八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ

文字の大きさ
上 下
13 / 44

第13話

しおりを挟む
「おじゃまします」
「ん、どうぞ」

 空気が薄い山の頂にある一軒家もとい、イアの家にお邪魔した。
 中は一見ゴミ屋敷だが、僕から見たら見事なまでの趣味尽くしといったところか。魔術の文献や本、魔術回路が書き記された紙の束が散乱しているが、全て取りやすい位置に配置されている。
 キッチンは違って綺麗なので、料理が第二の趣味というのは本当らしい。

「作業はここでする」
「……まぁ屋外よりはましか」

 ほとんど見えない床を踏みながら移動した先には小さい机があり、そこが僕の作業場になるようだ。八百長を引き受けていた時の部屋よりは広い机だが、いかんせん落ち着かない。

「んー……家、拡張してもいいけど集中が……」
「そういうのならやめといた方がいいか。これで我慢するよ。……そんで? 僕は何をすればいい」
「自分が思うまま、魔術の研究して」
「……何か手伝わなくても」
「いらない。アッシュの見たい。それで意欲掻き立て」

 この人は新しい刺激を求めて僕をこの家に招いたっぽいな。所謂スランプ期とやらに突入しているのかもしれない。
 好き勝手研究ができるならばありがたいと素直に思った。

「んじゃあ早速やるか」

 紙と愛用しているシャーペン(日本製)を取り出し、今研究している魔術について書き記し始める。
 イアは物珍しさにジーッと僕や紙を見つめては何かをメモしている様子だった。

「アッシュ、質問いい?」
「ん? 別に構わないぞ」

 手を挙げて鼻息を立て、やる気満々といったところか。研究に没頭は出来そうにないな……。助手だし、ちゃんと相手をするのも仕方ないか。

「いきなり魔術回路は描かない?」
「なんも思いつかない時は適当にやったりしてるけど、明確に作りたい魔術がある時はデータを集め、それを分析し、構築と添削を繰り返して作ってるぞ」
「ん、成る程。ちなみに今は何を作ってる」
「【奇跡に寵愛されし一撃ロイヤルストレートフラッシュ】っていう、宇宙規模で因果改変する魔術」
「……世界の均衡壊れる……。けど、一興」

 壊れるくらい恐ろしいものを作り出せる。そんな魔術だからこそ惹かれる。なかなかわかっているじゃないか。
 僕への質問が終わると、自分も椅子に座って羽ペンで紙に何かを書き記し始めた。

 その後も幾度となく質問をされたり、研究中に視線を永遠と送られるのが続けられる。彼女には悪いが、あまり集中はできなかった。
 そして再び質問が投げかけられる。

「そういえば、魔術の腕前はどうやって決まるの?」
「基本的には先天性のものだな。両親がどちらも魔術の腕が秀でていたら、その子は賢者とか呼ばれるほどの腕前だ。賢者同士の子だったら大賢者とかな」
「そうだったんだ」
「僕は魔術があまり得意じゃなかったけど、長寿してるおかげでメキメキ獲得できた感じだ」
「…………」

 この時、僕は知らなかったがイアはとあることを閃いていた。いいや、閃いてしまっていたらしい。

(魔女と呼ばれる偉大な魔術使いの私、そしてそれに並ぶアッシュ。……その子供だったら、私たちの知らない魔術も作れる……!? とても知りたい……未知なる魔術。
 ……よし、やることは決まった。!)
「ッッ!!? なんだかものすごい寒気がした気がしたぞ……」

 そして、僕とイアとの攻防戦が始まるのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...