上 下
39 / 79

第39話

しおりを挟む
「……報告が途絶えた。どうやら失敗したようだな」

 大海原をゆっくりと進む巨大な船。
 その船の船長室で、どかっと椅子に座るヒゲを蓄えた男。こいつこそが咲太を拉致監禁しようと目論み、計画を実行させた組織のボスである。

「ボス、失敗した奴らはどうするんですか?」
「フンッ、放っておけ。情報を吐かれようがどうせオレたちの本拠地はわかるまい。クヒヒ……だが良い、作戦を練り直して必ずやサクたんを捕えてオレたちのモノとするのさァ! 世界征服も夢じゃねぇ……!!!」

 絶対的な自信、それゆえの慢心。ボスは、手を出してはならない者に気がついていなかった……。

 場所を移し、船の甲板で海に注意を払っている組織のメンバーたちが異変を感じ取っている。

「お、おい、なんかイルカの群れがすげぇぞ!?」
「クジラまで潮吹いてるな」
「何事だよこれ」
「……ん? 今、人が走ってなかったか……?」
「は? お前何言って――」

 ――ボゴォォオンッ!!!

 轟音が聞こえてきたと思えば、船が大きく揺れてけたたましい警報音が鳴り響き始めた。
 甲板にいた者たちはパニックになる……かと思いきや、誰一人喋らずにシーンとしている。そして、バタバタと床に倒れこんだ。

「――……ったく、クソめんどくせぇこと起こすんじゃねぇよゴミども……。海の上なんか久々に走ったぞこの野郎ぉ……」

 倒れた男の頭に片足を乗せながら、で辺りを見渡す。

 WDO日本支部トップ――駆動《くどう》ゼロの現着。

 天宮城うぐしろが咲太を無事に保護した後、駆動に電話をしてこの状況を説明したのだ。そして、涼牙の仕事を中止させ、一瞬にして陸から遥かに離れた船に到着する。

「(クソ目立つようにイルカやらクジラがいたが……それもサクたんアイツの体質ってわけか。さて……船の横ぶち破った高力《たかりき》に存分に暴れてもらってる間に、一番偉ぇやつのとこ行くかぁ……)」

 ガシガシと気怠そうに首の後ろを掻くが、次の瞬間にはその場から姿を消しており、右目の赤い残光だけを残していた。


###


「は~~っはっはっはぁ!!! 一丁前に銃乱射しまくってんじゃねぇぞ犯罪者どもぉ!!!」
「ッ!? じゅ、銃が効かねぇ!!?」
「止めろ! 止めるんだァァ!!!」
「く、来るなぁあぁああ!!!」

 船の側面に穴を開け、中に侵入した涼牙は男たちと交戦していたが、戦いというにはあまりにも一方的なものだった。
 銃を撃つが、全て肉体を貫通せず、傷一つつけることさえできない。ましてや、動きが速すぎて一瞬にして気絶させられている。

「俺ん幼馴染に手を出したんだから、ツケはしっかり払ってもらうぞゴラァ!!! 死――……ねはよくないなァ!!!!」

 船に侵入して約20秒。船員の過半数は戦闘不能リタイア、船の損傷率は60%を超えていた。


###


 ――船長室。
 たった数十秒で壊滅的被害を受けた組織は、阿鼻叫喚している。

「何がどうなってるんだ!?」
「情報が来る前にやられてんだよ!」
「対処しようがない……」
「もう終わりだな」

 ボスは歯軋りをしながら貧乏ゆすりをすることしかできなかった。
 その時、船長室にダルそうな声が響き始める。その声の主は、つい先ほどまで甲板にいた駆動のものだった。

「あ゛ー……テメェがボスかぁ?」
「ッ!? き、貴様は……あの〝閃紅せんこう〟の駆動ゼロだと!!?」
「そのあだ名中二くせぇからやめてくんね……」

 駆動ゼロ。閃紅の二つ名は〝最速〟を表す。
 彼は元Sランク探索者だが、数多の実績と戦力の高さ、そして知能の高さで、若いながらもWDO日本支部のトップになった男だ。
 国を壊滅できる力を持っていないためXランクではないが、速さだけならば勝るものはおらず、Xランクの涼牙をも上回るスピードで移動できる者。

「(世界最速の男……だが、速さが関係ない毒ガスで充満させれば――)」
「はぁー……これも典型的な毒ガスだなぁ……」
「な、はッ!? お、オレの手にあったのが!!?」

 一瞬で毒ガスの入った缶を奪い取ると、ボスはみるみる顔が青くなる。

「いいか……俺ぁクソめんどくさがり屋だ。できるならな~んもせずに生きてたい……。けどなぁ、テメェらみたいなクソを放っておくほど、落ちぶれた人間じゃねぇんだよ」
「ガッ――」
「若い芽摘むつもりなら……俺を倒してから言え。子供達ガキどもを守るのが俺の責務だからな」

 目に見えないほどの蹴りを入れられ、ボスはあっけなく一発で伸びてしまった。
 やれやれと溜息を吐き、懐に手を突っ込んでお菓子の袋を開けて食べ始める。菓子をつまんでいると、全船員を倒した涼牙が合流した。

「おっ? 駆動さん終わったか~?」
「あぁ、汚物処理完了だ。……だが、この船も長くないっぽいからとっとと失せんぞ」
「それなら大丈夫みたいだぜ! が船支えてらぁ!!」
「……あ……?」

 二人が室内から外に出てみると、そこには船を丸々包み込めるほど巨大な触手が絡み付いており、船を支えていた。
 さらに、山のように巨大で真っ黒な人型の生物や、鯨よりはるかに大きいサメなどが船を囲んでいる。

「……幻獣の〝尨大蛸クラーケン〟に〝海坊主ウミボウズ〟……ありゃあメガロドンっぽいな。……ここは世界の終わりかぁ?」
「ハッハッハ! やっぱ咲太は愛されてんな~!」
「俺たちが来なくても解決したじゃねぇか……クソが……」

 こうして、咲太の誘拐未遂事件は幕を下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

幼馴染に冗談で冤罪を掛けられた。今更嘘だと言ってももう遅い。

ああああ
恋愛
幼馴染に冗談で冤罪を掛けられた。今更嘘だと言ってももう遅い。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。 そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。 それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……? のんびりほのぼのとした現代スローライフです。 他サイトにも掲載中。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...