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第71話

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 電車から降りた後、二人を見た僕は一旦配信を一時停止にする設定にした。
 リリーはあまりにも配信に映せないほどスプラッタな見た目をしていたし、ルハに関しては……映したら可哀相だと思ったからだ。

「お漏らししてしまうとは情けないですわ~! ワタクシのおさがりの服をあげますからこれを着てくださいまし」
「うぅぅ、うっ……あぃがと……」

 普段の言動がアレなリリーだけれど、いざという時は面倒見がいいから信頼できる。
 しばらくの間、スマホの中に移動したうなぴとしりとりしながら時間を潰していると、ルハの着替えが終わったようだ。

「えと、どんな感じ……?」
「おー! すごい似合ってるよルハ!」
「馬子にも衣装とはよく言ったものですわね」
凛理りり、嫉妬してないで素直になりなよ」
『ポ……ポポ』

 着替えた服は和風っぽいメイド服のようなもので、ルハのピンク色の髪と目に似合う桜色の模様が入っている。装備している小太刀やクナイ、巨大な手裏剣などとも似合ってるしとてもいい感じだ。
 ちなみに凛理は口ではそう言っているが、ルハの頭を撫でて愛でていた。ルハも少しは落ち着いてきたようでよかったよかった。

「ルハ、大丈夫?」
「う、うん……。心配してくれてありがと……」
「どういたしまして。よ~っし! それじゃあちょっと休憩したら配信再開しよー!」

 駅のホームにあるベンチに座りながら、僕たちは水分補給をしたりして休憩をすることに。

 休憩がてら雑談を続けていたのだが、何やら足にチクッと刺さる痛みが走った気がした。
 瞬間、自分がやらなきゃいけないことが流れ込んだ気がし、みんなにこう言い放つ。

「…………。ウオカゲ、うなぴ、ちょっとここで待ってて」
『『?』』
「どこに行きますの?」
「すぐ終わるから。みんな待ってて」

 そう言い残し、この場から立ち去る。

 ――その後、何十分と皆が待とうが、咲太が帰ってくることはなかった……。


###


「……さくた、全然帰ってこないじゃん」

 普段の言動からもかなり自由に動いている咲太だったが、明らかな異常事態なのではないかとルハは感じ取る。
 残されたウオカゲやうなぴも、ピリピリと殺気立ち始めていた。

「仏の化身と呼ばれているワタクシですらそろそろ堪忍袋の尾がキレ散らかしますわ~!」
「(どちらかと言うと暴の化身でしょ……)」
「あ? テメェ今何思いましたの?」
「ナンデモナイ」
「ドスあそばせされたくなかったら言葉に気をつけてくださいまし」
「何、ドスあそばせって」

 軽口を叩き合いながら待ち続けるが、やはり帰ってはこない。

「……もしかして、幻獣に連れ去られたとかは? さくたを好きすぎるがあまり独占したい……とか思ってたり」
「なるほど、たしかに気持ちはわかりますわね。ワタクシもマイダーリンを監禁しようとした経験はありまして」
「え、ヤバ……」

 ドン引きするルハに対して凛理はベンチから立ち上がり、配信用カメラに手をかける。

「善は急げですわ。配信をスタートさせて救いに行きましょう」
「配信事故とかになんない……?」
「幻獣の情報を落としてくれるリスナーもいると思いますの。さぁレッツゴーですわ~!」

 駅のホームから離れ、最奥へと進みながら配信をスタートさせる。

:再開きちゃ~~!
:待 っ て た
:ルハちゃんクソ可愛くなってね!?!?
:耳のひらひらと尻尾何アレ
:亜人じゃね? ダンジョン内で発見されたっつーエルフとか獣人系のやつ
:推します(迫真)
:チッ、もうビビり状態終わったか……
:ってかサクたんどこ?
:いなくなってる!?w

「単刀直入に言いますと、サクたんは迷子ですわ。多分幻獣に保護されてますの。ワタクシの推測ですが、おそらく幻獣はサクたんの独占を考えているかと」
「わたしが考えたんだけど……。まぁいーや」

