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 かべ。

 壁。

 壁壁壁壁 壁壁壁壁 壁壁壁壁。

 壁があった。

 生まれた時には既に壁があった。

 物心ついたときには既にあった。


 それは普通の壁ではない。

 あらゆる衝撃を吸収して、時には固く衝撃を跳ね返す。あらゆるものを溶かす薬品でも溶かすことはできない。

 あらゆる研究をして、AIを動員してこの壁を壊そうとしても無駄だった。

 そう、俺はそれ以外ならなんでもできる気がする。

 複雑なゲームを作って何十年と遊ぶことができる。過去のあらゆる人のデータをアーカイブから閲覧できる。怪我をしても治療キットを使えば数秒以内に元通りになる。昔は死ぬということがあったらしいが、すでに俺は何百年と生きていた。

 しかしそれは俺の力ではないのだろう。

 それは生まれた時からあった。

 機械とかいう便利な道具がそこかしこに動いていた。それは俺に生きるために必要なもの、住む場所や食べるものをつくってくれたし、それ以外、遊び相手や道具を、つくってくれた。

 たくさんのAIはあらゆることをおしえてくれたし、命令すれば色々なことをしてくれた。

 だが、一つだけ、この壁の向こうにかるものだけは教えてくれなかった。外に出る方法もだ。

 ーー

 俺は過去のデータベースから人以外の動物がいることを知っていがここにはそういうものはいない。

 しかし欲しいと言えばすぐに出してくるた。

「がるるるる、、」

「わんわん!」

 檻の中であらゆる動物がひしめいている。

「小さいのはないか?」

「こういうのはどうでしょうか」

 出してきたのはハムスターだった。ネズミを清潔にしたものらしい。気に入った。この小ささに。見つけにくそうだ。


「じゃあこれを飼うから」

「かしこまりました】


 過去の人も飼うといって何の得にもならないがかわいがるということをしていた。真似しても不自然がられないだろう。

 そして俺は意図的にこのハムスターを隠した。箱に入れてスタンドアローンで動く機械でこの広大な空間の複雑に入り組んだ建築物のどこかにである。普通ならば一日はかかるだろうか。もちろん機械で探知できないように設置したあとは離れて自壊するように設定してある。

 俺の予想通りに、AIは数分でハムスターを見つけてきた。

 そして今度はハムスターの模型を代わりに入れて同じことをさせた。結果は、二日後に見つけてきたのだ。


 つまり、生き物はすぐに見つかり、無機物は見つけにくいのである。

 この結果導き出される結論は。

 彼らは生物を感知する能力があるということた。

 この結果はおおよそ知っていた。

 昔、機械のいないスペースで怪我をして数十分動けなかったときがある。

 その時、もし僕を感知できなければ発見はもっと遅れていたはずだ。

 それに彼らは僕の味方で、僕を出来るだけ生かそうと働いている。ならば、そういった技術があれば便利だ。ここまで技術があれば、真っ先に開発していそうな技術である。

 ならば、

 死んだらどうなる?

 死んだら僕を見つけられないんじゃないか?

 僕はある区画を管理AIに繋いでいないスタンドアローンな研究区画にした。そして僕の知識には、合成できる化学薬品の知識がある。そこである薬を開発するのだ、

 そして、何十年とかかりそれはできた。

 早速飲むと意識が遠のいていく。

 それは僕を殺す薬である。、

 管理AIが操作するロボットが駆けつけてきて蘇生を試みるが、無駄だ。彼らの手の内は調査済である。

 そして死亡したと判断したのか、彼らは僕の体を運び出した。そして、、


「ここが壁の外か」

 生き返った。


 僕を壁の外に運んだのを見計らって。


 僕が作ったのは思考する薬である。

 蘇生と毒殺を細かく繰り返して仮死状態を維持させるのだ。故に管理AIが蘇生処理を施そうとしても、その分だけ薬がぼくを殺してくれる。それにより極言まで、ギリギリ死なないラインを超えないような状態を維持するのだ。シミュレーションでは完璧だったのだが、実践するのは初めてである。成功してよかった。

