33 / 44
第33話
しおりを挟む
映画館(?)に到着した僕らは、早速中に入った。
「随分簡素なものだな……。日本とは大違いだ」
スクリーンは一つ、椅子は木製、食べ物を販売する場所も無いし……。あまり期待はできそうにないな。
不服そうな顔をしている僕に対して魔王様は目をキラキラとさせており、無邪気な子供を見ているようだった。
「それで、今日見るのはどんなやつなんですか」
「わからんな、まぁ見ればわかるだろう」
僕と魔王様だけが座るこの薄暗い映画館の中で、静かにスクリーンに映し出され映像をただ眺め続けた。
内容は魔界ジョークがふんだんに込められたコメディ映画だった。
「ふわ……」
僕は娯楽がありふれた世界を一時期旅をしたんだ。引きこもりの僕が、鮮やかすぎる世界を見た。だからこっちの世界も捨てたもんじゃないかと思って、辺境の地の田舎から王都に出た。
出たのだが……やはり、王都も魔界も、この世界はまだだいぶ遅れているらしいな。師匠と旅した深淵世界の方が刺激的だ。
欠伸を何度をしながら、なんとかして目を開けてスクリーンを見つめ続けている。
横でテンションが上がっている魔王様が、一旦落ち着きを取り戻して背を椅子に預けた。そして、肘掛に手を乗っける。
「あっ」
「ん?」
最初から肘掛に腕を乗っけていた僕に触れた。
「あ、えっと! そのだな……」
「落ち着けノクテム。映画館では静かに、な。シィーッ……」
「ひゃ、ひゃい……」
あと少しで寝れそうなのだ、騒がれたら困る。
僕は少し強い言葉で魔王にそう言い放ち、陸に上がった魚のように跳ねようとし始める手をギュッと握った。
「……ぅぅ!」
魔王は顔を茹で蛸のように真っ赤にし、頭から湯気を放出している。手から感じる熱は中々に心地良く、僕は魔王の手を握ったまま眠りに落ちた。
###
無事に初上映が終了し、薄暗い空間は明るくなった。そのせいで起こされる。
「ん……」
思っきし爆睡してしまった。だがまぁ、映画の内容以前に改良したほうがいい点は多々あるから、レポートは大丈夫だろう。
「あ、すみません魔王様。内容全然見てないです」
「ぁ……うん……わ、我も途中からあんまり覚えてない……」
借りてきた猫みたいにおとなしい魔王様。
そういえば手を繋いでいたままだったが、そのせいでこんなことになってしまっていたらしいな。
「すみません魔王様、今すぐ離――」
「い、いいから次に行くぞ! 食事処だ!」
「あ、ちょ、魔王様!?」
魔王様に手を引かれて映画館を飛び出す。その横顔はどこか楽しそうで、幸せそうに見えた。
何がそんなに楽しいのやら……。
楽しそうな魔王様に免じて、僕は何も言わずに食事処まで手を引かれ続けた。
「食事処の調査って言ってましたが、なんで調査をするんですか?」
「今から向かう所は最近売り上げが急増しているところでな。違法な物を使用していないか、悪質な商売をしていないか、その他諸々を調べるため故だ」
「成る程。だからさっき、魔術で変装してたんですね」
店内に入る前、変装を予めしておいて魔王だとバレないような姿となっている。僕もさっきの騒動で顔が知れ渡っている可能性があるので変装している。
二人で席に着き、メニュー表を確認する。
「ふむ……。これといって高額な料理は無い、アレルギー面の配慮も問題無し、違法な食材も問題なさそうだな」
「じゃあ一旦、好きなもの頼みますか? 店員の対応なども見たいですし、昼時で小腹も空いてますし」
「うむ、そうしよう。すまん、注文したいのだがー!」
僕は肉の定食、魔王様はバランスのとれた料理を頼んだ。
店員の対応は良し。時間もあまりかけず、すぐに料理が僕らのもとに運ばれてきた。
「味も良いですね。(イアには流石に劣るけど……)」
「うむ! 美味いな! ……し、しかし、アッシュのも美味そうだな……」
「……じゃあ一口どうぞ」
「ふぇっ!!?」
フォークで肉を刺し、魔王様の口元にそれを近づける。
あわあわし始め、遠慮しようとするが食べたい気持ちもある、そんな葛藤の顔を浮かべていた。だが最終時に、覚悟を決めてパクリと小さな口で食べた。
「ぅ、ぅむ……おいひい……。わ、我だけ食べるのもアレだから……ほれ、我のもやるぞ」
「ありがとうございます。んー……美味しいですね」
「あ……そ、それは良かった」
「けどこれ、あーんして間接キスですねぇ?」
「~~っっ!?!? な、なななななっ、何を言うかあっしゅ!!!」
ニヤニヤと笑いながら僕が事実を述べると、思い通りに面白い反応をする魔王様。叩けば鳴るオモチャみたいでとても面白い。
しっかし……魔王とは思えないほどうぶだなぁ。
その後も、からかい甲斐のある魔王様と共に食事を一緒にするのであった。
「随分簡素なものだな……。日本とは大違いだ」
スクリーンは一つ、椅子は木製、食べ物を販売する場所も無いし……。あまり期待はできそうにないな。
不服そうな顔をしている僕に対して魔王様は目をキラキラとさせており、無邪気な子供を見ているようだった。
「それで、今日見るのはどんなやつなんですか」
「わからんな、まぁ見ればわかるだろう」
僕と魔王様だけが座るこの薄暗い映画館の中で、静かにスクリーンに映し出され映像をただ眺め続けた。
内容は魔界ジョークがふんだんに込められたコメディ映画だった。
「ふわ……」
僕は娯楽がありふれた世界を一時期旅をしたんだ。引きこもりの僕が、鮮やかすぎる世界を見た。だからこっちの世界も捨てたもんじゃないかと思って、辺境の地の田舎から王都に出た。
