八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ

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第42話

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 聖眼を持つ者は、膨大な情報量を処理するために脳みそも発達する。森羅万象を見通す瞳と、圧倒的頭脳を用いて、このような才能が開花するとは。
 僕はとんでもないのを生み出してしまったのかもしれないな……。

「カッカッカ! そんな金属の塊を纏った所でたかが知れておる。やめておけ小娘、早死にしたくなければのう」
「そう。じゃあ見せてあげるわ、機械の凄さを」

 そう言ってパワードスーツに乗り、機械を纏う。ガシャンガシャンと音を立てて体にフィットして完全体となった。
 男のロマンをお嬢様が叶えてくれるとは思ってなかったな……。

「イアを返してもらって認めてもらいますよ、義姉さん。……危険な目に晒したくないですが、ここまでやる気ならば存分にやりましょう。シエルお嬢様」
『わかったわ!』

 お嬢様はイアやアイと違って不老不死体質ではない。僕とも違う、普通の人間だ。
 お嬢様を最優先し、イアを奪還し、義姉さんに勝つ。やるしかない。

「よい、ではやろうか。……しかしこうも平坦な土地で戦ってもつまらんのう。地形を変えよう」

 アイは拳を振り上げ、地面に向かって叩き落とす。すると大地が割れ、隆起し、凸凹の地形に変形した。
 お嬢様は背中から青いジェット噴射で飛行している。正直言ってカッコいい。僕だって男だからそう思う。

 一旦振り払い、【無限収容ストレージ】から刀を取り出してアイに向かって一直線に向かう。

「〝弐式にしき炎月えんげつ斬り〟!」
「おっと! よい刀術じゃなぁ、ヒリヒリするわい!」
「手加減したとはいえ片手で生身の刀身止めるとは思ってませんでしたよ!」

 拳で地形を変えたり、僕の刀術をいとも容易く止めるあたりから、やはり本当に異端な存在らしい。
 けど、負けてませんよね、お嬢様。

『機関銃、問題なしクリア。発射するわよ、アッシュ離れて!』
「ッ!? 【縮地】!」
「ほう……」

 ――ズガガガガガガガガガ!!!!

 僕が瞬時に離れると、彼女の右腕についているものから無数の弾丸が放出される。スピードが速すぎるあまり、線が伸びているようにも見える。
 あまりにも容赦がないその姿に若干引いている。

「カーッカッカァ! 面白いのう!! じゃがその様子からして近づかれたら困るんじゃろ!!?」
『……っ! ジェット噴射! ロケット発射!!』
「ふん、ちょこまかと」

 銃の雨を全部拳で弾き、さらに前進してお嬢様に急接近する。拳を振るうが、背中についている噴射口が90度回転して横に移動した。隆起した地面に姿を隠しながら、さらに肩からロケットを発射して炸裂させる。

「お嬢様の成長を感じられて感激ですね。僕もちょっと……本気出すかぁ。【武器付与ウェポンエンチャント:しろ】」

 【皓】。反対の魔術である【くろ】で取り込んだものを放出、顕現することができる魔術。それの付与は無限の付与と等しく、空間をも切断できる。
 イアの姉のことだから、同じく不老不死体質だろう。上半身と下半身が別れてもまぁ問題ないだろうし、いいだろう。

「〝弐式壱纏にしきいってん火焔光かえんこう〟!!」

 煙の中のアイを完全に捉えた。僕に気がついて少し瞠目させている。完全に取ったと思ったが……。

「覇ッ!!!」

 絶対に切れるはずの刀が、拳に弾かれた。
 怯んだ隙を見逃さず、僕に追撃をかけて拳を振るってくる。

「空間切断か! やるようじゃのう。じゃが儂は破壊神ぞ? 空間を破壊することなど造作もないわ!」

 なんと、拳で刀を受け止めていた。魔王ノクテムの冥滅拳に似ているが、僕はこの時こう思った。……某ヒゲ海賊団の能力じゃねぇか!
 アイには絶対伝わらないから心の中で叫ぶ。

 それにしても厄介だ……。特異者イレギュラーとかいう称号を与えられただけの実力がここまでとは。

 なんとか拳を刀で捌いているものの、体のブランクがまだ直っちゃいないからほぼ同レベルの戦いだ。
 捌ききれずに被弾した箇所からは血が止まらない。これも特殊な破壊の影響だろうか。

「儂の拳をほぼ全て捌くとはやるのう! じゃがなぜもっと魔術を使わん! 舐めておるのか!」
「ケホッ、舐めてませんよ……! 隙を伺ってただけですから。今みたいなね。【囚時アイスオブザワールド】」

 対象の動き……というか、対象の時間を止める魔術。アイは一瞬ピタリと静止するが、拳がそれを許さない。
 拳が魔術そのものを破壊して再び動き始める。

「カッカッカ! 効かぬわぁ!!」
「いいや……僕に視線を向かせることが大事だったんでね。――お嬢様!」

 僕とアイが戦った時間は数秒に過ぎない。しかし戦闘中はその数秒が大事になってくる。
 そんな大事な時間の中、ただ呆然と突っ立ってたわけがないよな。

『ロックオン。充填完了フルチャージ……! 穿って頂戴――〝電磁砲レールキャノン〟!!!』

 お嬢様のパワードスーツの両腕が合体し、巨大な大砲のような形になっている。銃口からはバチバチとイナズマが飛び出ていた。
 アイが気づいた時には銃口の光が臨界点に達しており、そこから音を置き去りにするほどのスピードで発射される。

「っ!!」

 アイは外套で身を包んで身を隠す。

『っ……! 自動追尾システムが!!』
「カッカッカ! 惜しかったようじゃなお嬢ちゃん!!」

 外套で身を包むことで急所への直撃を避けたわけだ。流石に不老不死体質、幾千もの戦いをしてきたであろう猛者だ。
 頰から血をたらりと垂らすアイは、お嬢様の元に移動して拳を振るう。

『……私は、のよ、武器をね!!』
「あぁ? なんじゃと? ――はっ!」
「確かに受け取りましたよお嬢様。拳にフィットする武器を」

 電磁砲レールキャノンはあくまでも囮。それを発射する際、遠回りをして僕にを届けていたのだ。
 僕の右腕には、お嬢様と同じような機械がまとわりついている。随分と重量があるが、後ろに向かってジェット噴射が行われていて、すぐにアイの目の前に来ることができた。

「これは……舐め過ぎてたかのう……」

 俺の拳はアイに直撃……――することなく、懐から何かを奪うだけだった。

「イアは、返してもらいましたよ」
「……! カッカ、妹が惚れた理由が、なんとなくわかったのう。あ゛~、儂の負けじゃ。負け負け」

 イアが囚われている魔道具を奪い返すと、驚いた顔をして笑い、臨戦状態を解除した。

「はぁ……なんとか勝てたか。お疲れ様です、お嬢様。ナイスバトル」
『初出動が異端者イレギュラーとは思わなかったけど、まあ良しとするわ。お疲れ様!』

 パシッとハイタッチをし、無事勝利を収めた。
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