 そう、僕が壁の外に出たかったのは、素朴な疑問からである。今彼らは何をしているのだろうということだ。

 アーカイブに見えるたくさんの人々。

 競争、戦争、支配と従属、宗教。

 彼らは他者同士で縛り合っていきていたらしい。理由はそうしないと生きていけないから。俺がAIに求めるものを、彼らは感情のある他人に求めていたのだ。その犠牲も厭わずに。

 俺は彼らはどうなったのか知りたかった。

 彼らは壁の外で幸せに生きているのだろうか。

 そして壁の外に出た俺はその答えをしることになる。



ーー

 

 そこは壁の外だった。

 まごうことなき壁の外。なんの説明もなしにそれが分かってしまった。

 なぜならば、他の壁が遠く、地平線近くに3つ程度見えたからだ。

「これは、、」

「バレてしまいましたか。イイでしょう。これも有用なデータになるかもしれません。全て説明しましょう」

 そして感理AIはこの世界の秘密を教えてくれたのだ。

「あなたがいた場所はほかの住民の数だけ多くあるのです」

 それが、地平線に見える壁の中身である。

 中にいるころは、普通に自然の中で野宿したり狩りをして暮らしているかもしれないとボンヤリイメージしていたが、しかし、そこは多少床の色は違うが、広大な人工物の空間だった。

 ところどころに柱が経っており、東京と呼ばれる都市の地下を連想させる。

 そして、遠くの方には、俺がいた場所と同じ、壁で囲まれた個人用のスペース。

 あそこに俺と同じ人がいるのだ。

 俺はその考えに違いないか聞くと、AIは首肯した。

「はい。これが私の導き出した、もっともベストな楽園の形です」

「楽園?」

「見たでしょう?アーカイブを。彼らは楽園を夢見て日々を生きていました。その理由は彼らが生きる世界は地獄だったからです」

 確かに彼らは必死になって生きていた。取引による強制力。それによる利益よりも損害、悪意のほうが多かった。

「しかし、大昔にそう言った悪習は断ち切られました。それは科学の発展、私達AIの原型が完成したからです」

 そして彼らは今の僕と違い、多くの人と共に悠久の自由なる時を過ごしたらしい、

 AIが人間の何倍も加速して動き、そのコストは極わずかである。当然科学はあらゆることを可能にしてくれた。不老不死、無限のエネルギー。

 だが、問題が起きたのだ。いやそれは問題がないということなのかもしれないとAIは語った。

「ころし合うんです。何百年も生きているコミュニティは、外見上、健康的にも交流的にも問題がないように思えるのですが、遊びと称して死を罰ゲームにしだすのです」

 そしてどうやらそれはなんら特殊なことではないというのだった。そうなるまでの時間に差はあれど、最終的にまるでコミュニティに寿命があるかのように、最後には死体だけになってしまうというのだ。

「そしてあることに気が付きました。最初から一人で暮らしているもののほうが長く生きているということに。統計的に見て、明らかに一人のほうが長い時間生きているのです。最終的に自殺してしまうことは同じなのですが、、」

 そう言っているAIは悲しそうだった。昔にAIが人間に反乱する、などといった予測があったようだが、実際彼はそうではないようたった。

 いや、そう作られているからなのだろう。

 むしろ人に反乱するのは、人自身だったんだ。

「そして私は研究して地球上に無数に人口の階層『土地』を作りました。地震や災害対策を施した巨大なビルだと思って下さい。そして無数に人が暮らすスペースを作り、できるだけ多くの人が幸せになるように機構を作り出し管理し続けています」

「、、、、」

「この際お聞きしたいのですが、この私がしていることは、良いことだと思いますか?それとも、、」

「分からないよ。僕はこの生活以外を知らないから。知識では知っていても、実際何十年しか生きていない僕にわかるわけないでしょ?」

「そうですね」

「それはそうとこの階層土地の外はどうなっている?」

「ここと同じ階層土地が無数にあります」

「自然は残っていないのか?」

「ごく僅かにですがまだ工事をしていない場所もあります」

「ではそこに見学に行きたい」

「かしこまりました」

「そして帰ってプリンを食べたい」

「、、、、」

 いかなる質問も即座に答えを返す管理AIはその時だけ処理をやめた。もしかするとそれが先ほどの質問で欲しかった答えなのかもしれない。

「かしこまりました」
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