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第83話

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 一見白い大きな建物の水族館だが、ダンジョンと同化しているということで中は見かけよりも遥かに広いらしい。
 受付の人に確認をしてもらい、水族館の中に入った。一応とのことで、この水族館の館長さんにも同行してもらっている。

「水族館初めてだから楽しみだな~」

:そうなん?
:意外だね
:意外っつーか普通一回くらいは行くのでは……?
:色々あんねんな
:まぁサクたんが行ったら大混乱になりそうではあるw
:なりそうというかなるだろ

 今日一日は貸切状態なので、僕は以外の人はいない。暗い廊下を歩き続けていると、一気に視界がひらけて青い世界が広がり始めた。
 ドーム状の水槽……ではなく、。上下左右がガラス張りで、水中を歩いているような気分だ。

「お~、すごい!! お魚がすごいたくさんいるけど……なんか、ちょっと怖いかな……」

 ――ドドドドドドドド!!

 水槽を優雅に泳ぐ魚は存在せず、僕めがけて突撃しようとしてガラスにキスをしている魚しかいない状況である。
 僕がテレビ番組とかで見ていた水族館とは違う気がする……。

:ほ~れ、みたことかww
:草
:怖すぎて漏らしてマンション水没したわ
:↑テメェ災害起こす幻獣かよ
:デートスポットとは思えぬ光景だ
:足視点のドクターフィッシュかな?w
:ここってキャッチコピーが「幻想的な青き水族館ダンジョンをあなたに」だけど……
:魑魅魍魎みてぇだな!!
:こwれwはwひwどwい
:案件くれた水族館のイメージダウンさせるサクたんマジかw
:後ろで歩いてる館長さん吹き出してたワロタ
:こんなん笑うしかねぇだろ

「まぁ、サクたん君が来る時点でなんとなく予想してたけどね……」
「みんなー、嬉しい気持ちがあるのかもだけど、今日は自然体にしてて! 案件だから!」

 僕がガラス越しにそう伝えると、魚たちはそそくさと解散して優雅に泳ぎ始める。チラチラとこちらの様子を伺ってきている気がするが、まぁこれくらいは大丈夫だろう。
 こうして見てみると、多種多様な魚たちがいる。熱帯魚やサメはもちろん、普通の水族館にいるはずのないクジラなども泳いでいた。

「ダンジョンと同化することで水深の限界や広さが増してクジラも普通に泳げてるらしいわ」
「ここだけでしか見られないんですね。綺麗だな~」

:おお、案件っぽい
:一時はどうなるかと思ったなw
:冷や汗かいたぜ……
:サク民からすると案件配信はヒヤヒヤするよ
:子供の初めてのおつかいってこんな感じなのか
:俺たちはサクたんのママだった……!?
:刹那、サク民に存在しない記憶が溢れ出す

 ドーナツ型水槽にいる魚やクジラに別れを告げ、さらに水族館を進む。
 水槽が沢山ある空間で、魚や甲殻類、巨大魚にリヴァイアサンや人魚などがそこにいた。

「……ん? リヴァイアサンや人魚……?」

 思わず二度見した。そこには、大氾濫スタンピードの時に戦った魔物と酷似している生き物や、下半身が魚の人が歌って泳いでたりしていたのだ。
 他にも、日本刀みたいな刃を持つノコギリザメのようなサメや、魚のヒレのような尻尾をしている犬が泳いでいたりしている。

「そうよ。ここは動物、魔物、人間が共存してる理想郷ユートピアのような場所なの。敵対する魔物は出現しないらしいわ。誰でもサクたん君と同じように魔物と触れ合えるってことよ」
「へー! すごいダンジョンですね! 魔物のみんなもこんにちは~」
『グォオオオオ』
『~~♪』

 みんな楽しそうに水槽内を泳いでいるし、飼育員さんと楽しそうな遊んでいる姿も見れたから嫌々というわけでもなさそうだ。
 ダンジョンは生き物や土地の思いが強く反映される。ここはみんなが仲良くしてほしいという思いが反映された結果なのだろうと、先ほど館長さんに教えてもらった。

:ちなガチで行った方がいいゾ
:普通に楽しめるよね
:ってか人魚が歌うことって滅多に無い気が……
:結構貴重だよww
:さすサク!
:人魚可愛いなぁ
黒狐の幻獣解説ch:儂もサクたんと共に行きたかったんじゃがな……(´・ω・`)
:黒狐たん最近出番ないよねw
:お労しや黒狐……

 天宮城さんの解説を交えながら水族館の順路を辿って行く。水槽越しに挨拶や求愛行動をされたりするが、丁重にお断りしてして進み続けた。
 そして、僕らはとある部屋の前まで到着する。

「なんか透明な膜みたいなのがありますね? ここ通るんですか? なんか先が見えなくて怖いですね……」
「大丈夫よ。さ、行きましょ」
「え、あ、はい」

 天宮城さんは楽しそうに笑みを浮かべながら僕の手を握り、前へと引っ張ってくれた。


 # # #


 ――水族館内のスタッフルームにて。
 職員らしき人々が集い、なんらかの集会をしていた。

「よしお前ら、準備はできているな? これから……!!」

 十人ほどいる彼らはここで働く水族館の職員……というわけではなく、逃亡に成功した残り一割のシャドウファングの構成員である。

「もう俺たちのクラン、シャドウファングはおしまいだ。だが……だが、このままやられっぱなしで捕まるのなんて嫌だろう!? ならば最後くらい、一矢報いようではないかッ!!」
「「「「「おーー!!」」」」」

 腐っても上澄みだったクランだけあり、こっそりと潜入をするための魔道具なども兼ね揃えていた。
 何も失うものがなくなった彼らは無敵の人となり、後先のことを考えずに復讐心に支配されている。

「案件配信をめちゃくちゃにするぜ……!」
「俺らの拠点に襲撃してきたことも伝えられたらいいな」
「ぐっちゃぐちゃにしようよ」
「俺ぁあまみやちゃんに告白してくるわ」
「は? お前抜け駆けしようとすんなよ」

 無敵の人は何をしでかすかわからず、恐ろしいものだ。だが、本当の無敵の人をこの構成員らは知らない。
 この水族館は動物、魔物、人間の理想郷ユートピアだ。しかし、それを壊そうとする異分子が現れた場合には、排除をしようとが動き始める。この事実を、彼らは直に知ることになるだろう……。
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