出たのだが……やはり、王都も魔界も、この世界はまだだいぶ遅れているらしいな。師匠と旅した深淵世界の方が刺激的だ。
欠伸を何度をしながら、なんとかして目を開けてスクリーンを見つめ続けている。
横でテンションが上がっている魔王様が、一旦落ち着きを取り戻して背を椅子に預けた。そして、肘掛に手を乗っける。
「あっ」
「ん?」
最初から肘掛に腕を乗っけていた僕に触れた。
「あ、えっと! そのだな……」
「落ち着けノクテム。映画館では静かに、な。シィーッ……」
「ひゃ、ひゃい……」
あと少しで寝れそうなのだ、騒がれたら困る。
僕は少し強い言葉で魔王にそう言い放ち、陸に上がった魚のように跳ねようとし始める手をギュッと握った。
「……ぅぅ!」
魔王は顔を茹で蛸のように真っ赤にし、頭から湯気を放出している。手から感じる熱は中々に心地良く、僕は魔王の手を握ったまま眠りに落ちた。
###
無事に初上映が終了し、薄暗い空間は明るくなった。そのせいで起こされる。
「ん……」
思っきし爆睡してしまった。だがまぁ、映画の内容以前に改良したほうがいい点は多々あるから、レポートは大丈夫だろう。
「あ、すみません魔王様。内容全然見てないです」
「ぁ……うん……わ、我も途中からあんまり覚えてない……」
借りてきた猫みたいにおとなしい魔王様。
そういえば手を繋いでいたままだったが、そのせいでこんなことになってしまっていたらしいな。
「すみません魔王様、今すぐ離――」
「い、いいから次に行くぞ! 食事処だ!」
「あ、ちょ、魔王様!?」
魔王様に手を引かれて映画館を飛び出す。その横顔はどこか楽しそうで、幸せそうに見えた。
何がそんなに楽しいのやら……。
楽しそうな魔王様に免じて、僕は何も言わずに食事処まで手を引かれ続けた。
「食事処の調査って言ってましたが、なんで調査をするんですか?」
「今から向かう所は最近売り上げが急増しているところでな。違法な物を使用していないか、悪質な商売をしていないか、その他諸々を調べるため故だ」
「成る程。だからさっき、魔術で変装してたんですね」
店内に入る前、変装を予めしておいて魔王だとバレないような姿となっている。僕もさっきの騒動で顔が知れ渡っている可能性があるので変装している。
二人で席に着き、メニュー表を確認する。
「ふむ……。これといって高額な料理は無い、アレルギー面の配慮も問題無し、違法な食材も問題なさそうだな」
「じゃあ一旦、好きなもの頼みますか? 店員の対応なども見たいですし、昼時で小腹も空いてますし」
「うむ、そうしよう。すまん、注文したいのだがー!」
僕は肉の定食、魔王様はバランスのとれた料理を頼んだ。
店員の対応は良し。時間もあまりかけず、すぐに料理が僕らのもとに運ばれてきた。
「味も良いですね。(イアには流石に劣るけど……)」
「うむ! 美味いな! ……し、しかし、アッシュのも美味そうだな……」
「……じゃあ一口どうぞ」
「ふぇっ!!?」
フォークで肉を刺し、魔王様の口元にそれを近づける。
あわあわし始め、遠慮しようとするが食べたい気持ちもある、そんな葛藤の顔を浮かべていた。だが最終時に、覚悟を決めてパクリと小さな口で食べた。
「ぅ、ぅむ……おいひい……。わ、我だけ食べるのもアレだから……ほれ、我のもやるぞ」
「ありがとうございます。んー……美味しいですね」
「あ……そ、それは良かった」
「けどこれ、あーんして間接キスですねぇ?」
「~~っっ!?!? な、なななななっ、何を言うかあっしゅ!!!」
ニヤニヤと笑いながら僕が事実を述べると、思い通りに面白い反応をする魔王様。叩けば鳴るオモチャみたいでとても面白い。
しっかし……魔王とは思えないほどうぶだなぁ。
その後も、からかい甲斐のある魔王様と共に食事を一緒にするのであった。
46
お気に入りに追加
828
あなたにおすすめの小説
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?
ノデミチ
ファンタジー
ゲームをしていたと思われる者達が数十名変死を遂げ、そのゲームは運営諸共消滅する。
彼等は、そのゲーム世界に召喚或いは転生していた。
ゲームの中でもトップ級の実力を持つ騎団『地上の星』。
勇者マーズ。
盾騎士プルート。
魔法戦士ジュピター。
義賊マーキュリー。
大賢者サターン。
精霊使いガイア。
聖女ビーナス。
何者かに勇者召喚の形で、パーティ毎ベルン王国に転送される筈だった。
だが、何か違和感を感じたジュピターは召喚を拒み転生を選択する。
ゲーム内で最弱となっていたテイマー。
魔物が戦う事もあって自身のステータスは転職後軒並みダウンする不遇の存在。
ジュピターはロディと名乗り敢えてテイマーに転職して転生する。最弱職となったロディが連れていたのは、愛玩用と言っても良い魔物=ピクシー。
冒険者ギルドでも嘲笑され、パーティも組めないロディ。その彼がクエストをこなしていく事をギルドは訝しむ。
ロディには秘密がある。
転生者というだけでは無く…。
テイマー物第2弾。
ファンタジーカップ参加の為の新作。
応募に間に合いませんでしたが…。
今迄の作品と似た様な名前や同じ名前がありますが、根本的に違う世界の物語です。
カクヨムでも公開しました。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる