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第58話

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『(……おそらく攻撃を回避することは可能だろう。だが、避ければ少年がどうなるかは目に見えている。ここで私が……奴を仕留めるしかない……!!!)』

 ムキムキピーマンは真っ赤に変色している右腕に、さらに力を込める。湯気が上がり、さらにはバチバチと稲妻も溢れ出ていた。

:頑張れピーマン!!!
:今日野菜炒めにするからぁ!w
:勝って! 勝てや! ムキムキピーマン!!
:流れ変わったなww
:【朗報】ムキムキピーマン、奥の手を繰り出す模様
:ピーマンはなぁ、負けないんだよ……!!!
:ここまで頼もしいピーマンがいただろうか。いやいない(反語)
:ピーマン嫌いなのにっ! ピーマンに惚れちまうよ!w

 ナイトメアとムキムキピーマンは、互いに力を蓄え続ける。
 ナイトメアはブラックホールのように全てを包み込みそうな渦。ピーマンは暗い宇宙の一等星が如く煌めいていた。

『悪夢、ヲ、蔓延、サセル……。夢、ヲ……コナゴナ、ニ、シテヤル……!!!』
『HAHAHAHA!!! 私の夢を粉々にする、か。言ってくれるじゃあないか……。良いだろう、冥土の土産に教えてやろう。私の夢をな』

 高笑いをした後、ピーマンはポツリポツリと語り始める。

『私の夢は、全世界の人間の子供達の体を健康にし、長生きさせることさ。人と魔物、そう簡単には相容れないことは重々承知だ。だが、叶えてみせたいのさ』
『夢、ナド……馬鹿馬鹿、シイ!』
『……夢に想いを馳せ、浸るのは大いに結構だろう。だが貴様の言う通り、夢に浸り続けて溺れるのは間違っている。ぬるま湯に浸かり続けるのは良くない。
 ……だから、だ。だから私は、今、此処で! 夢を叶えるため、ぬるま湯から上がり、貴様《げんじつ》と向き合い、戦い、勝って――夢への一歩を踏み出したいのだ!!!!』

:カッコよwww
:名言いただきました
:ピーマンが言ってるってなるとジワジワくるw
:かっちょいいだるォ???
:ピーマン、お前第2でもいいから主人公になれ
:てかもうそろやばそうだな
:発射しそうじゃね!?

 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

 地響きが大きくなり始める。ナイトメアの渦は天井一面に広がっているのに対し、ピーマンは地面にクレーターができるほどのエネルギーをチャージしていた。
 互いに、臨界点は間近である。

『私の夢は叶えられそうにないほど馬鹿げているだろう……。だが叶えたいのだ……! HAHA、あの少年一人救えないようだったら、この夢を叶えられるわけがないんだよなぁ!!!』
『モウ、イイ。消エ、ロ』
『安心してくれ少年……。必ず――守るさ』

 ――バチッ、バチッ……!!!!

 ナイトメアの渦の中心に、混沌とした色のエネルギーが収束し始めていた。ビルは大きく揺れ、倒壊し、威力がとてつもないことが感じられる。
 しかしピーマンのやるべきことは一つ。拳を振るうのみ。

『我が最高の奥義……緑黄色苦神滅拳りょくおうしょくにがみめっけん――』
『消エ、失セロォオオオオオ――ッ!!!!』

 ――ドヴッ!!!!!

 ナイトメアの収束されたエネルギーは光線となって放たれた。当たれば一瞬にして蒸発しかねないほどの威力が詰まった代物だ。

 ピーマンは臆することもなく、赫灼する拳をその光線に向かって――放った。

『――〝理虚飛无リコピン〟』

 刹那、世界から色と音がなくなった。
 理《ことわり》も、虚空すらも全てどこかへ吹き飛んでいったのではないかと錯覚してしまうほどに。
 だが次の瞬間、

 ――ドッッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!!

 遅れて轟音が響き渡った。

:うごごごご耳がー!
:ど、どうなったん……?
:よくわからんが……なんか、明るい?
:ピーマンは無事なのかよ!?
:頼む
:やったか?
:↑消えな
:あ、見えたぞ!

『――……敵ながら天晴れであった。この私の葉緑体に刻み込まれたほどだ』

 天井にはナイトメアの姿はなく、代わりに深層七階より上の全上層をぶち抜いてダンジョン外の陽光が差し込んでいた。
 その陽光スポットライトに照らされるは――

:ムキムキピーマンーーっ!!!!

 片腕が無くなり、傷だらけになりながらも立ち続けるムキムキピーマンの姿がそこにはあったのだ。
 今度こそ、紛れもなく勝利を手にした。

 深層七階ボス・ザ・ナイトメア――撃破。


 # # #


「う、うーん……?」

 なんだか変な匂いがするような……。まるでピーマンに包まれてるかのような変な感じがする……。

 その正体を確かめるべく、僕は思い瞼を開ける。いつのまにか外に出ていたのか、太陽の光で体はポカポカとしていた。
 そして周りを見てみるとそこには……。

『ビマピマァン!』
「ひやぁあああぁあああ!?!?』

 ムキムキピーマンが僕の顔を覗き込んでおり、僕は咄嗟に悲鳴を上げてしまう。

:サクたん! そのピーマンは良いピーマンだぞ!
:助けてくれたんやで
:七階ボス倒したからなww
:感謝の意を込めてピーマン食え
:ピーマン! ピーマン!
:ピーマンイズゴッド
:時代来たね~

「リスナーさんたちがピーマンに洗脳されてる……!!?」

 だんだんと思い出してきたけれど、今僕が生きているということは、本当にこのムキムキピーマンがあの気持ち悪いピーマンを倒してくれたってことなのだろう。右腕とかもないし、頑張ってくれたみたいだ。
 すごいなぁと感心していると、突然ピーマンは左腕で僕を包み込み、抱き寄せてきた。

「な、えっ!?」
『ピィマピマ、ピママピィマン……』

翻訳マン:『少年が無事で、本当に良かった……』って言ってるぞ!
:ピーマァン……;;
:泣いてまうやろ
:優しい世界
:野菜生活
:↑そのネタが否定しづらい珍しい状況だww
:ピーマン、お前がMVPだ

 しばらく抱きついた後、鍵によってピーマンは元いたダンジョンに帰ることとなった。

「あ、あのさ……本当に、ありがとう。きょ、今日はピーマン、家帰ったらちゃんと食べるよ!」
『……ピーマンッ』

 人差し指と中指をくっつけながら立て、振り返らずにピッとハンドサインを送ってくる。
 本当に不思議な魔物だったなぁ。ピーマンは苦手だけど、あのムキムキピーマンは信頼してもいいかもしれない。そんなことを思ったりしてみた。

 ――こうして、近所で起きた大氾濫スタンピードは終息したのであった。
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