八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ

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第22話

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 受付嬢から仮の冒険者カードを受け取り、シアンから話を聞くことになった。

「冒険者が仕事したいときはまず、あそこのボードに貼られている紙を見ます。そこで自分に見合った内容や報酬金の多いものなどを確認し、したい依頼クエストの紙を手にとって受付嬢に渡す。と言った具合です!」
「そう考えたら中々自由度が高い……というか、自主性が求められるってわけか」

 件のボードに向かい、ざっとクエストを見比べる。
 魔物退治や薬草採取、さらには家で猫探し。他にもダンジョン探索や素材納品など、言っていたとおり多種多様なクエストがあった。

「早速何か頼んでみますかー?」
「そうだな、せっかくだしお前の修行を兼ねて数個やってみるか」
「わ~いっ!」

 ボードに張り出されている紙を数枚手に取り、受付嬢さんに手渡して受理してもらった。受注したクエストは4つだ。

 1:回復薬の納品。
 2:魔獣の素材納品。
 3:黒顎蟲こくがくちゅうの巣攻略。
 4:不可解な迷路攻略。

 後半二つは『ダンジョン』と呼ばれる、魔王が作った迷路のようなところを攻略するクエストだ。
 ダンジョンからは魔物が大量に発生するので、内部にある心臓部ダンジョンコアを破壊するのが大まかな目的だ。

 魔獣の素材納品は、魔獣を倒すついでにシアンに稽古をつけるといった具合だ。

「まずはどのクエストから行くんですか?」
「そうだな……。シアン、お前は魔術を使うか?」
「はい! 基本的に剣ですけど、魔術も色々使えます!」
「ならまずは黒顎蟲の巣に行こう。そこで魔術について色々教える」
「了解しました! えへへ、修業だ~♪」

 鼻歌まで歌い始めるほどご機嫌なシアン。
 そんなシアンを近づけ、【空間転移テレポート】でギルドを発ち、ダンジョンのすぐ近くまで転移した。

 周囲は木々が全くないが、天にそびえ立つ茶色の三角柱が目に入った。山かと思うほどのコレこそがダンジョンらしい。

「この黒顎蟲の巣というダンジョンはめぼしいものも無いわ魔物の蟻も強いわで早く壊してほしいとのことですよ?」
「ふーん。じゃあ丁度いいな」

 内部を鑑定したところ、数百万という魔物がいることがわかった。ジャイアントアントという巨大な蟻の魔物だが、ここまで多いと気持ち悪い。

「人はいないな……よし。シエル」
「はいっ?」
「一回魔術を見せてくれ。初級魔術でいいから」
「もちろんです! 行きますよ~? 【ウォーターボール】!」

 ポンッと音を立てて水の玉が放出される。
 ただのウォーターボールだが、中々質の良い魔術だ。これだったら教えることは少ないし、すぐ終わりそうだ。

「悔しいが良い出来だな」
「本当ですか!? ボクは褒めると伸びるタイプなのでもっと褒めてください!!」
「……はいはい。ヨーシヨシ、すごいぞシエル、偉いぞシエル」

 『ヒャ~♡』と声を上げ、目を瞑って嬉しそうにするシエル。
 生意気に口答えする奴だったら鬼畜コースにしようと思ってたが、こいつなら大丈夫そうだ。

「今から教えることは予備知識として覚えてもらおう。
 ……まず、魔術はその魔術名を発し、回路を展開することで発生する。だが、その魔術の詠唱をすることで威力が2倍になるんだ」
「に、2倍!? 詠唱でですか!?」
「あぁ。昔は詠唱魔術が基本だったが、今ではそれをする人は限りなく少なくなったらしいけどね」

 詠唱破棄にはメリットがあるが、詠唱することで得られるメリットももちろんある。
 けどまぁ、いかんせん発動までに時間がかかるから使われなくなったというのが主流だろう。

「実際に見た方が早いだろうから、早速見せようか」
「え? ダンジョンに入らないんですか?」
「ん? なんでダンジョンにわざわざ入る必要があるんだ?」
「ん~???」
「まぁいいから見とけって。あと危ないから僕に掴まってて」
「わぷ」

 シアンを抱き寄せた後、そびえ立つ茶色のダンジョンに手をかざしてぶつぶつと詠唱をし始める。

「〝黒絹に咲くは零の華。黒洞々たる万喰の渦、今此処に顕れよ〟。
 壊星魔術かいせいまじゅつ――【くろ】」

 詠唱終了後、ダンジョンのてっぺんに太陽を飲み込むが如く巨大な黒い球体が現れる。その球体は地面を抉り、そしてダンジョンを破壊し、光さえも吸い込み始めた。
 試合の時にイアが見せた【黝】とは比べられないものだ。これが完全詠唱の魔術。

「き、傷つけることすらできないはずのダンジョンが壊された……!!?」

 瞠目させて目の前の光景を見ているシアン。これくらいで驚くとは、本当に魔王を討伐する気があるのだろうか?
 地面は巨大なクレーターが出来上がり、半径一キロ圏内何も無い空間になっている。それだけだ。

「やっぱ数十年間高度な魔術を使わないと腕が鈍るなぁ。シアンは毎日魔術の特訓をするように。今の【黝】だって、きちんと継続して特訓してたら100倍の威力は出たよ」
「ひゃ、ひゃくばいぃ……!?』

 そう思えば、あの試合でよくあそこまで戦えたなぁ。まぁイアも魔王も手加減はしてくれていたみたいだったしな。

 あんぐりと口を開けてドロドロと溶け出すシアンだが、修行は始まったばかりだ。ちゃ~んと修行をしてあげようか……!
 僕の口角が少し上がると、シエルはぶるるっと身震いをした。
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