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第14話

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 このダンジョンは全部で15階層らしく、今僕たちがいるのは10階層だ。
 先程は普通のミノタウロスばかりであったが、その派生個体であるレッドミノタウロスというものや、ブルーミノタウロスという色違いが増えて、仲間になっている。
 ここはボディービルダー大会の会場かなと思わせる状況だ。

 しかし同時に、不思議な光景が広がっていた。

「このミノタウロスたち、どうしたんだろう……」

 床にひれ伏し、もがき苦しむミノタウロスたちの姿が目に入る。討伐されて素材になっていることなく、生きながら苦しめられているようだ。
 僕についてきているミノタウロスも怒りを露わにしている。

「あまみやさん、これは何ですか?」
「これは……わからないわ。けどダンジョンで起こることじゃなくて、探索者が何かをしたことは確かね。さっきの二人組かしら……」
『ブモォオ……!!』
『モォ!?』

:趣味の悪ィ奴らだなァ!
:新手のス○ンド使いの攻撃か?
:サクたんのボディガードさんたち……
:↑※普段は問答無用に殴りかかってきます
:今回の配信で印象が変わっちまったw

 そういえばさっき、慌てふためきながら走る二人組の姿とすれ違ったけれど、その人たちが何かをしたのだろうか?
 嫌な雰囲気を感じつつも先に進もうとしたのだが、ダンジョンに轟音が響き渡り地面が揺れている。

『……! ピィ!!!』
「え、ピー助!?」
「わっ!?」

 突如ピー助が僕たちの首元の襟を摘み、背中に放り投げる。バサバサと羽を羽ばたかせて後ろに飛んだ瞬間、僕たちがいた床が破壊された。

:ダンジョンの床壊れたんですけど!!?
:硬度はダイヤモンドとかオリハルコンより硬いはずだぞ
:ボスミノタウロスか!?
:いや、これは……
:なんだよもォォ! またかよォォ!!!

『ブモォオォォーーッッ!!!!』
「わっ! すっごい大きい牛さんだ!!」
「う、嘘でしょ……」

 床から現れたのは、さっきのボス部屋にいたミノタウロスよりも遥かに大きい存在だった。
 赤黒い筋肉からは湯気が上がっており、赤い瞳とツノがカッコいい。

「あまみやさんあれはなんですか!?」
「げ、幻獣――〝ベヒーモス〟。普段は牛やミノタウロスと同じ見た目で温厚だけど、過度のストレスを感じると狂暴状態になって巨大化し、悉くを破壊する……。
 一説によれば、ベヒーモスの怒りを買った国が一夜で沈んだって聞いたわ……」
「あれはうちで飼えますか!?」
「私の話聞いてた!? しかも今はそんなこと言ってる場合じゃないわよ!!!」

:サクたんあれをペットにするつもりかwww
:狂暴状態じゃなかったから飼えるだろ?
:餌やり遅れたら家破壊されそう
:餌なんなんだ?
:草だろ
:ほないけるか……
:なんで飼う流れになってんだよ!?!?
:コメ欄冷静で草
:サクたんならまぁ……いけるでしょ
:圧倒的信頼があるw

 狂暴状態で悉くを破壊する……って言ってたけど、僕の姿を目にした途端に動きがピタリと止まり、困惑したような動きになっている。
 もしかしたら暴れたくないのかもしれない……。過度なストレスを感じると暴れるなら、うまくやれば大人しくさせられるかも……!

「あまみやさん、地面を凍らせる魔法とかってありますか?」
「え、えぇ。上位魔法で使えるわ」
「じゃあ僕が合図したら凍らせてください!」
「は、え、えぇ!!?」

 必死に抑えようとしていたが、ベヒーモスはとうとう暴れ始めようとしていた。

「ピョン左衛門!」
『キュイッ!!』

 ピョン左衛門は杵を勢いよく振りかぶり、地面に思い切り叩きつける。すると地面はもちもちになり、ベヒーモスの体は沈み始める。

「あまみやさんお願いします!」
「いきなりすぎるでしょ!? 仕方ないわね……【アブソリュート・ゼロ】!!」
『モ、モォオオオ……!!!』

 あまみやさんか地面に飛び降りて魔法を発動させると、モチモチになった地面は凍てつき、ベヒーモスの下半身がカチコチに凍る。
 腕を振るって暴れようとするが、ピョン左衛門と仲間になったミノタウロスたちがなんとか抑えていた。

「サクたん君! そう長くは持たないわよ!!?」
「だいじょ~ぶいですっ! ピー助、あの子の顔まで近づける?」
『ピィッ!!』
「よし、いい子だね」

 青い羽を羽ばたかせ、ベヒーモスの顔の横を通り過ぎる。その際、僕が持ってきたレジャーシートを広げて顔にかけることに成功した。
 ベヒーモスは顔についた異物を取るため、それに手を伸ばしている。けれど、その一瞬で大丈夫。

 ――カプッ。

『ブ、モ、ォォ……』
『シューッ……』

 ベヒーモスの脇腹に、シラハが噛み付いている。
 ストレスを感じているならハッピーになればいい。なら、噛んだ相手を幸せにするシラハを出せばいい。

『…………モゥ』
「小さくなると可愛い! ウチに来る~? 来るよね!?」
『モ、モウ……』

 圧倒される見た目だったベヒーモスの姿はなく、子牛の姿に変化していた。僕が駆け寄ってみると、ペロリと頰を舐めてひっついてくる。
 言葉は発していないが、感謝されているような気がした。

「ほ、ほんとに狂暴状態のベヒーモスを鎮めちゃった……」

:うおおおおおおお!!!!!!
:やりやがった!
:やばすぎるwww
:ガチのテイマーじゃねぇか!!
:ガ チ モ ン バ ト ル
よかったねベヒーモスきゅん!
:公式からの供給多すぎるってww
:俺たちが外せる顎が足りねぇよ……
:↑わいの顎やるよ
:おめっとさん!
:戦闘シーン助かる
:ベヒーモスまで手懐けやがったww
:ワァ……最強テイマーだぁ……

「えへへ♪ これからよろしくね!」
『モー』

 何はともあれ、ベヒーモスゲットだぜ!!!
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