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第67話

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「いや~、まさか家に殺し屋さんが入ってくるなんてねぇ。もぐもぐ……」

 朝食後のモーニングバナナを貪りながら、天井からおろして床にひれ伏す黒いてるてる坊主を眺める。
 ペットたちによると、昨日の夜に僕の家に侵入してきて、見事におもちゃにされていたみたいだ。

 肌が真っ白になっているし、多分虹揚羽ニジアゲハに色を吸われたんだろうなぁ。
 あと、床で壊れてる黒いダンジョン用配信カメラみたいなやつはなんなんだろう……? まーいっか!

「一旦戻してあげてー」

 ひらひらと虹色の鱗粉を舞わせてやってきた虹揚羽は、殺し屋さんの上に乗っかって羽をパタパタ動かし始める。
 すると徐々に肌の色が元どおりになり馴染め、うなり声をあげたと思うとガバッと起き上がる。

「うぅん……はっ!!?」
「お、グットモーニ~ング♪ 殺し屋さん!」
「な、あ、藍堂咲太!!? ぐぇっ!!」

 僕に気がついてすぐに距離を取ろうとしたが、手足がぐるぐる巻きに縛られていて床に倒れた。
 その拍子に深くかぶっていたフードが取れ、素顔が見える。

 淡いピンク色の髪の毛に、桃色の瞳をしている中学生くらいの可愛らしい女の子だった。けど、一つおかしな点がある。

「それって〝外鰓がいさい〟……?」

 外鰓。イモリの幼生やウーパールーパーの顔の横についているあのヒラヒラしたもの。
 女の子の耳がない代わりに、そこからそれが生えていたのだ。

「っ……。き、気味が悪いなら見るn――」
「すご~~い! それどうなってるの!? ってかよく見たら尻尾も生えてるじゃん! 可愛い~!」
「え、な、はぇ……??」

 ズイッと一気に距離を詰め、キラキラとした瞳でそれを見つめる。殺し屋の女の子は茹で蛸のように顔を真っ赤にしているが、気にせずに観察をし続けた。
 一通り観察が終えて落ち着き、話を進めることに。

「えっと、殺し屋さんなんだよね? 君の名前は?」
「殺しにきたやつに名前を聞くのはどうかと思うけど……。はぁ、生殺与奪の権は握られてるし今更か。雨波うなみルハ。殺し屋の初任務でここにきた。あんたが最初の殺害対象になるはずだった」
「殺しをしたことない殺し屋さんなんだね! カッコい~」
「殺し屋来てんのになんでそんなに高いテンションなんだ……」

 僕を殺そうとしてくる人は今までに何十人かいたけど、家の中まで入ってこれた人は今までいなかったしなー。それに、人間とウーパールーパーのハーフ(?)なのも興味があるしね。
 多分だけど、名前は雨波流葉ウーパールーパーって感じだと勝手に思ってる。

「色々気になることあるけど、なんで殺し屋をしてるの? まだ中学生くらいに見えるけど」
「見ての通り、わたしは普通の人とは違う。忌み子扱いされる始末だ。だから手段を選んでられない。生きてくために、人殺しになろうとしてた。から……。それだけ」
「大変なんだねぇ……。バナナお裾分けしてあげる」
「あ、ありがとう……?」

 反省の色無しな根っからの犯罪者さんだったら、もう少しペットたちのおもちゃになってもらおうと思ってたんだけど、どうもそういう感じではなさそうだ。
 なぜかさっきから目を合わせてもらえなくて顔が赤い気がするけど、悪い子ではないとなんとなく感じ取った。

 せっかくなら、この子には殺し屋じゃない道を選んでほしい。余計なお世話かもしれないけれど、僕もしかわからないからね。

「今回の初任務も無断で行動したし、もう殺し屋にも戻れないだろう。それに、この家ではわたしは死んだも同然。煮るなり焼くなり好きにしたらいいと思う……。なんでもしてくれていい」
「へ~~?」

