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第1話
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――遥か辺境の地の崖下。
そこには、一夜にして世界を焦土と化すほどの力を持つ〝深淵の邪神〟が住み着いていると噂されていた。神々の力でこの地に封印されていると、はるか昔から伝わっている……。
そう、それこそが俺だ。
名前はニーグリ。見た目は白髪で紫色の目という人間そのものだが、れっきとした邪神である。頭の上に欠けた黒色の輪っかがあるし、右目の下に紫色の紋様がある。
この人間となんら変わりない見た目だが、力は強い。ウゴウゴしてどす黒い化け物みたいな見た目より、人間に近しい姿の方が力が上なのだ。
そんな俺が住居としているこの崖下……もとい深淵で今日も今日とてゴミ拾いをしていた。
「でかい谷だから下にゴミが溜まるんだよなぁ……。引っ越しを検討したい。……ん?」
ゴミを拾い集めていると、何やら上の方から気配がした。上をよく見つめてみると、また何かが降ってきていたのだ。
またゴミかと思っていたのだが、目の前に落ちる直前に目が合った。
「ッ!? 【空間固定】!!」
瞬時に手をナニカに照準し、奇跡を使用した。
奇跡とは、神々が持つ特殊能力のようなものだ。選ばれし人間や眷属になった人間はスキルを一部拝借できるとかなんとか。
今はそんなことどうでもいい。
落下してきたものを停止させ、俺はゆっくりそれに近づいて話しかける。
「ぅ…………?」
「大丈夫か?」
落下してきたのは人間。ボサボサな黒髪に、その前髪の隙間か荒んだ青い瞳が見えた。見た目の特徴が知人に似ており、少し心臓が跳ねる。
しかし、手足が縛られているし、全身痣だらけなので、お世辞にもまともな暮らしをしているとは言い難い姿だ。
「あ、あなたは……?」
「俺は邪神のニーグリだ。人間はこの谷に近づくなと言い聞かせたつもりだったのだが、なぜ落ちてきた?」
「それは……深淵の邪神様がお怒りになって地上が荒れ果てたので、怒りを収めるために私が生贄に選ばれたからでございます」
「怒り? 凶作?? 生贄???」
深淵の邪神(俺)は地上になんの害ももたらさない。なので逆に俺に干渉をすることはやめてくれという契約を結び、結界を張った。
俺が怒ったことないし、地上を荒らしてないし、生贄くれだなんて言ったことない。なぜこのようなことが起きてしまっているのだろう。
ゔーんと俺は唸り、思考を巡らせる。そして一つの結論にたどり着いた。
(一回地上に出て契約をもう一度結び直そう。そんでこの子も返してやろう)
前回地上に現れたのは数百年前だし、契約のことが忘れられてしまっている可能性がある。それも踏まえ、これを実行するとしよう。
……この少女がボロボロなのが気になるしな。
「俺は生贄をもらって地上に干渉することはない。だから今回は特例として地上に返してやる。さ、善は急げ。レッツゴー!」
「ぇ……い、いや……です。戻りたくないです!! いっそのことここで殺してください……!」
「えっ?」
今まで淡々と言葉を述べていた少女だったが、僕が提案をした途端に感情を露わにした。
カタカタと歯を鳴らし、体を震わせ、顔が絶望一色に染まる。邪神を前にしても動じなかったが、『返す』と言ってこの反応だ。村で何があったんだ……。
「……とりあえず、理由聞かせて欲しい。なぜそんなに戻りたくないんだ? 話したくないかもしれないが、頼む」
「わかり、ました」
震える体を抑えて、少女は話し始める。
「実は……私、村では〝忌み子〟として扱われていて……。魔物の解体や死体処理なんかをやらされてて、ボロボロの家に石を投げられるし、燃やされるし、もうあそこには帰りたくないんです……!」
「そんなことが……」
黒髪ということだけで忌み子とされることは聞いたことがあるが、それだけではないとみた。恐らくはこの少女が孕んでいる膨大な魔力が原因だな。
異質な存在を村人たちは恐れ、距離をとって攻撃をした。……まるで、昔の自分を見ているみたいだな。
「そうだなぁ……」
村に返すつもりだったし、もう人間と関わるつもりなんて毛頭なかった。けど、これは過去の自分の後悔からの行動と、何かしらの縁として行動をしよう。
「なぁ、もし村から自由になるなら、お前は何をしたい?」
「え……。私は……畑を耕したり、牧場を経営してみたり、何もせず一日中ダラダラしてたり……。ゆったりスローライフか送りたいです……」
「……そうか。最後の質問だ、君の名前は?」
「ラズリ、です」
不安げな目で俺を見つめるラズリ。
俺はすうっ、と息を吸い込み、彼女に言い放つ。
「ラズリ、全力でやるぞ――スローライフを!!!」
「え……――ええぇっ!!?」
「にひひっ」
なんとも奇妙な縁だ。
