上 下
19 / 75

第19話

しおりを挟む
 スマホから飛び出したのは、黒く細長いボディに稲妻模様が入った10センチほどのウナギだった。

「うなぴ!」

 飛び出したウナギは腕が折れていない人の方の腕に突進したかと思いきや、体が分解されてその人の肌に吸収れていった。
 何が何だかわかっていないような顔をしていたが、みるみる顔が青くなっている。

:今のドジョウも幻獣なん?
:知らぬ
:誰か氏ー? 教えてエロい人!
:【幻獣:電子鰻デンシウナギ
 体を電子に変え、電子機器の中や、神経を通って脳に入り込むことが可能なウナギ。物理攻撃無効。〝雷霆らいてい迷宮ダンジョン〟から脱走し、インターネットに潜り込んだらしい。

【幻獣:潜影鮫センエイザメ
 影の中を泳ぐサメ。泳げば泳ぐほど影が海藻のように絡まり、体が肥大化する。それを自由自在に操ることができる。
:エロい人ありがとう!
:普通にぶっ壊れ幻獣ですww
:えぇ……(強すぎて困惑)
:幻獣全部ぶっ壊れだろうが!
:飼ってる本人も驚いてて草
:サクたんのことだから知らんかったんやろw

「そうだったんだ……」

 うなぴ(妹命名)とウオカゲの詳細を、今この瞬間に初めて知った。
 けどまぁなんにせよ、これでうなぴがなんとかしてくれるってことなのかな?

「えっとー、じゃあ僕の質問に答えてくれますかね?」
「痛ってェ……! お、脅したって腕を折られようがな、俺たちは一切情報を――」
「……はイ、答えマす」
「は……?」

 うなぴが入った(?)方の人は焦点があっていない目をしており、無機質な感じで答える。

「おいどうしたんだよ!? テメェ、喋ったらメンバーから外されちまうだろ!!?」
「…………」
「なんか答えろって!!!」

:どうしたんだ?
:多分さっきの幻獣の影響だな
:腕から神経通って脳みそ入ったんだろ? それで操ってるとみた
:えっぐww
:これで言いなりだな!
:なんでも……。閃いた
:↑通報……は、もう既にしてあったわ(ガチの方)w

 腕が折れている方の人は、なんとかして黙らせようとしたり大声で掻き消そうと試みていたが、ウオカゲが影を伸ばして口を封じる。
 早速質問を始めてみることにした。

「僕になにをしようとしたんですか?」
「銃撃っテ動けナクした後、拉致ヲして、幻獣を俺たチのものにシヨうとした」
「なんでですか?」
「ボスを喜ばセて、金を貰ウ為」
「なんのボスですか?」
「――〝九尾会きゅうびかい〟」

 うん、もちろん知らない!
 リスナーさんたちは知っているのだろうかと思い、コメント欄に目を向ける。

:幻獣の情報発信してくれてるとこだな
:でもあそこってトップは結構良い人説あるぞ?
:部下が暴れてる感じやね
:噂ではそのボスが幻獣だとか
:じゃあサクたんの体質活かしたら、その組織乗っ取れるな!
:↑サクたんならやりかねないww

「そんな組織があるんですねぇ……。特に興味ないのでこの話はおしまいにしましょう! うなぴ、帰っておいで」
『!』

 僕の言いなりだった人の額からうなぴが飛び出し、僕のスマホに戻ってきた。頭に穴は空いておらず、特に怪我もしていないので問題ないだろう。
 スマホの画面に映るうなぴに感謝を伝えると、嬉しそうに画面内で泳ぎ回る。

「う、ぁあ……うああぁあああぁ!!!!」
「今度はなんだよ!! 散々話しやがってよォ!!!」
「頭の中に何かが入って……勝手に使われて……っ。お、俺はもう……幻獣とは絶対に関わりたくないっっ!!!!」

 うなぴがだいぶトラウマを植え付けていたようで、片方は泣き崩れてしまった。
 まぁでも、犯罪をするならそれ相応の覚悟があってやらないといけないだろうし、仕方ないことだよね。

