上 下
30 / 58
連載

第65話

しおりを挟む
 咲太の殺害を目論む殺し屋は、どこから進入しようか考えていた。しかし次の瞬間、ギィィと音を立てて扉が開いた。

「……?」

◆ホラゲの家かな?
◆お、おいもう帰ろうぜ……
◆おおおちつけお前ら。ただの自動ドアだろ?
◆犯罪者が揃いも揃ってビビってんの草
◆早く血が見たいぜ!
◆*サイアクな めに あわされそうな よかんが する
◆レッツゴゥ

 扉から何かが出てくるかもしれない。
 そう思った殺し屋はすぐさま移動しようと考えたのだが、時すでに遅しであった。

「なっ!?」

 瞬間、黒い影がドアの奥から溢れ出し、殺し屋を包み込む。ジタバタと手足を動かすが、抵抗は虚しく終わって家の中へと引きずりこまれた。
 そして、影から放り出されてようやく解放されたが、そこはもう檻の中も同然であった。

◆は?
◆何だよ今の!?!?
◆ここダンジョン外だろ? なんで魔法的なやつ出てんだよ!?
◆ガチやばいやんww
◆懐に入れたということで、ヨシ!!

 解放されて安心するのも束の間。けたたましい鳴き声が響き渡ると同時に、青い閃光が暗闇の中から走ってくる。

『ピーーッ!!!!』

 ――バチッ……バリバリバリッ!!!

「っぶない! ……あ、あれが幻獣……!」
『クルルルルヴゥ……!!!」

 間一髪で青い稲妻の直撃を避けるが、頰から血が出て、服の一部が裂けた。臨戦状態だったものの、反撃を一切許されないほどの雷撃に戸惑い、汗を垂らす。
 霹靂鳥ハタタドリのピー助は羽を大きく広げて威嚇をし、次の攻撃の機会を窺っている。

「(特殊な素材で作られてる服も一瞬で……! けど、この間合いにあの鳥の巨体からして、こっちが先制して攻撃できるはず!)」

◆ヒェッ
◆なんだよあの鳥!
◆俺、サクたんの家に侵入しなくてよかったぁ……
◆雷撃目で追えなかったんですがww
◆幻 獣 な ボ デ ィ ー ガ ー ド
◆よく避けれたな
◆こんなお出迎えされたら泣く;;
◆次はこっちが仕掛けるのか!?
◆幻獣もぶっ殺していこーぜ!

 腰に携えている小太刀に手を添え、姿勢を低くして足に力を込める。
 そして、爆発させるかのように地面を蹴り、一気にピー助との距離を詰め、腰に携えてあったものを抜刀した。

 ――ガキィィァンッ!!

「チッ……!!」
『キュイッ!』

 刃はピー助に届く前に、間り割り込んできた黄金色の毛並みを持つウサギ……ピョン左衛門の杵によって弾かれる。
 追撃をしようと刀を振りかぶり、ピョン左衛門の身体に直撃させたのだが、グニィッと刀は湾曲した。

◆これも幻獣じゃねぇか!
◆どっちも強いんだが、幻獣が格上すぎ……
◆刀がゴムみたいになったぞ!?
◆こいつら使役してるサクたんはガチで何w
◆バケモノテイマー
◆だから手を出すなと……

『キュ、キュイッ!!!』
「うっ!!」

 ピョン左衛門は殺し屋に対して足蹴りをし、バキッと音を立てて後方に吹き飛ばす。
 吹き飛ばされた先で何かに激突して頭に衝撃が走るが、妙な暖かさも伝わってくるためバッと後ろを振り向いた。

『……モゥ?』
「こ、子牛……? いや――」
『モ、ウモ……ブモォオオオオ!!!!』

 ――メキッ、メキッ……バキバキバキ!!!

 ただの子牛だと思って一瞬安堵する。だが、すぐさまその思考を捨てなければらない状況に陥った。
 子牛は不可解な音を立てながらみるみる肉体を膨張させ、筋骨隆々に変化してゆく。そう、正体は〝ベヒーモス〟だったのだ。

「(まずい、離れないと! ……っ!? く、首が……!!』」
『フシャーーッ!』

 立ち上がって逃げ出そうとした矢先、いつのまにか首が締め付けられる感覚がしていた。先ほどまでいなかったはずの生き物、それが首に巻きつき、一瞬の隙を作り出す。
 〝水猫〟のシズク。体を水蒸気化させることで、気づかれることなく近づき、長く伸びる胴体で首を締め上げることを可能にした。

「う、ぅ……けど、これくらいすぐに!」
『ぴー』
『ぴ?』
『ぴよぴよ!』
「は……?」

 床でトボガン滑りをする謎の小さいもふもふ。その周囲では霜が発生しており、靴や服が氷によって固定されている。
 シズクによる水蒸気の液体化。それを服に吸収させ、ベイブペンギンズが凍らせた。

◆ファーーwwww
◆えっぐ……(ドン引き)
◆抜け出せないっ!
◆クソゲーじゃねぇか!
◆【速報】殺し屋、返り討ちにあうww
◆雷撃→刀無力化&蹴り→首絞め→氷で床固定
◆怖ー、この家近寄らんとこ……
◆普通は近づくことも無理だぞ
◆殺し屋気張れ!
◆お前保険入ってるか?(諦め)

『ブモォオオオオオーーッッ!!!!』
「あ――」

 ベヒーモスの肉体は完全に変化し、血管が浮かび上がって蒸気が溢れ出る姿へとなった。
 一瞬の悲鳴すらあげさせることなくベヒーモスは殺し屋を掴み、廊下に向かってぶん投げる。

 目で追うのがやっとなほどのスピードで投げられ、殺し屋は奥にあったドアを突き破って部屋に入った。
 逃げ込めた……というわけではない。ドアの向こうに、ただの部屋が広がっていることはないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

邪神だけど生贄の女の子が可哀想だったから一緒にスローライフしてみた

海夏世もみじ
ファンタジー
 小さな村で凶作が起き、村人たちは「忌み子」として迫害している少女を邪神に差し出し、生贄にすることにした。  しかし邪神はなんと、その少女を食わずに共に最高のスローライフをすることを決意した。畑や牧場、理想のツリーハウスなど、生贄と一緒に楽しみまくる!  最強の邪神と生贄少女のまったりほのぼのスローライフ開幕ッ!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。 麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。 探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。 「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」 孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。 「これがスライムの倒し方じゃ!」 現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。 たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、 インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。 自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。 世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。 今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。