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第一章 銀髪の少女

第二十話 二度目の再開

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 そもそも、俺はどうしてこの世界に来たんだ?

 俺自身がそう望んでいた訳でも無ければ、こんな世界があると知っていた訳でもない。もっとも、こんな非現実的な世界なんて存在しないものだと思っていたのだから。
 だとすると、この世界の何者かによって連れてこられたという考えに至る。それなら何故……。

 ───どうして俺が選ばれたんだ。

 赤髪の女性が俺の事を召喚者と言った時、それが俺の事だと理解するのに時間は掛からなかった。確かに、称号の項目を開いた時に召喚者という表示が存在していた事は知っていた。だが、称号は強者に変えており、ステータスも俺以外の人には正しく表示されないはずだ。
 そんな俺の正体を赤髪の女性は知っている。という事は、まさか彼女が俺をこの世界に呼んだという事なのだろうか。 ……いや、彼女は俺の存在が邪魔だと言っている訳だし。

 ( くそっ、考えるほど分からなくなってくる…… )

 俺は魔物たちにしていたように、赤髪の女性についての詳細が記されたウィンドウを開こうと試みる。そうして目の前に表示された内容を見るに、彼女の名は "テレサ" と言うらしい。種族は魔族と記されており、ステータスの合計値は約三十万ほどだ。確かに以前の門衛のステータスと比較すると異常な高さだと分かる。もっとも、俺を基準としなければの話だが。
 その他の情報はウィンドウに表示されていないため、テレサと俺に何の関係があるのかは分からなかった。

「……どうして、私が召喚者だと分かった?」

 俺は直接その疑問をテレサに尋ねる。すると、俺の問い掛けにニヤリと笑みを浮かべながらテレサは口を開いた。

「少し観察していたのよぉ、召喚者がどんな子なのかってね。そのために、あんたが召喚される場所をちょ~っと弄ったのが私なの。すごいでしょ?」

「つまり、召喚者が表れる事を事前に知ってたのか」

「そういうこと。小さい割に賢いのねぇ」

 いちいちあおってくるのがしゃくに障るが、テレサの話を聞いて頭の中に散りばめられたパズルピースが少しずつ埋まっていく。
 彼女の言い方から察するに、俺を召喚した人物は他に居る。そして、彼女はその召喚の邪魔をした挙句、俺の行動を監視してたという訳だ。そう考えると、ストーカーされてたみたいで少し不快に感じる。

 ( ちょっと待てよ。じゃあ俺が一人でぶつくさ喋ってたり、自分の胸とか揉みまくってた所も見られてた……?)

「そうそう、あんたを見ていて飽きなかったわぁ。たかがスライム相手におどおどしたり、自分の胸を弄ったり~……」

 テレサは大きな自分の胸をポヨンポヨンと揺らし、俺に見せつけてくる。

 ( ……おい、それひょっとして俺の真似? そんな変態みたいな感じに見えてたのか!?)

「うっ、うるさいな! そもそも隠れて監視とかストーカーみたいな事してるのが悪いじゃんか!」

「だぁって、魔王様に命じられたんだもの」

 恥ずかしさのあまり、俺は顔を赤らめつつ文句を吐いた。これに関しては完全に自業自得と言えるだろう。
 それにしても、先程から気になるのがテレサの口にする"魔王様"の存在だ。よくある話で片付けるなら、世界征服とかそういうのが目的なのだろうが。

「その魔王様って、何が目的で……」

 魔王様とやらの存在について聞き出そうと口を開こうとした瞬間───途端に呼吸が出来なくなった。

「さて、お喋りはここまでにしましょう? とは言え、あんたはもう喋る事すらできないでしょうけどねぇ」

 突如として起きた自分の異変に、俺は混乱するばかりだった。テレサはゆっくりと地に降りると、俺の元へと近寄って来る。それはまるで、勝利を確信しているかのような言動だった。

「ぐっ……ぁ……」

 たまらず俺はその場に倒れ込む。苦しさに藻掻もがくものの息が吸えず、徐々に視界は闇に飲まれていく。

 ( これ、まさか……即死系の魔法か何かなのか? もしそうなら、俺はもう…… )

「───さようなら、召喚者のお嬢ちゃん」

 テレサの言葉は、既に俺の耳には届かなかった。

     ◆

 目を覚ましたのは白一色の世界だった。
 そこはまるで、以前にも来たことがあるような……そんな既視感を覚える。

「……あぁ。俺、死んだんだっけ」

 先程までの出来事を思い出し、俺は独り呟いた。

「ん? あれ、声が……」

 俺の口から発せられた声を聞いて違和感を覚える。それは男の、以前の俺の声だった。腕や身体を確認し、そこでふと俺は気付いた。ひょっとして、前にも同じことがあったのでは?
 何も無い白だけの空間、アバターの姿ではない元の姿の俺。どこか既視感のようなものを感じつつ、それでも微かに覚えがあった。俺は一度、此処に来たことがある。此処に居る俺は月島裕斗だ。そしてここにはもう一人、俺以外に居たはず。

