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第8話

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 二回目の配信を終え、無事な家に帰ってこれたのだけれど……今、とても助けてほしい状況下に僕はいた。

「あ、開けなさいよ~~っ!!!」
「い・や・で・す! 怖いんですもん!!!」

 僕は、玄関の扉で不審者と綱引きをしていた。
 扉の向こうにいるのは、赤のインナーカラーの銀髪と、青い目を持つ美少女……もとい、あの時ドラゴンを怖がっていた天宮城うぐしろさんである。

「お願いよっ! あの鳥ちゃんをもふもふさせてほしいの! 先っちょ、先っちょだけでいいから!」
「言い方も嫌なんですけど!!?」
『クルルルル……!!!』

 クールビューティーな印象だったけれど、今ではそんなの微塵も感じられない。
 後ろにいる幻獣の鳥も、僕の服を引っ張ってなんとかドアを閉めようとする。助力があってなんとか閉めることができ、一息ついた……と思ったのも束の間。

 ――カチャッ。ギィ……。

「うわぁああああ!?!?」

 ドアがなぜか開き、隙間から覗く彼女の顔は宛ら某映画の斧でドアを壊して覗く殺人鬼のようなものであった。

「あのねぇ、驚かすために来たわけじゃないのよ、本当に。この前のお礼としてお土産持ってきたから」
「そうだったんですね、すみません。……ところで、なぜ僕の住所が割れているんですかね……?」
「…………。乙女の……秘密?」
「やっぱり怖いんですけど!」

 鳥ちゃんも『やれやれ』と言わんばかりに首を横に振っており、悪意は感じられないのか無理矢理排除はしようとしない。
 まぁでも、今後のこととか配信のこととかについても誰かに相談したかったし、招き入れることにしよう。

「仕方ないですね。はい、どうぞー」
「お邪魔するわ。……ね、ねぇ、この鳥ちゃんもふもふしていいかしら……」
「……嫌がらない程度なら大丈夫だと思います」
「やった! えへへ、幻獣ちゃ~ん♪」
『ピ、ピィ……』

 天宮城さんは瞬間移動と言えるくらいのハイスピードで近づき、両手を広げても有り余る巨体を抱きしめて深呼吸していた。
 ドラゴンの時は怖がっていたらしいけど、動物が好きな人なのかもしれない。

 ……そういえば、女性を自分の家に招き入れるのは初めてかもしれない。まさか初がこんな美少女になるとは思わなかったなぁ……。


###


 ―天宮城視点―

 ……咲太君が配信しているダンジョンが近かったからそこに寄って、幻獣ちゃんに乗って帰るのが見えたから付けて来た……って言ったら引かれそうだから言わないでおきましょう。
 幻獣の可愛さに当てられていてもたってもいられなくなり、いきなり男の子の家に突撃するとは非常識だったかも知れない。

 ……さっきも我を忘れて鳥ちゃんに抱きついてしまったし……。少し恥ずかしい。

「(……というか、男の子の家に上がるの初めてね)」

 しかし、妙な感覚が肌にまとわりついている。魔力が体に染み込んで行くような……まるでがする。

「不思議な雰囲気ね」
「そうですか? あー、まぁ僕の家ダンジョンと同化してるので」
「そうなのね。……はぁっ!? どういう――」
「みんなただいまー」

 驚きを隠しきれない私と、何も気にすることなく奥に進んで行く咲太君。
 彼の家は大きな洋風の一軒家で、蔦が蔓延っていてダンジョンに似た雰囲気だなぁと思っていたけれど……。なんで引っ越さないの!!?

「あ、水入れ空になってる……。すみません天宮城さん、冷蔵庫の水取ってくれませんか?」
「え、あ、わかったわ……」

 隈なく内装を見る暇もなく、誘導されてキッチンの方に向かう。咲太君は水入れを洗っていたので、私も言われた通り冷蔵庫を開けて水を探す。
 冷蔵庫の中はとても綺麗だったのですぐに水を見つけられた。しかしそれに手を伸ばすと、私の手に違和感が生じる。

 ――もふっ……。

「……え……」
『ぴよぴよ』
『ぴー?』
『ぴぃ!』

 私の手には、なぜか。白色と空色の体色で、つぶらな瞳が私をジッと見つめる。
 あまりの衝撃と可愛さでフリーズしてしまい、冷蔵庫が「早く閉めろ」と言わんばかりにピーッピーッと鳴いていた。

「天宮城さん? どうかしましか?」
「なんっ、な、な、なんで、ぺっ、ペンギンが……?」
「ああ! 実はこの冷蔵庫中古で買ったんですけど、中にこの子達が入ってたんですよ。シラスが好きですよ、可愛いでしょ?」
「いや、コレ……。エ……?」

 家の中をよく見たら、見慣れない生き物がたくさんいることに今更気がつく。
 羽の生えた神々しいヘビに、一本のツノを持つピンク色の馬、猫ほどの大きさの虹色の蝶……他にも沢山。

 私は幼い頃から生き物が好きだ。だから動物はもちろん、魔物も幻獣も、見つかっているものは全種覚えている。
 だから言える。これは全て――

「ぜ、全部…………。キュウ」
「天宮城さん!?!?」

 脳の処理が追いつかず、私は意識を手放して床にひれ伏した。
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