「よしよし、ウオカゲもありがとね」
『……♪』

 影から顔を出すウオカゲも撫でてあげると、少し嬉しそうに体を揺らす。感触は水で浸したワカメのような感じで、ひんやりしている。夏だったら抱きながら寝たくなる感じだ。

「……あ、サイレンの音」

 結構長い時間お話をしていたらしく、僕たちの元に警察も到着する。

「通報があって来ま……うわッ!? でかくて黒いサメが!!?」
「落ち着け。これはサクたんさんが使役している幻獣だから問題がない」

:警察きちゃ!
:とりま一安心だな~
:サクたんのこと知ってて草
:サクたんさんwww
:警察の口からサクたんという単語が出てきてるのなんかウケるw
:もうすっかり有名人だな!
:今のうちに古参アピしとこ
:二人組、五体満足でよかったな^^

 その後、二人組はやっとウオカゲから解放されたが、今度は手錠をされてパトカーに乗せられた。
 僕も連れて行かれるかと思ったのだけれど、その前に警察の人からこそこそと話かけられる。

「あの……サクたんさん、実は俺あなたの大ファンでして……。手帳にサイン書いてくれないすか……?」
「えぇ!? さ、サインと言ったら有名人がするあの……!? 書いたことないですけど任せてください!」

:は?
:は?
:あ?
:おい
:聞こえてんぞゴラ
:職 権 乱 用
:国 家 反 逆 不 可 避
:俺は貴様を許さない
:俺たちですらまだ直で会えてねェんだぞ!!!
:【悲報】警察、仕事そっちのけでサクたんのサインをもらう
:羨ましいィィ!!!

 サインは中学生の時の卒業アルバムに書いたくらいだし、考えてなんかいない。メッセージとかも何を書けばいいかわからず、思いついたものを書いてみた。

「はい、これでいいですかね」
「うぉ……! ご協力、感謝致します」
「いえいえ~」

:※警察っぽいセリフを吐いていますが、彼はサインをもらって喜んでいるだけです
:せめて見せろーーッッ!!!
:売ってくださいw
:何を書いたか……私、気になります!
:ネットに晒されてんだからせめて見せなさい。これは命令です

「あの、リスナーさんたちが見せて欲しいって怒ってますよ?」
「え? あ、ヤベ。……ちゃんと見せるのでチクるのは勘弁してください」

 警察は渋々配信用のカメラに手帳を見せる。
 そこには「サクたん 今日の夜ご飯はハンバーグです!!」と書かれていた。
 ……メッセージってなんでもいいんだよね?

:メッセージが晩御飯の報告www
:サイン貰えばサクたんの晩御飯がわかるってこと!?!?
:貰いに行かなきゃ(使命感)
:デイリーサイン貰いたいw
:ガチで羨ましいって
:字が可愛い

 リスナーさんたちの怒りは沈んだし、二人組は連れて行かれたので、無事に事件は解決した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷宮転生記

こなぴ
ファンタジー
工事現場での事故に巻き込まれて死んでしまった明宮真人。目が覚めると暗闇だった。違和感を感じ体を調べるとなんとダンジョンに転生していた。ダンジョンに人を呼びこむために様々な工夫をほどこし盗賊に冒険者に精霊までも引きよせてしまう。それによりどんどん強くなっていく。配下を増やし、エルフに出会い、竜と仲良くなりスローライフをしながらダンジョンを成長させ、真人自身も進化していく。異世界迷宮無双ファンタジー。

婚約破棄された令嬢は、失意の淵から聖女となり、いつか奴等を見返します!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
辺境の伯爵の娘スズリーナ。 親同士が決めた、気の進まない婚約相手だった。 その婚約相手から、私の不作法、外見、全てを否定されて婚約破棄された。 私は失意の淵にいた。 婚約していた事で、12歳の成人が受ける儀式《神技落としの儀》に参加出来なかった。 数日後、ふらふらと立ち寄った神殿で、奇妙な体験が起きた。 儀式に参加しなかった私にも、女神様はスキルを授けてくださった。 授かったスキルにより、聖女として新たな人生をスタートする事になった私には、心に秘めた目標があった。 それは、婚約破棄した奴等を見返してやる事だ!!

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

正室になるつもりが側室になりそうです

八つ刻
恋愛
幼い頃から婚約者だったチェルシーとレスター。しかしレスターには恋人がいた。そしてその恋人がレスターの子を妊娠したという。 チェルシーには政略で嫁いで来てもらわねば困るからと、チェルシーは学園卒業後側室としてレスターの家へ嫁ぐ事になってしまった。 ※気分転換に勢いで書いた作品です。 ※ちょっぴりタイトル変更しました★

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

処理中です...