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第13話

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「さっきのボスの魔物も出てくるんですねー」
「だいぶ深くなってきたからね……」

 ボス部屋にてボスであるミノタウロスを難なく倒し(魔物たちが)、さらに奥へと進んでいる。
 もう何回階段を降りたから数えていないほど下におり、ボスだったミノタウロスも普通に通路にいる。

『ブモッ、ブモッ』
『モォー』
「筋肉すごいね。ムキムキ!」
『ブモッ♪』
「なんなのこの空間は……」

 もうボス部屋の魔物ではないので、ミノタウロスたちは必然的に僕のパーティメンバーに参加している。

:うーん、勝てる気がしねェ……
:ボディーガード並みにおるww
:ミノタウロス軍団を従える華奢な男の娘
:うほっ♡ 良い筋肉だらけ♡
:あまみやちゃん顔青くて草
:サクたんの満面の笑みがイかれてるんよ
:四方八方巨漢だらけだしなw

 まぁ確かに、こんなに厳つい魔物さんたちに囲まれてたら怖いがってしまうかもしれないなぁ……。

「牛さんたち、あまみやさんが怖がってるから少し離れてほしかも……」
『ブモッ!?』
『モ、モゥ……』
「ごめんね?」
『シャーッ!!』

 驚いた声を漏らし、僕の言葉に頷いた後にトボトボとした足取りで僕らから離れる。しかし、あくまで離れるだけ。
 ダンジョンの曲がり角から数十匹のミノタウロスがひょっこりと顔を出してこちらを見つめてきている。

:ホラー映像ww
:画面暗くしてこの配信見てみな。漏らすぜ
:↑おい、俺の布団洗濯しなきゃいけなくなったんだが?
:あ、愛されてるねー……(震え声)
:怖すぎんだろ!w

 なんだかリスナーさんたちとあまみやさんはさっきより悪化したとか言ってるけど、一件落着だよね!
 鼻歌を歌いながら歩いていたのだが、ふと思い出した。

「そういえばですけど、〝お宝〟って本当にあるんですか?」
「ええ。ダンジョンのどこかに宝箱が設置されてることがあるわ。だけど、基本的にランダムに設置且つ超低確率だから探すの大変よ。あと、ミミックっていう擬態した魔物もいるから気をつけるべきね」
「へぇー! お宝もその魔物も見てみたいなぁ」

 ダンジョンのお宝という、ワクワクするものを放っておくわけにはいかないでしょ!

 僕がそんなことを呟くと、どこか遠くから不思議な音が聞こえてくる。ガコガコと何かが暴れる音と、ズリズリと何かが引き摺られる音。
 その音を確かめに向かってみるとそこには――

「わぁ! 宝箱が宝箱持ってきてる!?!」
「……み、ミミックが、宝箱引きずってる……」

 宝箱が宝箱を引きずって僕たちの前に現れたのだ。
 よくみてみると、片方の宝箱は牙があり、舌でもう一つの宝箱を運んでいる。口の中に目があり、キラキラとした目で僕を見つめた。

「もしかしてくれるの?」

 ――ガコガコッ!

 「うん!」と言わんばかりに体を揺らし、宝箱を僕に差し出してくる。
 宝箱の魔物……ミミックだっけ。この子ってすごい良い魔物なんだなぁ!

:サクたんくんさぁ……
:ちゃんとタイトルに【神回】ってつけなさい
:サクたんがいれば宝箱回収し放題……ってコト!?
:もはや羨ましいとは思わんww
:供給過多です……
:もう俺たちのライフはゼロよ!
:あまみやちゃんもゼロやでw

 ミミックがくれた宝箱を開けてみると、そこには二本の剣が入っていた。チラリとあまみやさんを見てみると、笑ってしまうほどあんぐりと口を開けていた。

「あはは、昔家にやってきたカバを思い出しますね!」
「私がカバだって言ったかしら」
「ナンデモナイデス……」
「はぁぁ……。Aランクのミノタウロス武器……〝穿角双剣せんかくそうけん〟ね。世に出回っているのは指で数える程度かしら……」
「すごいんですか?」
「当たり前でしょ!?」

:Aかー
:Sランク出るかと思ったな
:CランクダンジョンでAランクの宝出たの初じゃね?
:渋いね
:コメント欄しっかりしろ! Aランクでもおかしいんだよ!!!
:サクたみ、サクたんに慣れてきてるww

 男の子たるもの、かっこよくてロマンがあるものには目がないものだ。僕だって男の子だし、こういうかっこいい武器を持つのを夢に見てた!
 早速手にとって持ち上げようとしたのだが……。

「ふっ、う、うぅうぅ……!! ふんぬぅぅ~っ!!」

 も、持ち上がらない……!? この剣、中に変なの入ってる気がする!!

:エッ!?!?
:ふぅ……
:お か ず 決 定
:エッチなのはダメ! ○刑!
:剣持てないんやww
:腕ほっそいからなぁ……
:あ、落ち込んでるw

 そういえば僕、筋肉ないんだった。
 鼻をすすって落ち込む僕と、宝箱を持ってきたミミックに圧をかけるペットたち。
 筋トレ……しようかなぁ……。でも筋トレで筋肉ついたことないし……。

「あまみやさん、これ、あげる」
「え!? い、いや、売ったすごい大金が手に入るわよ!!」
「んーん。いい」
「そ、そう……。えっと、ありがとうサクたん君。あの、元気出して、ね?」
「うん……ありがと」

 落ち込む僕を慰めるあまみやさんとコメント欄で荒みそうになった僕の心は持ち直したが、ミミックは素材と変化していた。


###


 ――同時刻、同ダンジョン内にて。

「はぁ……はぁ……! 簡単に捕まえられるんじゃなかったのかよォ!!!」
したらボスから金がもらえるけどこれは無理だろ……!!?」

 二人組が、巨大なナニカと対峙していた。
 筋骨隆々な肉体、赤黒い筋肉に浮き出る血管、湾曲した角、赤く光る瞳……。

『ブルォオオオオオォーーッッ!!!!』

 怒りに染まったその幻獣は二人組を追って殲滅を尽くし、咲太と天宮城の元へと近づいている。

 殲滅の暴牛――〝ベヒーモス〟が……。
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