「───どこだ、ノーラ!」

 俺はこの空間に居るもう一人の人物の名を呼ぶ。

『目が覚めたのね、月島裕斗』

 すると、何処からか声が辺りに響いた。姿は見えないものの、それは紛れもないノーラの声だ。

「あぁ、寝覚めは悪いけど。……と言うか、今度はちゃんとノーラの声が聞き取れるな」

『きっと、あなたが本当の自分を思い出してくれたから。私の存在を認知できるようになったのよ』

 前にこの世界に来た時は、ノーラが何を言っているのかが聞き取れなかった。それはきっと、既に俺は自分の事をノーラとして認識していたからなのだろう。けれど、今回はちゃんと聞き取れる。ノーラ本人が居ないのは少し残念にも思うが。

「そうだ。あんたには色々と聞きたいこともあるんだけど、その前に……俺はもう、死んだのか?」

 以前は夢の中として此処に訪れた。今回も向こうで意識を失ったから、再び此処に来られたのだろう。

 ( じゃあ、死んで意識が戻らないのなら……俺はずっとこの世界で独りなのか?)

『そうね、あなたの存在は一度死んだ。……けれど、あなたの魂はまだ、そこに残っているでしょう』

「え……? それってどういう……」

 ノーラの言葉に疑問を浮かべていると、突然俺の目の前にはウィンドウが開かれた。

『前に私が授けた力。それがある限りあなたの、月島裕斗の魂は消えることは無いの』

 それを聞いた俺は、夢の中でノーラと出会った時の事を思いだした。

「力……まさか!」

 俺はスキルの項目を開き、その欄の一番下にあった見覚えのないスキルの詳細を開いた。

 スキル【回生の息吹】

〘 対象者が死亡した際に効果が発動する。死亡してから一定時間が経過した後、自動的に対象者を蘇生させる。〙

 それは、知らない間に追加されていたスキル。恐らくあの時、夢の中でノーラが俺に授けた力がこれなのだろう。

 ( それにしても、殺されても生き返るスキルかぁ……。俺としては助かるけど、あまり世話になりたくないな )

「……いや待て。一定時間ってことは……駄目だ、時間が無い! 早くしないと街が……!」

 仮に生き返るとしても、その一定時間というのがどれほど掛かるのか分からない。蘇生するまでの間に、テレサや魔物たちに街が襲われたとなれば意味が無い。

『大丈夫。月島裕斗の魂が離れて、今の身体は抜け殻となっているけど、あなたの代わりに私の魂が宿っているから』

「ノーラの魂……? じゃあ、今あっちに居るのって……」

『ええ、あのデカ乳魔族を足止めしてる最中よ』

 それを聞いて俺は安堵の息を零した。それにしてもデカ乳魔族って……。確かに間違いではなが、ノーラは巨乳を恨むタイプなのだろうか。

「……だ、大丈夫だよ。ノーラもほら、意外と大きいし」

『なっ……! 別に感想なんて聞いてないでしょ、変態!』

 ( 怒られてしまった。女の子に気を遣うのって難しいな…… )

『全く……。ほら、早く向こうで目を覚ましなさい。そろそろ蘇生が始まるはずだから』

「ぁ、……ほんとだ、俺の身体が……」

 気付くと、俺の身体は半透明に透け始めていた。

『私が身体に移ってる時は、あなたの持つ【俊才の補助】のスキルは反映されないから。あくまで時間稼ぎ程度に考えてちょうだい』

 ( あぁ、百倍になっちゃう例のアレね。だとすると、ノーラが身体に移ってる時のステータスは、まんまリバホプでの時と同じになるんだな。……だとしてもステータスの総合値は百万だし、そんなに苦戦はしないかもしれないけど )

「……なぁ、俺が身体に戻ったら……ノーラの魂はまたこの場所に戻るのか?」

『そうよ、私にとっての戻る場所がそこだから』

 言葉から察するに、ノーラはずっと此処で、何も無いこの空間に居たのだろう。
 まだ話したい事は山ほどあるが、俺がこの空間から消えるまでもう時間はないはず。だから、一番伝えたい事だけを告げる。

「また、此処に来るから。そして、次からは絶対に忘れない。此処での出来事を……月島裕斗の存在と、あんたの……ノーラの事を」

『……ええ、待ってるわよ、月島裕斗』

 ノーラの最後に言った言葉を聞き届け、そこで俺の意識は途絶えた───
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