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第一章 銀髪の少女
第十六話 俺と私
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辺り一面全てが白で塗り潰された様な世界、気付くと俺はそんな場所で一人佇んでいた。
「……ここは、どこだ?」
人も居なければ物も無く、壁なんてあるのかも分からない。見渡す限り白ばかりで目が痛くなってくる。何も無い空間を呆然と見渡していると、視線の先に一人の影が見えた。
「あんたは……」
そこに居たのは俺……いいや、違う。
───ノーラが俺の前で佇んでいた。
「じゃあ、今ここに居る俺は……」
自分の腕や身体に目を向け、俺はすぐに理解した。ここに居る俺はノーラではなく、月島裕斗だと。
「……はは。これが元々の身体だったはずなのに、まるで他人の身体に移ったような感覚だな」
俺はそれ程までにノーラの、アバターの身体に馴染んでいた。……いや、そもそもこの身体に未練なんてものが無かったのだろう。今思えば、元の世界に戻りたいと考えた事は一度も無かった。
「さっさと元の世界に帰れ、とでも言いに来たのか?」
こちらをじっと見つめているノーラへ向けて呟くと、彼女は口を開き、何かを言い始める。しかし、声は聞き取れなかった。
「なんだよ? 聞こえないって」
俺がノーラに近付くと、彼女は小さく笑って見せる。
「……あんたは、俺に何を伝えようとしてるんだ?」
そんな彼女の様子に疑問を浮かべながら尋ねると、そっと俺の方に手を伸ばしてくる。反射的に俺も同じく手を伸ばすと、ノーラは俺の手を握った。その瞬間、俺の身体は淡い光に包まれる。
「な、なんだ……これ……」
途端に俺の意識が薄れ始めた。
視界は眩み、徐々にぼやけていく。
『───せめて、あの世界では……』
そんな中で聞こえてきたのは女の子のような声。聞き馴染みのある自分の、ノーラの声だった。
◆
「……ん」
目を覚ました俺は、仰向けのまま呆然とする。
何か、夢を見ていたような気がするのだが……内容を思い出す事が出来ず、暫く天井を見つめていた。
「まぁ、思い出せない夢とかってあまり良いものじゃないって聞くし。別にいいか」
そうして俺は寝具から降りようと布団をめくった。……まぁ、何となく考えていた予想は見事に的中したようで、以前と同じく俺の隣にはレナが眠っていた。
「お~い、もう朝だぞ~……」
頬を何度か突っつくと、レナはもぞもぞと動きながら目を覚ました。
( 何だこの可愛い小動物は…… )
「んゅ……ノーラさま、おはようございます……」
「おはよう、自分の部屋で寝ないの?」
「……ノーラさまの隣に居ると、落ち着くので」
そう言ってレナは腕に抱き着いてくる。すると当然、俺の腕には小さいながらも柔らかな感触が押し当てられる訳で。懐いてくれるのは限りなく嬉しいのだが、この状況は色々とまずい。
( 仮にも俺は男な訳だし、うん…… )
「あれ……ノーラさま、顔が赤いですよ……?」
レナは顔を近づけながら、じっと俺を見つめてくる。これが俗に言うガチ恋距離というものだろうか?
「ま、まだ寝ぼけてるだけだよっ」
直視出来ず、レナから顔を逸らして呟いた。
「そうですか……? じゃあ、もう暫くゆっくりしててください。私はその間に朝食を作りますのでっ」
そう言ってレナは先に寝具から降りた。思えば、最初と比べてだいぶ打ち解けられただろうか。
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。呼んでくれたら向かうよ」
「はいっ。それでは、ごゆっくり」
部屋を後にするレナを見送り、俺は一息ついた。女の子の添い寝で目覚める朝、こればかりは二度目でも慣れないし、俺には刺激が強すぎる。
「……まぁ、俺も身体は女の子なんだけど」
とりあえず、レナが呼びに来るまで多少の空き時間が出来た。
俺はウィンドウを表示させると、スキルの項目を開く。
スキル欄の中には、昨日覚えた【探索】と【居合】が表示されている。一番上には例のチートスキルが表示されているが、とりあえず見る必要も無いのでスルーしておく。
現時点で俺が覚えているらしいスキルはこの三つ、そのうち二つは昨日のうちに覚えたものだ。そしてスキルを覚える条件だが、恐らく俺の経験……つまりは実際に行動に起こすことだと考えた。ステータスやアイテムは引き継げても、スキルや魔法といった "経験" によって覚えるものは、実際に俺自身で試してみないと覚えられないのかもしれない。
( まぁ、現実的に考えると理にかなってるな )
「だとすると、今度また色々と試してみないとな」
街の外へ出向いた時にでも、モンスター相手に試してみよう。また何か新しい発見があるかもしれない。一通りの確認を終え、ウィンドウを閉じようとした時。
「……ん? こんなのあったっけ?」
表示されている三つのスキルより下の欄は、当然のように空白が続いている。しかし、その一番下に一つだけ、見覚えのないスキルが表示されているのが見えた。
そのスキルの名前は───
「ノーラさんっ、朝ご飯の準備が出来ましたよ!」
扉の奥から俺を呼ぶレナの声が響いてくる。
「……ま、後で確認すればいいか」
