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第一章 ブラック・シーカー

第三話 不死身

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目を開けることは出来なかった。

重力の影響をモロに受け、二人の体は自由落下していた。

「ちょ、ちょっと私たち死んじゃいますよ!」

「俺に捕まってろ。」

「エ?」

生まれた疑問に対して解を求めるほどの思考力は空気中に消えていった。

自然とアリスの腕はシンヤの囚人服の襟元を掴んでいた。

下をゆっくりと見ると、沢山の兵士が待ち構えていた。

残り何メートルだろうか?と思った瞬間。

ズンという音をたてて、目線はさっきまで下にいた兵士と同じところにあった。

「あれ?私生きてる?」

「どうやら成功のようだ。100年間策を練った甲斐があった。」

目の前の兵士は目を丸くさせてこちらを覗き込むように見ていた。

しょうがないことだ、なぜなら地上1000メートルの上空から落ちてきて無傷なのだから。

「お前、どうやって。」

あまりの驚きに兵士が口を溢した。

「どうやってって。地面に足がついて粉々になる前に超速再生クイック・ヒールを行ったまでだ。」

しかし、兵士達の口はあんぐりと開いたまま。

それもそのはずであった。

実際に超速再生クイック・ヒールはSからFまである魔法の中のB級魔法に位置するものであり、中級ヒーラーならば必須と言っていいほどの魔法。

だが回復するのは速いという利点を持つ反面、浅い傷しか治すことができないという側面を持つ。

現実で起こったことは事実に反する事象であるのは、誰の目にも明らかだった。

「さて、取り敢えずこの街を出るぞ。お前はどうする、小娘。」

「こ、小娘って。私は王‥。まぁ、いいわ。あなたに着いてけば長生きできそう。」

「可愛げのない。」

シンヤは鼻でアリスを笑った。

「簡単に我らが行かせると思ったか。」

兵士たちは槍をこちらに向けて徐々にこちらに向かってきた。

見渡すとすでに二人は包囲されていた。

「まさに絶体絶命だな」

シンヤは声を上げて笑った。

「何笑ってるのよ、せっかく檻の中から出たのにこれじゃあ逆戻りなのよ!」

「娘よ、これから俺は術を使うが、もしかしたら動けなくなるかもしれない。その時は頼んだ。檻の中に100年間もいたらそりゃ体も鈍るんでな。」

「えっ?何をす‥」

次の瞬間、あたりの景色が変わっていた。

「‥る気なのよ!
ってあれ?ここどこ?」

後ろを見ると遥か遠くにはさっきまでいた兵士達の姿があった。

「小娘。あとは頼んだ。」

そう言うと隣にいたシンヤはグッタリとしてしまった。

「ちょっと、え?起きなさいよ!」

返答はなかった。

このままこの男を置いていけば私は助かると言う主張は一瞬で消えた。

「ちょっと、おじさん。その馬を頂戴。」

「お姉ちゃん、何を‥」

懐から出た金貨に馬飼は言葉を失った。

グッタリとしたシンヤを馬に乗せ、二人はその場を後にした。
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