を低くし、そして……。

「……さっきは調子乗ってごめんなさい。一緒に協力して欲しいです! 何だってするわ!! お願いしまぁぁす!!!」
「「えぇ……」」

 すごい組織のトップに当たる人とは思えないほどの言葉の羅列。そして何より、美術館にあっても違和感がないと思えるほど美しい土下座だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。 麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。 探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。 「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」 孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。 「これがスライムの倒し方じゃ!」 現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。 たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、 インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。 自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。 世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。 今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。