:は?
:オイオイオイオイ
:幻獣はサクたんの独占をするなー!
:絶許
:動物に好かれまくる体質ってこういうデメリットもあんだねw
:これがサクたんの力ァ!!
:人の手柄を盗もうとするお嬢様草
:汚嬢様はさぁ……ww

 怒りを露わにするサク民たち。
 ズンズンと歩を進めていると、とうとうその元凶の姿が姿を現した。

 巨大な空間が広がっており、そこは寂れた廃村のような場所。その頭上に発光する巨大ながいたのだ。

:でっっっっ
:幻獣キターー!
:クラゲの幻獣ですか
:サクたんがクラゲに捕まって触手で!?!? フゥ……
:↑リリー、コイツを現行犯処刑してくれ
:だれか氏ー。解説クレメンス
:今日あまみやちゃんおらんな
:案件配信してたおw
黒狐の幻獣解説ch:幽幻海月ユウゲンクラゲ。不可侵の触手を動かし、触れた生命の思考を操る幻獣じゃ。
:九尾会の黒狐いるww

「うっ……い、いっぱい幽霊出てきてる……! 帰りたくなってきた……」
「不可侵の触手、ですか。面倒ですわねぇ。あ、サクたん居ましたわ~!」

 リリーが指差す先にサクたんがいた。
 クラゲの触手に捕まっており、もがき苦しんでいる……と言うわけではなかった。

「バナナが空から降ってくるしピーマンが撲滅してる世界だー! やったー! すご~~い!」
「…………。ありゃ簡単には戻りませんね」

 触手によって思考が操られ、サクたんにとって最高の理想郷にいると思わされている。他にも、この階層にいた魔物たちは全て幻獣に操られていた。
 やれやれと溜息を吐きながら、リリーはスカートの中からロケランとチェーンソーを取り出す。

「夕方五時からアニメのリアタイしなきゃいけないので、瞬殺しますわよ。ルハ、逃げようとすんじゃねぇですわ」
「うぇ……た、確かにさくたには恩があるけど、幽霊怖いもん……!」
「はぁ……仕方ありませんね。うなぴ、緊急事態ですので協力を」

 ブーッとスマホが震えると同時にそこから電子鰻デンシウナギのうなぴが飛び出し、ルハの額から頭に侵入した。
 うなぴが行ったのは二つ、ルハにある幽霊に対する恐怖心の払拭。そして、だ。

「気分はいかがですの?」
「……さくたを返してもらう。アイツ殺す……!!!」
「その意気ですわ~! さぁさぁ、ウオカゲも協力してくださいまし!」
『ガァア……!!』

 影の中を泳いでいた潜影鮫センエイザメのウオカゲは影をリリーに纏わせ、鮮やかでキラキラとしていた服を漆黒のドレスへと変貌させる。

「わたしも……。力を貸して、〝心鳴憑異しんめいひょうい〟――【幻蒼焔げんそうほむら】!」

 腰に携えている小太刀を鞘から抜刀し、誰かに問いかける。
 ルハの耳元にあるヒラヒラとしていた桃色の外鰓は青い炎が立ち上がり、小太刀にも炎が纏った。

:鬼カッケえええ! このまま逆らう奴ら全員ぶっ飛ばしてこーぜ!
:ダークネスお嬢様にジョブチェンジだw
:ルハちゃんこんなに成長して……
:愉快な戦闘の始まりだッ!
:サクたんは任せた

 触ることのできない触手を動かす幻獣。他にもこの階層にいた危険度が高い魔物たちの大群。
 一見多勢に無勢に見えるが、こちらは少数精鋭の高火力部隊であった。

「テメェら全員塵芥に帰して差し上げますわ~~!!」
「ターゲットを排除する……!」
『ポッ、ポ、ポポポ!!』
『『ヴ、ォ、オ゛オ゛オ゛……!!!』』

 戦いの火蓋は、切って落とされた。
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