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第56話

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『……ア゛ァ……?』

:あ……?
:なんだ?
:サクたんが殴られた……わけではないっぽいな
:じゃあなんの轟音だよ!?
:誰でもいいからヘルプヒム!
:早く今のうちにぃ……

 ナイトメアは上に顔を向け、その音の正体を確認しようとする。
 轟音は再び鳴り響き、それは遠くからどんどん近づいていた。そしてこの階の天井が破壊され、彗星のようにが降りてくる。

 ――ドガァァァァンッ!!!!

 その誰かは高架橋の上に着地し、そこを真っ二つにしてみせた。

:うぉおおおお!!?
:登場の仕方がかっこよすぎるwww
:高架橋真っ二つにした……
:誰だ!?
:リョーガか?
:ゴリラ化したあまみやちゃんかもしれん

『ヴェ……ア゛ァァ!!!』

 ――ヴンッ。ボグッ!!!

『ガハッ……!?!?』

 亜音速で移動をし、ナイトメアの顔面に拳を振るい、遥か遠くまで吹き飛ばす。建物を次々と貫通するナイトメアから、その拳の威力が強大であることを示唆していた。
 体表からは煙が出ており、に染まり上げている。

:お、お前は……!!?
:なんで生きてんだよww
:覚 醒 イ ベ ン ト
:私が来たッ!!!
:さっきは笑ってすまん……
:!!!!

『ピマピマ……!!!』

 駆けつけた者の正体は、先程咲太が召喚したムキムキのピーマンであった。
 しかし鮮やかな緑色は消え失せ、怒りに染まり上がったかのように真っ赤な体色へと変貌を遂げている。

:赤くなった!?
:熟してるwww
:ボス殴り飛ばしたぞ!?!?
:完熟モードだな
:強スンギw
:よし、仕事だぞ
翻訳マン:こっからが本番だな! テンション上げてこーぜ!!!

『時は満ちた……そして、私は〝熟成かくせい〟したッ!! 子供たちの健康を望む全緑黄色野菜の代表として、この少年は私が守ってみせる!!!』
『グゲ、ゲゲ……ギャギャギャギャーー!!!』

 Eランクの食料庫の迷宮《ダンジョン》で遭遇したムキムキなピーマン。Eランクダンジョンで現れるには明らかにおかしい。故にこの魔物は〝イレギュラー〟である。
 強いが、深層での戦闘にはついていけないほどの強さだ。

 ……

 制限時間内の制限解除リミットブレイク。もとい熟成《かくせい》した状態ならば、万物を破壊し、全てを蹂躙できるほどの力が引き出せる……。
 そう――X

『ヴガァアア!!!』
『ビタミンCパンチッ!!!』

 ナイトメアは触手を伸ばして攻撃を仕掛けるが、ピーマンが拳を振るうとその触手は蒸発する。再び距離を詰め、今度は腹に拳を打ち込んで吹き飛ばした。

『少年少女たちの教育に悪い見た目だな。手っ取り早く貴様を葬り去ってやろう』

 神に近しい存在へと成ることが可能な魔物……。しかし、この魔物は新種の魔物ゆえに、発見者が名付け親となる。
 なので、このSランク級の魔物さえをも凌ぐこの個体名は――である。

:少年少女を助ける魔物、ピーマッ!!
:ピーマンがこんなにカッコいいと思う日が来るとは思わなかったww
:うし、ピーマン買ってくるわ
:口無いのになんで喋れてんだ……?
:↑真のピーマンだからだよ
:真のピーマンってすごいんだなぁ
:ムキムキピーマンしか勝たん♡
:このままだとムキムキピーマンファンクラブとかいう謎の派閥が生まれてしまうww
:声が大○明夫に似てるしなぁ……

『ギガァ……!! ジャァ、マ、ス……ルナァアーーッ!!!!』
『怒って血圧が上がっているようだな! カリウムが足りてないんじゃあないのか!!?』

 ――ズガガガガガガガガガガガンッ!!!!

 ピーマンはナイトメアの猛攻を両手の人差し指と中指だけで捌ききっていた。時間が経つにつれてスピードと威力が上がり、周囲の建物が壊れ始める。

『フム……ここは少年が近くて危ない。場所を変えようかッ! β-カロテンキック!!!』

 脚で横薙ぎ一閃。
 ナイトメアは後方に吹っ飛ぶが、それに次いでピーマンも踏ん張り、クレーターができるほどの力で追う。

:おぉお!!?
:すんげーバトルww
:俺たちは何を見せられてるんだ……?
:ナイトメアピーマンvs熟成かくせいムキムピーマンだよ
:ナニコレぇ
:見 る 無 量 ○ 処
:ってかピーマンの方にこのカメラ向かうんやな
:撮れ高がわかってる配信用カメラだなw
:実際そう
:頑張れーー!!!

『ギァ、ア゛ァ!!!!』
『どこを見ている?』
『!?』

 空中で体制を整えて正面を向くがそこにはピーマンがおらず、ナイトメアの背後からその渋い声が響いていた。
 振り向く暇も与えず、ピーマンの重い一撃が再び顔面に炸裂して地面に叩き落される。

『オ゛、ォォ……!! ゴ、ロス……!!!!』
『私は子供たちの健康を守るために存在している。まだ死ぬわけにはいかない。さぁ、ここなら存分に暴れても構わんな!!!』

 深層七階のボス戦は、まだ始まったばかりである。
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