八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ

文字の大きさ
上 下
30 / 44

第30話

しおりを挟む
『舐めた口をォ……ッ! 嬲り殺しにしてやるッッ!!!』

 ブーンと羽音を立てながら、猛スピードで僕に突進してくるベルゼデウス。手に持つ槍で串刺しにするつもりだろうか。
 流石は魔王軍幹部の四天王といったところか、まあまあなスピードを出している。だが、僕から見れば遅い。

「よっ」
『チッ!!』

 闘牛士が赤い布で牛をいなすように、ベルゼデウスの突進を軽々と避けた。ギュンッと旋回してまた突進、避ける、旋回、突進……と、延々と続けるのも飽きたので、反撃することにした。
 【無限収納ストレージ】から木刀を取り出し、構える。

「バッター、5番、アッシュ」
『まぐれで避ける雑魚が! 次こそは串刺しにィッ!!!』
「せ~のッ!!!」

 ――カキィィィンッ!!!

『グギャッ!?!?』
「ククク、いい音が鳴ったな」

 ベルゼデウスはスイングした木刀に見事ヒットし、魔王城の壁に激突してめり込んでいた。
 この音には流石の魔王様も唸っていた。

『ギ、サマ……! コケにしやがって! 大罪を司る者のみ使える魔術を貴様に見せてやる!!!』
「へー、じゃあ撃てばよかったのに。これで弱かったら笑ってあげますよ?」
『舐めるなァ!! 〝数多の物を喰らい尽くせ〟――【暴食グラトニー】!!!!」

 腕から巨大で黒い顎門のようなものが放出され、僕を食べようとしてきていた。
 しかしこれは……僕が愛用している【黝】の足元にも及ばない魔術だ。詠唱ありきでこの威力とは、実に可哀想。

「んじゃ、下級魔術でお腹いっぱいにしてやりますよ。【ファイアーボール】×∞」

 集中豪雨のように、火の玉が無限に黒い顎門に降り注ぐ。ファイアーボールの雨は止むことなく、ひたすらにベルゼデウスの魔術を攻撃し続ける。
 最初は余裕そうな顔をしていたベルゼデウスだが、次第にその顔が薄れてゆく。アイツの魔術の威力が減り、とうとう摂取過多で爆発した。

『オレの魔術がッ……下級魔術ごときィに……!!!』
「あっけないなぁ」
『ッ!! しかし……オレにはまだまだ手札がある! 【色欲の魅了ラスト・チャーム】! この場にいるオレより下のメスども、戦えェ!!!』

 広範囲の魅了魔術か……。僕の良心に訴えかけようという魂胆なんだろうけど、ベルゼデウスより下の攻撃なんか効かないけどなぁ。
 ひょいひょいと、魅了されて操られている観衆の攻撃を避ける。しかし、その隙を狙ってベルゼデウスがすぐ横に来た。

『貰ったァ!!!』
「んー」

 ――ズバッ!

 ベルゼデウスの槍先は僕の右腕の付け根を斬り裂く。

『ケヒヒヒヒッッ!! 人間が腕を失えば致命傷ォ! これで価値は確定したぞ間抜けがッ!』
「……いや、普通に考えてこんなナマクラの槍に僕が斬られるわけないっすよ」
『強がるな、実際に斬られ…………はッ!!?』
「物理攻撃はには効かないんですよ」

 ドロドロとした右腕は青い半透明になっており、斬られた部分をすぐさま結合させる。
 僕はシアンをテイムし、さらに心臓を取り込んでいることで、体の一部をスライム化させることができるようになっていたのだ。
 斬らせたのは、油断を誘うため。

「〝参式さんしき大海割たいかいわり〟」
『ヴグァアアアアアーーッッ!!!!』

 木刀を下から上に抜刀する形で振るい、ベルゼデウスの身体を縦半分で斬りつける。

「流石は我が見込んだ男だ、前よりも腕を上げているな」
『ッッ!!!』

 一瞬気絶しかけていたベルゼデウスだが、魔王が僕に感心した様子の声を漏らすや否や、ギリッと歯を鳴らす。
 そして、羽音を立てながら上空へ行き、何かを仕掛け始めた。

『もういい……オレの全てを貴様にぶつける! 平民もろとも消え去れェ!! 【暴食の収束砲グラト・キャノン】!!!!』

 今までで喰った物を全部まとめて放出させるみたいな魔術だろうか。僕は当たっても大丈夫だろうが、ここにいる者は致命傷を負いそうだな……。
 チラッと魔王様に目を配ると、スッと目を閉じて静かに頷いた。アイツを殺しても構わない、ということだろう。

「実験になってもらおうか、開発した魔術のな……」

 親指と人差し指を立てて手銃の形を作り、ベルゼデウスの方に向ける。混沌とした色の何かを放出するベルゼデウスに対し、僕はただ一瞬だけ、単色な色の力を込める。

「――【奇跡に寵愛されし一撃ロイヤルストレートフラッシュ 】」

 人差し指の先を起点とし、真っ白な光が空間を埋め尽くした。たった一瞬の煌めきは、世界から色を奪う。

『ァ……ガ……この、オレが……』
「ふぅ」

 世界に色が返ってくると、地面にひれ伏すベルゼデウスの姿があった。

「文字通り、奇跡を起こす魔術……。相手を再起不能にし、周囲の者たちの安全の確保し、建物の破壊をしないという、無理難題な条件付け。それが成功したか」

 魔力消費は膨大で燃費が悪いが、切り札として使えるだろう。

「文字通り、させてもらいましたよ、ベルゼデウスさん?」
『ヴ……ヴ……!』
「あ、戦いに疲れたでしょうし、飲み物あげますよ。優しい幹部さんが先程くれた、魔界産の泥水」
『ヴゥ…………!』

 ベルゼデウスの上に座り、見下しながらこいつの顔に泥水をかける。

『す、すげぇ!』
『魔王軍幹部に勝ちやがった……』
『人間すげぇ!!!』
『アッシュって人間やば』
『魔界はこれで安泰だ!』

 民衆の支持もなぜか得られ、無事に魔王軍幹部との戦いは幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...