ウィンドウを閉じ、寝起きの身体を解すように伸びをしたあと、俺も寝具から降りた。
「今行くよ、レナ」
「……ここは、どこだ?」
人も居なければ物も無く、壁なんてあるのかも分からない。見渡す限り白ばかりで目が痛くなってくる。何も無い空間を呆然と見渡していると、視線の先に一人の影が見えた。
「あんたは……」
そこに居たのは俺……いいや、違う。
───ノーラが俺の前で佇んでいた。
「じゃあ、今ここに居る俺は……」
自分の腕や身体に目を向け、俺はすぐに理解した。ここに居る俺はノーラではなく、月島裕斗だと。
「……はは。これが元々の身体だったはずなのに、まるで他人の身体に移ったような感覚だな」
俺はそれ程までにノーラの、アバターの身体に馴染んでいた。……いや、そもそもこの身体に未練なんてものが無かったのだろう。今思えば、元の世界に戻りたいと考えた事は一度も無かった。
「さっさと元の世界に帰れ、とでも言いに来たのか?」
こちらをじっと見つめているノーラへ向けて呟くと、彼女は口を開き、何かを言い始める。しかし、声は聞き取れなかった。
「なんだよ? 聞こえないって」
俺がノーラに近付くと、彼女は小さく笑って見せる。
「……あんたは、俺に何を伝えようとしてるんだ?」
そんな彼女の様子に疑問を浮かべながら尋ねると、そっと俺の方に手を伸ばしてくる。反射的に俺も同じく手を伸ばすと、ノーラは俺の手を握った。その瞬間、俺の身体は淡い光に包まれる。
「な、なんだ……これ……」
途端に俺の意識が薄れ始めた。
視界は眩み、徐々にぼやけていく。
『───せめて、あの世界では……』
そんな中で聞こえてきたのは女の子のような声。聞き馴染みのある自分の、ノーラの声だった。
◆
「……ん」
目を覚ました俺は、仰向けのまま呆然とする。
何か、夢を見ていたような気がするのだが……内容を思い出す事が出来ず、暫く天井を見つめていた。
「まぁ、思い出せない夢とかってあまり良いものじゃないって聞くし。別にいいか」
そうして俺は寝具から降りようと布団をめくった。……まぁ、何となく考えていた予想は見事に的中したようで、以前と同じく俺の隣にはレナが眠っていた。
「お~い、もう朝だぞ~……」
頬を何度か突っつくと、レナはもぞもぞと動きながら目を覚ました。
( 何だこの可愛い小動物は…… )
「んゅ……ノーラさま、おはようございます……」
「おはよう、自分の部屋で寝ないの?」
「……ノーラさまの隣に居ると、落ち着くので」
そう言ってレナは腕に抱き着いてくる。すると当然、俺の腕には小さいながらも柔らかな感触が押し当てられる訳で。懐いてくれるのは限りなく嬉しいのだが、この状況は色々とまずい。
( 仮にも俺は男な訳だし、うん…… )
「あれ……ノーラさま、顔が赤いですよ……?」
レナは顔を近づけながら、じっと俺を見つめてくる。これが俗に言うガチ恋距離というものだろうか?
「ま、まだ寝ぼけてるだけだよっ」
直視出来ず、レナから顔を逸らして呟いた。
「そうですか……? じゃあ、もう暫くゆっくりしててください。私はその間に朝食を作りますのでっ」
そう言ってレナは先に寝具から降りた。思えば、最初と比べてだいぶ打ち解けられただろうか。
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。呼んでくれたら向かうよ」
「はいっ。それでは、ごゆっくり」
部屋を後にするレナを見送り、俺は一息ついた。女の子の添い寝で目覚める朝、こればかりは二度目でも慣れないし、俺には刺激が強すぎる。
「……まぁ、俺も身体は女の子なんだけど」
とりあえず、レナが呼びに来るまで多少の空き時間が出来た。
俺はウィンドウを表示させると、スキルの項目を開く。
スキル欄の中には、昨日覚えた【探索】と【居合】が表示されている。一番上には例のチートスキルが表示されているが、とりあえず見る必要も無いのでスルーしておく。
現時点で俺が覚えているらしいスキルはこの三つ、そのうち二つは昨日のうちに覚えたものだ。そしてスキルを覚える条件だが、恐らく俺の経験……つまりは実際に行動に起こすことだと考えた。ステータスやアイテムは引き継げても、スキルや魔法といった "経験" によって覚えるものは、実際に俺自身で試してみないと覚えられないのかもしれない。
( まぁ、現実的に考えると理にかなってるな )
「だとすると、今度また色々と試してみないとな」
街の外へ出向いた時にでも、モンスター相手に試してみよう。また何か新しい発見があるかもしれない。一通りの確認を終え、ウィンドウを閉じようとした時。
「……ん? こんなのあったっけ?」
表示されている三つのスキルより下の欄は、当然のように空白が続いている。しかし、その一番下に一つだけ、見覚えのないスキルが表示されているのが見えた。
そのスキルの名前は───
「ノーラさんっ、朝ご飯の準備が出来ましたよ!」
扉の奥から俺を呼ぶレナの声が響いてくる。
「……ま、後で確認すればいいか」
ウィンドウを閉じ、寝起きの身体を解すように伸びをしたあと、俺も寝具から降りた。
「今行くよ、レナ」
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