俺こと深淵の邪神は、生贄として捧げられた少女のラズリと、最高のスローライフを送ることを決意した。
そこには、一夜にして世界を焦土と化すほどの力を持つ〝深淵の邪神〟が住み着いていると噂されていた。神々の力でこの地に封印されていると、はるか昔から伝わっている……。
そう、それこそが俺だ。
名前はニーグリ。見た目は白髪で紫色の目という人間そのものだが、れっきとした邪神である。頭の上に欠けた黒色の輪っかがあるし、右目の下に紫色の紋様がある。
この人間となんら変わりない見た目だが、力は強い。ウゴウゴしてどす黒い化け物みたいな見た目より、人間に近しい姿の方が力が上なのだ。
そんな俺が住居としているこの崖下……もとい深淵で今日も今日とてゴミ拾いをしていた。
「でかい谷だから下にゴミが溜まるんだよなぁ……。引っ越しを検討したい。……ん?」
ゴミを拾い集めていると、何やら上の方から気配がした。上をよく見つめてみると、また何かが降ってきていたのだ。
またゴミかと思っていたのだが、目の前に落ちる直前に目が合った。
「ッ!? 【空間固定】!!」
瞬時に手をナニカに照準し、奇跡を使用した。
奇跡とは、神々が持つ特殊能力のようなものだ。選ばれし人間や眷属になった人間はスキルを一部拝借できるとかなんとか。
今はそんなことどうでもいい。
落下してきたものを停止させ、俺はゆっくりそれに近づいて話しかける。
「ぅ…………?」
「大丈夫か?」
落下してきたのは人間。ボサボサな黒髪に、その前髪の隙間か荒んだ青い瞳が見えた。見た目の特徴が知人に似ており、少し心臓が跳ねる。
しかし、手足が縛られているし、全身痣だらけなので、お世辞にもまともな暮らしをしているとは言い難い姿だ。
「あ、あなたは……?」
「俺は邪神のニーグリだ。人間はこの谷に近づくなと言い聞かせたつもりだったのだが、なぜ落ちてきた?」
「それは……深淵の邪神様がお怒りになって地上が荒れ果てたので、怒りを収めるために私が生贄に選ばれたからでございます」
「怒り? 凶作?? 生贄???」
深淵の邪神(俺)は地上になんの害ももたらさない。なので逆に俺に干渉をすることはやめてくれという契約を結び、結界を張った。
俺が怒ったことないし、地上を荒らしてないし、生贄くれだなんて言ったことない。なぜこのようなことが起きてしまっているのだろう。
ゔーんと俺は唸り、思考を巡らせる。そして一つの結論にたどり着いた。
(一回地上に出て契約をもう一度結び直そう。そんでこの子も返してやろう)
前回地上に現れたのは数百年前だし、契約のことが忘れられてしまっている可能性がある。それも踏まえ、これを実行するとしよう。
……この少女がボロボロなのが気になるしな。
「俺は生贄をもらって地上に干渉することはない。だから今回は特例として地上に返してやる。さ、善は急げ。レッツゴー!」
「ぇ……い、いや……です。戻りたくないです!! いっそのことここで殺してください……!」
「えっ?」
今まで淡々と言葉を述べていた少女だったが、僕が提案をした途端に感情を露わにした。
カタカタと歯を鳴らし、体を震わせ、顔が絶望一色に染まる。邪神を前にしても動じなかったが、『返す』と言ってこの反応だ。村で何があったんだ……。
「……とりあえず、理由聞かせて欲しい。なぜそんなに戻りたくないんだ? 話したくないかもしれないが、頼む」
「わかり、ました」
震える体を抑えて、少女は話し始める。
「実は……私、村では〝忌み子〟として扱われていて……。魔物の解体や死体処理なんかをやらされてて、ボロボロの家に石を投げられるし、燃やされるし、もうあそこには帰りたくないんです……!」
「そんなことが……」
黒髪ということだけで忌み子とされることは聞いたことがあるが、それだけではないとみた。恐らくはこの少女が孕んでいる膨大な魔力が原因だな。
異質な存在を村人たちは恐れ、距離をとって攻撃をした。……まるで、昔の自分を見ているみたいだな。
「そうだなぁ……」
村に返すつもりだったし、もう人間と関わるつもりなんて毛頭なかった。けど、これは過去の自分の後悔からの行動と、何かしらの縁として行動をしよう。
「なぁ、もし村から自由になるなら、お前は何をしたい?」
「え……。私は……畑を耕したり、牧場を経営してみたり、何もせず一日中ダラダラしてたり……。ゆったりスローライフか送りたいです……」
「……そうか。最後の質問だ、君の名前は?」
「ラズリ、です」
不安げな目で俺を見つめるラズリ。
俺はすうっ、と息を吸い込み、彼女に言い放つ。
「ラズリ、全力でやるぞ――スローライフを!!!」
「え……――ええぇっ!!?」
「にひひっ」
なんとも奇妙な縁だ。
俺こと深淵の邪神は、生贄として捧げられた少女のラズリと、最高のスローライフを送ることを決意した。
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