 その言葉でピンと閃いた。

「実は今からちょ~っと怖いところに行くんだけど、付いてきてもらえる?」
「……その程度なら構わないけど。殺し屋をしていて、なおかつ幻獣に襲われた。もう怖いものなんてないし」

 そう自身げに言った殺し屋さん……もといルハは、後々痛い目を見ることになるとはまだ知らない……。


###


「みんな久しぶり~。サクたんです! 今日はリリーお嬢様とコラボでーす」
「気に食わないリスナーにゲロ吐かせることが良いことに最近気がつきました。ウルトラお清楚ことリリーお嬢様ですわ♪」

:っしゃキターーー!!!
:サクたんニウムを今のうちに摂取しなければ……
:もうこれがなきゃ生きていけねぇよ
:駆動ちゃんHすぎてBANから大氾濫の謹慎期間で久々に感じるゥ!!!
:リリーお嬢様もう隠す気ねェ……
:清楚のせの字もないんだが?w
:好 き な 性 癖 発 表 お 嬢 様
:お嬢様の称号サクたんに渡せよ汚嬢様
:↑あ、ゲロ吐かされる……
:一応サクたんのチャンネルだから放送事故すんなよー
:放送事故はサクたんでも毎配信してる定期w

 ルハを連れて、僕らはリリーとのコラボ配信をスタートさせた。
 作戦の一つである幻獣の確保と、色々とリスナーさんたちに説明するために二人まとめて言っちゃおー! ということでコラボ配信になった。

「なんか僕のことで色々話題になってるみたいですけど、ぜ~ったいやってません! あとあんま気にしてないので心配しなくて大丈夫ぶいです!」

:本人の口から聞けてよかったお
:人気者になると大変だねぇw
:誤解……消滅……アリーナ……
:サクたんが許してんなら許そうか
:小便と神様へのお祈り済ませて部屋のスミでガタガタ震えて命乞いする心に準備してもらおう
:あ~^サクたんの笑顔で浄化されりゅ……

 ここでリスナーさんたちがめちゃくちゃ暴れまわったらどうしようかと考えていたけれど、そんな必要はなかったみたいだ。
 僕に次いでリリーも前の配信事故について話し始めたけれど……。

「ウォーミングアップが終わった、ということですの。本当のワタクシがここからスタートするということなのでよろしくお願いいたしますわっ♪」

 もう振り切って配信をしていくらしい。
 まぁリリーが楽しそうならそれでいいかなと、楽観的に考えた。

「えっと、あと今回は今朝知り合った子を連れてきてます!」
「え……。あー、ルハ、です」

:今朝知り合った子……?w
:コミュ力高ッ!
:フード被っててよく見えんな
:だが声はかわゆいな
:↑サクたんには遠く及ばないがな!
:ダウナー系の子か
:よくわからんシナジーが生まれる予感がする……ッ!!
:不憫の相が見える気がするww

 リスナーさんたちも受け入れてくれたことだし、早速ダンジョンに潜っていくことに。

「今日潜るダンジョンはどんなとこなの?」
「幻獣の影響によって難易度が跳ね上がった元Bランクのダンジョンですわ。まぁここはもともと――でありますけど」

 歩きながらリリーが説明していると、ダンジョンの入り口が見えてきた。
 周囲は木々が生い茂っており、苔の生えた石がドーム状になって大きく口を開けているトンネルが目に入る。こここそが、心霊スポットと同化したダンジョンらしい。

「ま、幽霊はゲロ吐かないので興味ありませんの」
「すごい雰囲気あるねー! ルハはもちろん心霊とかも怖くないよね?」

 そう言ってルハの方を見ると……。

「あばばばばばばばばばばばば!!!!」
「る、ルハ!!?」

 殺し屋であり、『もう怖いものなどない』と豪語していたルハは、泡を吹いてガタガタ震えていた。
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